2023.05.22
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ミッション:誤嚥を防ごう。新しい道具を使いこなせ! 

熱血!特養常勤医師1,825日の挑戦 ~特養での穏やかな日常を目指して~ vol.7

熱血!特養常勤医師1,825日の挑戦  ~特養での穏やかな日常を目指して~

  

  

編集部より

特別養護老人ホームや有料老人ホームをはじめとする高齢者施設は、施設長を経営トップとして、介護職・事務職・看護職・外部機関など多職種の関わりによって日々の業務が進められ、高齢者の生活が保たれています。一方で、多職種が関わるからこそそこで生じる問題もさまざまで、解決には多職種の関わりが必要となるため大きなエネルギーを要することも多いのではないでしょうか。本コラムでは、大阪の特別養護老人ホームで「常勤医師」として働く堀切康正さんに、同施設における5年間の挑戦をつづっていただきます。「入居者様が穏やかに過ごせる施設」を目指し病院から特別養護老人ホームに活躍の場を移した堀切さんは、介護の現場で何を感じ、誰とどのように改革を進めてきたのでしょうか。

  

第7回は新しい医療機器や、システムなどを導入する際のポイントです。

誰しも慣れたやり方を変えるときには抵抗感を覚えるものですが、情熱をもって新しいものを使いこなし、周囲に利用方法を教え続ける人がいて、スタッフが新しい方法による改善効果を実感できれば、新しい文化を作ることができるでしょう。

  

執筆/堀切 康正(社会福祉法人 永寿福祉会 永寿特別養護老人ホーム 永寿診療所 管理医師)

編集/メディカルサポネット編集部

 

  

  

    

 前回第6回のコラム、「食事介助の質を上げろ」で咽喉マイク導入とそのメリットについて簡単にご紹介しました。今回は、咽喉マイク導入の経過を通して、施設に新しい道具を導入する際の重要なポイントについて解説していきます。皆様の施設で新しいシステムや道具を導入する場合のヒントにしていただけたら幸いです。

   

今回の話のポイントは3つあります。

1.スタッフの立場になって現場を観察する

2.道具の運用を始めたら現場を見に行く

3.常に現場と一緒に作っていく

   

1. スタッフの立場になって現場を観察する

 食形態、食事量、食事中の姿勢といった対策を開始して、誤嚥性肺炎の発生率は下がりました。ただ、食事介助されている方の誤嚥性肺炎の発生率はまだ高い状態でした。その原因を探している時に、スタッフが食事介助されている方の嚥下を確認せずに、次の食事を提供していることが分かりました。(第6回コラムの動画②参照)

   

原因が判明したので、スタッフに対して、喉仏の動きを見て嚥下を確認するように指導を始めました。また、喉仏の動きが分かりにくい人に関しては、触って確認する方法も伝えました。しかし、どの方法も定着しませんでした。

   

定着しない理由は2つありました。①教育の違い②環境の問題です。

①元々、嚥下に注意しながら食事介助をする教育は、施設にありませんでした。おそらく、重度嚥下障害の方は入院していたためだと思います。

②自施設は、食事介助される方も含めて全員がデイルームに出てきて食事を行う体制であり、また慢性的なスタッフ不足がありました。この状況で、ひとりに付き添って、落ち着いて嚥下を確認しながら食事介助を行うことは難しいものでした。

   

ただ、そうしている間にも、感染症後や老衰で食事が取れなくなる方は増え続けました。中には、重度の嚥下障害のためフロアに食事介助を依頼できない方も出てきました。そのような場合、状況が落ち着くまで私や栄養士、看護師で食事介助を継続しました。これは短期的には可能でも、長期的には続けることができない方法です。そのため、重度の嚥下障害の方でもスタッフが安心安全に食事介助できる方法を考える必要がありました。

   

このような教育の要因、環境の要因、入居者の要因を解決できる方法を探しているときに出会ったのが、咽喉マイクでした。

        

2. 道具の運用を始めたら現場を見に行く

 咽喉マイクと出会い、一瞬で惚れこんだ私はスグに一台購入しました。

購入後、初めて現場で咽喉マイクを使用した時は感動しました。スピーカーから聞こえてくる「ゴクッ」という音。「何が起こったんだ?なんの音だ?」とザワザワしているスタッフと入居者たち。フロア全ての人がスピーカーの音に集中していました。その風景を見て、「これなら今ある多数の問題を解決できるし、さらに教育として嚥下の意識付けもできる」と思いました。

   

咽喉マイク購入後、まずは私が使用経験を増やしていきました。適切に指示を出すためには、道具の理解が必要と考えたからです。様々な経験を積んでいきました。そんな中、重度嚥下障害の方で、嚥下までの時間が極端に長い方がいました。

  

  

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