2022.11.22
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ミッション:安全な食事形態に変更せよ!

熱血!特養常勤医師1,825日の挑戦 ~特養での穏やかな日常を目指して~ vol.2

熱血!特養常勤医師1,825日の挑戦  ~特養での穏やかな日常を目指して~

  

 

編集部より

特別養護老人ホームや有料老人ホームをはじめとする高齢者施設は、施設長を経営トップとして、介護職・事務職・看護職・外部機関など多職種の関わりによって日々の業務が進められ、高齢者の生活が保たれています。一方で、多職種が関わるからこそそこで生じる問題もさまざまで、解決には多職種の関わりが必要となるため大きなエネルギーを要することも多いのではないでしょうか。本コラムでは、大阪の特別養護老人ホームで「常勤医師」として働く堀切康正さんに、同施設における5年間の挑戦をつづっていただきます。「入居者様が穏やかに過ごせる施設」を目指し病院から特別養護老人ホームに活躍の場を移した堀切さんは、介護の現場で何を感じ、誰とどのように改革を進めてきたのでしょうか。第2回は嚥下対策に取り組んだ奮闘についてです。施設に入居する高齢者とは切っても切れない嚥下問題。特に誤嚥性肺炎は高齢者の命の危機にもつながります。施設での食事風景に衝撃を受け、目の前にある問題に取り組もうとしたものの、ある壁にはばまれ難航を極めたミッション。解決のきっかけとなったのは、思いもよらない教育ツールでした。今日から始められる嚥下対策について、皆さんの事業所でも考えてみませんか?

 

執筆/堀切 康正(社会福祉法人 永寿福祉会 永寿特別養護老人ホーム 永寿診療所 管理医師)

編集/メディカルサポネット編集部

 

 

  

衝撃!特養の食事風景

今回は、特養での生活の根幹でもある食事に関するミッションに挑んだお話です。これは苦難の連続で数年間の奮闘が続きました。私の悪戦苦闘、七転八起のチャレンジをお読みいただきながら、皆さんの施設における食事形態・介護スタッフの食事の認識について考えるきっかけになれば幸いです。 

 

鼻息荒く「入居者様全員が穏やかに過ごせる施設にする!」と決意して、現場の見学から始めた直後の話です。特養は活気がない方が多くて食事ができる方は少ないだろうと思ってフロアへ足を運んだ私が見た風景は衝撃的なものでした。車いすだったりテーブルに自身で座ったりとそれぞれに違いはあれど、デイルームで一心不乱に食事をする入居者様たちの姿を見て「こんなに元気なのか?!」とその熱気に圧倒されました。

 

特に驚いたのは、寝たきり全介助の方が食事介助されながら食べていることでした。病院では胃ろうや中心静脈栄養を受けている方が多い日常でしたが、ここでは当たり前に食事をしている。全く知らなかった入居者様たちの生活風景はとても新鮮で、その溢れ出るエネルギーに私の心はワクワクしました。

    

       

 

ギリギリを攻めないと負け?!謎に満ちた介護スタッフの食事形態の認識

一方で、その食事風景には多くの問題が顕在化していました。食事中に何度もむせこみながら自力で食事を続けている方、食事介助されているものの1回量が多くて口から食べ物が出てきてしまう方。「このままで大丈夫だろうか?誤嚥性肺炎にはならないのか?」と不安を抱く光景でした。介護スタッフに普段の様子を聞くと「いつもこんな感じで食べている方ですよ」と、特段気にしていない様子で、私は違和感を覚えながらも「これが普通なのかな?」と自分を納得させました。聴診したところ異常はなく、発熱などの症状もなかったので状況を静観していましたが、残念ながら不安は的中し、誤嚥性肺炎になる方が多数いらっしゃいました。

    

その状況を見て嚥下障害対策が必要だと判断し、まずは食事形態の見直しから始めました。一口大の食事で窒息した方は刻み食やムース食に変更し、刻み食でSpO2が下がるような誤嚥を起こした方は、ムース食もしくはペースト食に変更していきました。これら緊急性の高い食事形態の見直しは、スムーズに進みました。しかし、それ以外の状況、例えば刻み食を非常にむせこみながら食べている方の見直しは思うように進みませんでした。看護師や栄養士が「誤嚥や窒息のリスクがあるから変更した方がいい」と介護スタッフに説明しても、彼らは「食べられているから大丈夫」と食事形態を変えることに対して積極的ではありませんでした。その理由はしばらく謎のままでした。

   

謎が解決したのは、スタッフと食事に関する雑談をしている時でした。「食事形態を下げてしまうと元に戻すのは難しい。だからギリギリの食事形態で食べる機能を維持している」という、私とは異なる認識を持っていたことを知り、目からウロコが落ちました

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