2023.07.03
5

ミッション:終末期の定義を確認しろ!

熱血!特養常勤医師1,825日の挑戦 ~特養での穏やかな日常を目指して~ vol.8

  

  

編集部より

特別養護老人ホームや有料老人ホームをはじめとする高齢者施設は、施設長を経営トップとして、介護職・事務職・看護職・外部機関など多職種の関わりによって日々の業務が進められ、高齢者の生活が保たれています。一方で、多職種が関わるからこそそこで生じる問題もさまざまで、解決には多職種の関わりが必要となるため大きなエネルギーを要することも多いのではないでしょうか。本コラムでは、大阪の特別養護老人ホームで「常勤医師」として働く堀切康正さんに、同施設における5年間の挑戦をつづっていただきます。「入居者様が穏やかに過ごせる施設」を目指し病院から特別養護老人ホームに活躍の場を移した堀切さんは、介護の現場で何を感じ、誰とどのように改革を進めてきたのでしょうか。

  

第8回は、施設での看取りについてです。堀切さんが実際に看取り期のご利用者とそのご家族と接して思ったことや、医療介護者それぞれの思いをどう受け止めるか、悩みながら進んできた道筋について語っていただきます。

堀切さんは、終末期とはいつからなのか、そこから考えることがポイントだと言います。

  

執筆/堀切 康正(社会福祉法人 永寿福祉会 永寿特別養護老人ホーム 永寿診療所 管理医師)

編集/メディカルサポネット編集部

 

  

  

      

 前回までは、嚥下障害の取り組みをご紹介してきました。今回からは施設看取りの取り組みをご紹介していきます。

  

看取りは、プロセスが大事といわれます。厚生労働省から出されている「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」※(注1)は、このプロセスがシンプルにまとめられています。ガイドラインの冒頭に書かれている以下の文章に全てが詰まっています。

「医師等の医療従事者から適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて 医療・ケアを受ける本人が多専門職種の医療・介護従事者から構成される医療・ ケアチームと十分な話し合いを行い、本人による意思決定を基本としたうえで、 人生の最終段階における医療・ケアを進めることが最も重要な原則である。」

   

ただ、「十分な話し合い」と、簡単に書いてありますが、一筋縄で行くものではありません。本人、家族、介護スタッフ、医療スタッフ、それぞれがそれぞれの思いを持っています。施設の場合、認知症のため本人の意志が確認できない場合もあります。その中でそれぞれの思いの落とし所を見つけていき、ひとつの方向性を決めていく必要があります。

   

今回、私が施設で看取りを行った際に非常に悩んだ時のエピソードをご紹介したいと思います。

今回の話のポイントは、「終末期とはいつからか?」です。

  

1. 最善を尽くす治療

 私が病院で働いていた時、治療として最善を尽くすことが使命でした。例えば、入院した高齢患者さんが食事を取れなければ、鼻からチューブ(以下、経鼻胃管)を入れて胃に直接栄養を投与したり、高カロリーの点滴を行っていました。その中で、必要ならば拘束もしていました。全ては治療をして元気になってもらうためでした。

   

高齢者施設で働くようになり、治療のための経鼻胃管、高カロリーの点滴、拘束はやらなくなりました。その環境で、通常の診療から看取りまで行っていきました。施設で対応出来ない方については、病院での入院治療をお願いしました。そういった方が再入所した際、認知症が進行し寝たきりで戻って来くることもありました。施設での経験を積むほど、「治療として最善を尽くすことが、その人にとって本当に良いことなのか?」という思いは強くなりました。

   

その際に参考にした書籍が、石飛幸三先生の書籍「「平穏死」のすすめ」※(注2)でした。この本には、何もしないで看取る、自然に看取る、ということが書かれていました。衝撃的でした。この本で書かれている施設の日常風景は、私の施設とほぼ同じでした。この本は、私の疑問の答えを提示していると確信し、平穏死の考え方を自分の診療に取り込んでいきました。そのように働き方を変えていたところ、ある出来事が起こりました。

        

2. 「施設で看取って下さい」という言葉

 Aさんは、90歳女性。数日前に誤嚥性肺炎を発症したため、施設で抗生剤の点滴治療を行っていました。発症時からバイタルは落ち着いていましたが、超高齢を考えると、今後急変して病院に行くタイミングが来るかもしれないと思っていました。

数日してAさんのSpO2が低下しました。私はAさんに病院受診を勧めましたが、Aさんはしっかりした声で「病院は絶対に行きたくない。」と答えました。すぐに方針を決めるために、家族と面談を行いました。

会員登録されている方のみ続きをお読みいただけます。

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP