2023.08.07
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ミッション:トラジェクトリーカーブを使いこなせ!!

熱血!特養常勤医師1,825日の挑戦 ~特養での穏やかな日常を目指して~ vol.9

       

編集部より

特別養護老人ホームや有料老人ホームをはじめとする高齢者施設は、施設長を経営トップとして、介護職・事務職・看護職・外部機関など多職種の関わりによって日々の業務が進められ、高齢者の生活が保たれています。一方で、多職種が関わるからこそそこで生じる問題もさまざまで、解決には多職種の関わりが必要となるため大きなエネルギーを要することも多いのではないでしょうか。本コラムでは、大阪の特別養護老人ホームで「常勤医師」として働く堀切康正さんに、同施設における5年間の挑戦をつづっていただきます。「入居者様が穏やかに過ごせる施設」を目指し病院から特別養護老人ホームに活躍の場を移した堀切さんは、介護の現場で何を感じ、誰とどのように改革を進めてきたのでしょうか。

   

第9 回は、トラジェクトリーカーブ(TC)とその利用法についてです。

トラジェクトリーカーブとは、TCとは、病気の自然経過を図式化したものです。時間の経過によって、日常生活機能がどのように低下していくかがわかります。

通常医師が使用しますが、部分的に書き込む内容を変えて、繰り返し入居者に使うことによって全体を把握し、終末期の意識付けができ、スタッフの理解度も上げられると堀切さんはいいます。

   

執筆/堀切 康正(社会福祉法人 永寿福祉会 永寿特別養護老人ホーム 永寿診療所 管理医師)

編集/メディカルサポネット編集部

   

            

 前回は、終末期の定義(狭義と広義)について説明しました。終末期と一言で言っても、定義の考え方によって想定する状況が大きく異なるため、言葉だけで説明しようとしても非常に分かりにくいものです。そんな説明しにくい終末期を図で表しているのが、トラジェクトリーカーブ(以下、TC)です。

TCは、心不全の領域ではガイドラインにのっており、また緩和領域の教科書には必ず掲載されている一般的なものです。使いこなせると非常に便利なツールですので、今回はTCの使い方についてご紹介いたします。この記事が皆様の看取りのお役に立てば幸いです。

     

1. トラジェクトリーカーブとは?

TCとは、病気の自然経過を図式化したものです。 

    

図1 病気別のトラジェクトリーカーブ

病気別のトラジェクトリーカーブ

    

横軸が時間経過、縦軸が日常生活機能です。病気別に3つのモデルが提唱されています。

    

3つのモデルとそれぞれの特徴は、以下のとおりです。

    

1、悪性腫瘍モデル:日常生活機能は比較的保たれていますが、最後の1~2ヶ月で急速に低下するのが特徴です。

2、呼吸器疾患・心疾患などの臓器不全モデル:疾患の増悪と改善を繰り返しながら、徐々に悪化していき、最後は比較的急に低下することが特徴です。

3、老衰・認知症モデル:ゆっくりと日常生活機能が低下していき、この間に認知症は進行していきます。

            

2. 老衰/認知症モデルを使いやすくする3つの工夫

では、施設に入所されている方で使用する場合を考えていきます。施設入居者という状況を考えると、使用するモデルは老衰・認知症モデルになると思います。ただ近年は高齢化に伴い、認知症の方でも様々な疾患を持っている方が増えてきています。そのような問題を解決するために、自施設では通常の老衰・認知症モデルのTCに3つの工夫を加えた、改定TC(図2)を使用しています。

   

図2 改定トラジェクトリーカーブ

改定トラジェクトリーカーブ

   

加えている工夫は以下の3つです。

1、看取り介護の時期分類を加える

2、老衰・認知症モデルの変化を強調する

3、機能の指標は「食事量」

   

それぞれについて解説していきます。

    

1、看取り介護の時期分類を加える

老衰・認知症モデルのTCでは、機能低下の経過は分かりますが、今の状態がどこら辺なのか分かりにくいという問題があります。その問題に対して、例えば、心不全診療ガイドラインでは、心不全ステージ分類として時期を分けることで理解しやすくなっています。同じように時期を分ければよいと考え、看取り介護指針で使用される安定期、不安定、看取り期(=終末期)という時期分類を老衰・認知症TCに加えました。

  

2、老衰/認知症モデルの変化を強調する

認知症が進行していくと共に嚥下機能も低下し、誤嚥性肺炎を起こすようになります。その際、機能面が大きく低下することもあり、その経過は呼吸器・心疾患モデルのように大きな波のようになります。元々の老衰・認知症モデルでは、そのような変化が乏しいため、改定TCの方ではその変化を強調しています。また、不安定期の開始は、感染症などで機能面が大きく低下した状態と考え、極端に大きな形にしています。

   

3、機能の指標は「食事量」

看取りの経験を重ねる中で、寝たきり全介助だけどずっと落ち着いている入居者や、誤嚥性肺炎を繰り返していたけれど食支援で介入したら長期間おちついた入居者がいました。機能の指標を、「ADL」や「嚥下障害」の程度にすると安定期と不安定期の違いがわかりませんでした。そこで、指標を「食事量」にすると、覚醒状態や食べるための体力、食欲の有無などをあわせた指標として使え、どんな状態の方でも時期の判断が可能でした。そのため、機能の指標を「食事量」にしました。

     

3. トラジェクトリーカーブは変化を共有するツール

以上のように、3つの工夫を加えたものを、改定TCとして使用しています。

   

この改定TCを使用することで得られるメリットを、3つ上げます。

1、全体の経過が分かりやすい

2、不安定期、終末期の意識付けができる

3、教育のためのツールになる

   

メリットをそれぞれ具体的に説明していきます。

1、全体の経過が分かりやすい

機能面と時期の変化を対応させ、図を見た時に分かりやすいようにしています。また、改定TCの中に、今までのADLの変化、体重の推移、認知機能の変化、過去にあった入院歴、施設での治療歴、体重の推移などを書き込めば、経時的な状態変化を把握することができます。記入例を提示します(図3)。

    

図3 記入例

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