2022.12.19
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ミッション:水分摂取目標1500mlをなくそう!

熱血!特養常勤医師1,825日の挑戦 ~特養での穏やかな日常を目指して~ vol.3

熱血!特養常勤医師1,825日の挑戦  ~特養での穏やかな日常を目指して~

  

 

編集部より

特別養護老人ホームや有料老人ホームをはじめとする高齢者施設は、施設長を経営トップとして、介護職・事務職・看護職・外部機関など多職種の関わりによって日々の業務が進められ、高齢者の生活が保たれています。一方で、多職種が関わるからこそそこで生じる問題もさまざまで、解決には多職種の関わりが必要となるため大きなエネルギーを要することも多いのではないでしょうか。本コラムでは、大阪の特別養護老人ホームで「常勤医師」として働く堀切康正さんに、同施設における5年間の挑戦をつづっていただきます。「入居者様が穏やかに過ごせる施設」を目指し病院から特別養護老人ホームに活躍の場を移した堀切さんは、介護の現場で何を感じ、誰とどのように改革を進めてきたのでしょうか。第3回は水分摂取をめぐる2年間の奮闘を振り返ります。一昔前に多くの介護事業所で取り入れられた「1500mlの水分を利用者・入居者全員に摂取していただく」という取り組みは、記憶に新しい方も多いのではないでしょうか。入職後にこの取り組みを目の当たりにし違和感を抱いた堀切さんは、入居者様1人ひとりに適切な水分量を提案する必要性を感じ改革に動き出しました。強制的な水分摂取ではなく、必要な水分摂取をするために堀切さんが見出した方法とはどのようなものだったのでしょうか?

 

執筆/堀切 康正(社会福祉法人 永寿福祉会 永寿特別養護老人ホーム 永寿診療所 管理医師)

編集/メディカルサポネット編集部

 

 

  

飲水量1500ml/日という闇

「イヤだ!もういらない。飲みたくない。お腹いっぱい」

 

私が入職した時、当時介護業界で推奨されていた「おむつゼロ推進運動」を実践するために、1日に1500mlの飲水摂取入居者様全員に促しており、フロアスタッフと水分を飲みたがらない入居者様との間で、毎食「飲んでください」「飲みたくない」という攻防が各フロアで繰り広げられていました。自分で水分摂取できる方は拒むことができますが、会話ができず食事介助を受けている方は目を覆いたくなるような状況でした。

 

「飲みたくない」と頑なに口を閉じる入居者様と、唇のすぐそばにスプーンを添えて待ち構え、隙あらば口の中に入れようとするスタッフ。聞けば、入居者様の自立支援のために施設の方針としてやっていると言います。

 

このように「促す」とは名ばかりの強制的な水分摂取の光景を目の当たりにした私は、率直に「こんな介護は受けたくない」と感じました。果たして、人生の最終章にある方たちにそんな思いをさせてまで水分摂取が必要なのでしょうか?あるとすればどのような効果なのでしょうか?そんな疑問がわいてきました。

 

そこで、参考図書にあたってみると、以下のような効果が書いてありました。

 

・脱水予防

・認知症改善

・便秘予防

 

1500mlの水分摂取をするだけでこのような効果があるならば何とも素晴らしいことですが、果たして本当なのでしょうか?頭の中は疑問でいっぱいになりました。

 

次に私は現場で情報収集を始めました。本当に傾眠傾向の方が水を飲むだけでシャキッと目覚めるのか?便秘の方が下剤を使用せずに排便できるようになるのか?3ヵ月ほど観察した結果は「変わらない」でした。1500ml~2000mlの水分を提供されていた入居者様の誰1人として症状の改善を認めなかったのです。誰も幸せにならない現状に、一刻も早くこの水分摂取の呪縛から解放させようと決意しました。

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