2023.11.27
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【最終回】ミッション:取り組みを進化させ続けろ!

熱血!特養常勤医師1,825日の挑戦 ~特養での穏やかな日常を目指して~ vol.12

       

編集部より

特別養護老人ホームや有料老人ホームをはじめとする高齢者施設は、施設長を経営トップとして、介護職・事務職・看護職・外部機関など多職種の関わりによって日々の業務が進められ、高齢者の生活が保たれています。一方で、多職種が関わるからこそそこで生じる問題もさまざまで、解決には多職種の関わりが必要となるため大きなエネルギーを要することも多いのではないでしょうか。本コラムでは、大阪の特別養護老人ホームで「常勤医師」として働く堀切康正さんに、同施設における5年間の挑戦をつづっていただきます。「入居者様が穏やかに過ごせる施設」を目指し病院から特別養護老人ホームに活躍の場を移した堀切さんは、介護の現場で何を感じ、誰とどのように改革を進めてきたのでしょうか。

 

とうとう最終回となってしまいました。第12 回は、今まで堀切さんが連載で伝え続けてきたことの総まとめです。

どうぞ最後までお読みいただければ幸いです。

 

 

執筆/堀切 康正(社会福祉法人 永寿福祉会 永寿特別養護老人ホーム 永寿診療所 管理医師)

編集/メディカルサポネット編集部

   

              

     

 さて、1年間続いたこのコラム連載も今回で終了です。前回まで11回にわたり、私が自施設で行ってきた取り組みや施設での業務で学んだことについてご紹介してきました。これらの取り組みを行っていく中で、私は様々なことを学びました。現場をより良くしたいと思ってやった行動や何気ない一言が現場を混乱させていることなど、私自身が問題を作っていることが数多くありました。そのような私ですが、取り組みを何回も行うことで大事なことも見えてきました。第12回目の最後のコラムは、5年間介護施設で取り組みを行って、気付いた大事なことをご紹介します。この記事が皆様のお役に立てば幸いです。

            

取り組みを通して学んだ大事なこと

1.眼の前で見えている問題は氷山の一角である

2.取り組みによって新たな問題が生まれる

3.常に進化し続ける

             

1.眼の前で見えている問題は氷山の一角である

 例えば、第2回3回のコラムで、食事形態と水分摂取の問題を扱いました。「食事形態は下げたら戻せなくなるからギリギリのところを攻める」であったり、「水分は誰でも一律1500ml以上飲んだほうがいい」という説に異論を唱えるものです。当初、この問題に取り組み始めた時、現場に何度説明しても変わらないことが不思議で仕方がありませんでした。それが、スタッフに話を聞いていくことで、法人の方針だということが分かりました。

  

また、第6回のコラムで取り上げた食事の時に嚥下を確認していないことについては、そもそも職場の教育システムの中に嚥下を細かく教える体制がありませんでした。

  

 このように、目の前にある問題を解決したいと思ったとしても、根本的な原因にアプローチできないときは全て対症療法となってしまいます。

 「だから、現場で何をやっても無駄なんだ。管理職がそこらの事をちゃんと考えたほうがいい!」

 と、なりがちですが、私がいいたいのはそういうことではなく、氷山の一角であっても、あきらめずに色々な角にアプローチをかけ続けたらいつか氷山の本丸にたどり着ける、ということです。

     

 例えば、法人の方針を変更できるとは最初の頃は到底思えませんでした。しかし、現状に納得ができなかったため、自分の仕事の範疇で変えられるところを一つずつかえていきました。それが食事形態の変更や嚥下マンガの作成、リクライニング車椅子の導入、水分制限の導入といった事でした。これらの取り組みは、氷山の本丸にたどり着くための私なりのあがきでした。そうやって動き続けてた結果、少しずつ状況が変わっていき、最終的には法人の方針を変更してもらえるまでに至りました。

  

 目の前の小さな問題は氷山の一角である。このことを自覚していれば、1つの問題を解決した際に望んだ結果が出なかったとしても、アプローチする方法を変えていくという発想に切り替えられると思います。氷山の本丸を攻略するためには、問題を解決する沢山の経験が必要になってきます。よって、自覚を持った上で、目につく問題点を一つずつ解決していってもらえたらと思います。

          

2.取り組みによって新たな問題が生まれる

 例えば、第6回7回のコラムで、食事介助の際の質を上げるために、嚥下を確認することや咽喉マイクを使うことをご紹介しました。この取り組みによって誤嚥性肺炎を起こす入居者は大分減りました。ここまでの結果は予想できていました。実際に食事介助の質が上がることには、それ以上の効果がありました。終末期の肺炎と言われるような誤嚥性肺炎が起こることなく、嚥下障害がゆっくりと落ちていく人が出てきました。実際に技術が向上したことは喜ばしいことですが、1回の食事介助の緊張感が非常に高い状態になっていました。結果として食事介助するスタッフが「怖い」というようになりました。

   

 私が自施設で看取りを本格的に開始して2年目の頃は、大半のスタッフが不安定期~看取り期の方に慣れていませんでした。そのため「食事介助するのが怖い」と言われることがありました。その時は、知識や経験がないことが原因でしたので、私が安全な食事介助の方法を実演することで、理解してもらい、食事介助を行ってもらうようにしていました。しかし、食事介助の質が上がった結果の「怖い」は、それとは全く状態が異なりました。もう限界までやりつづけた上での「怖い」でした。

   

 この状態を解決するために行ったことは、多職種で行う

 

 

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