2024.04.18
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院内SEが語る、医療DXサバイバル
医療DXを始めるためには?病院事務職に取り組んでもらいたい初めの一歩

       

編集部より

医療機関のDX化が2024年の診療報酬改定にも盛り込まれ、具体的な対応をゆだねられている各医療機関。「医療情報システム安全管理責任者」の専任配置が必要になるなど、この流れは今後も拡大していくと見ています。

本編では病院で情報システム担当・院内SEをしながら自部署の採用も担当する医療情報技師、診療情報管理士小坂佑士さんが、診療報酬改定で求められていることに対する行政支援等をわかりやすく解説します。

今回は、「医療DXを始めるためには?病院事務職に取り組んでもらいたい初めの一歩」です。何から始めればよいのかわからない場合を想定して、まずはざっくりと戦略を考えてみる所からお話いただきます。

 

執筆/小坂佑士 医療法人社団久英会 情報システム担当

 (医療情報技師、診療情報管理士、医療経営士3級、応用情報技術者)

編集/メディカルサポネット編集部

   

   

1.令和6年度診療報酬改定で求められている医療機関DXの具体的な中身

 2024年は診療報酬改定があり、個別項目の具体的な点数も出てきました。どの医療機関も対応をどうするか悩んでいる時期だと思います。とくに今回の改定では、加算名称や施設基準の中に「医療DX」という単語が多く含まれています。今回の診療報酬改定で登場している「医療DX」の具体的な対応としては、「オンライン資格確認」、「電子処方箋」、「電子カルテ情報共有サービス」を利用できる環境を整えることが求められています。この中の「電子カルテ情報共有サービス」については、2024年2月現在において厚生労働省と各社電子カルテの要件定義・機能提供ができていないため経過措置が長めに設定されています。また、今回の診療報酬改定は介護・福祉も含めてトリプル改定と呼ばれています。

 

その他にも働き方改革やベースアップといった労務関係の対応も同時に行われることもあり、診療報酬改定については医療機関やシステム開発業者の負担軽減のため、2024年6月からの施行となりました。少しばかり準備できる時間は伸びましたが、具体的な対応は各医療機関に委ねられています。

 

 近年「医療DX」と呼ばれるようなIT化の対応が医療機関にも求められてきています。それまでは、システム担当者や医療情報担当、SE(システムエンジニア)と呼ばれる職種は病院内に存在していませんでした。今はIT化を進めると同時にサイバーセキュリティ対策や「医療情報システム安全管理責任者」の専任配置を求められるようになってきました。今回の診療報酬改定は診療録管理体制加算の施設基準で200床以上の医療機関でも「医療情報システム安全管理責任者」の専任配置が必要になりました。この流れは今後も拡大していき、そのうち全ての病院で配置が必要になると見ています。しかしながら、現実問題としての労働人口の減少で採用が困難になっています。

 こんな話をしていると、あれもこれもやらないといけない、でもお金もない、人もいないと暗い方向に考えになりがちになってしまいますね。診療報酬改定でいろいろと要求されていますが、対応する行政支援等を整理してみます。何から始めればよいか分からない場合を想定して、まずはザックリと戦略を考えてみるところから話を進めます。中小規模の医療機関に勤める事務職員の力になれれば幸いです。

  

図表1.VUCAのイメージ

図表1 VUCAのイメージ

筆者作成 

    

2.  現代はVUCAの時代

 現代は不確実性の時代、言い換えると想定外の事態が生じるVUCAの時代と呼ばれるようになりました。この「VUCA」とは、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をつなぎ合わせた造語です。図表1にVUCAを説明するイメージを示します。昨今の医療DX、サイバー攻撃、診療報酬改定、働き方改革、個人情報保護法を始めとした各種法令への対応、それらの教育など考えなければならないことは増えるばかりです。実際に事故が発生し大きく報道され、その被害の大きさに戦々恐々とした担当者もいたことでしょう。

 

 経営学の分野では、このように複雑化する時代や市場に対してどのように対応すればよいか様々な手法が考えられてきました。SWOT分析やPEST分析などの内部・外部分析、統計学やビッグデータを用いた各種市場予測を行い、事業ロードマップや将来進むべき事業シナリオを作成し経営判断をしています。

医療機関でも地域の人口動態や診療科別患者数などから課題を見つけ、バランス・スコアカード(BSC 企業の業績を財務だけではなく、4つの財務・非財務的な指標を設定して分析する業績評価システム)を作成し、組織としてのビジョンや戦略活動、経営改善の具体策、予算の分配・計画を考えています。

  

考え方や方法はいくつかありますが、中小規模の医療機関では時間的にも余裕が無く、作成できていない場合もあるかと思います。それでも、多忙を極めるVUCAの時代を生き残るためザックリとした戦略を立てるためのツールを紹介します。

   

3. 戦略を描いてみよう!~中小機構のIT戦略マップと導入プラン~

 ITを導入したいけれど、何から始めたらよいか分からない……。そんな担当者の心の声に応える形で誕生した中小企業基盤整備機構、略して中小機構の「IT戦略ナビ」を紹介します。先述したBSCまで作成する体制が整っていない、余裕が無いという場合に対応できるツールです。

 

画面上の質問に答えていくだけで、

 

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