2018.10.15
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糖尿病患者における骨粗鬆症の診断と治療のポイントは?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

糖尿病患者は、健常者と比べて骨折の危険が大きいと言われています。日本骨粗鬆症学会では、骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版を公開しています。糖尿病の治療には、薬物指導だけでなく、適度な運動をして肥満に気をつけるなど、患者自身の生活習慣の見直しが必要です。

 

糖尿病患者における骨粗鬆症の診断ならびに治療におけるポイントを教えて下さい。産業医科大学・岡田洋右先生にご回答をお願いします。

【質問者】

西村理明 東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌 内科教授

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【回答】

【骨質劣化が要因として大きい。薬物療法に加え,食生活の改善などの生活指導が重要】

 

(1) 糖尿病患者の非糖尿病患者に対する大腿骨頸部骨折リスク

糖尿病患者における非糖尿病患者に対する大腿骨頸部骨折リスクは,1型糖尿病患者では6~7倍,2型糖尿病患者では1.4~1.7倍と報告されており,1型,2型にかかわらず骨折リスクは高くなっています。

(2)骨粗鬆症の状態とは

骨粗鬆症は,骨密度と骨質劣化により骨強度が低下した状態です。骨密度の低下から推測される骨折リスクの上昇は3~4倍ですが,実地臨床ではそれ以上に骨折リスクが高く,骨質の異常も存在します。一方,2型糖尿病患者の骨密度は,正常もしくは高値を示します。しかし,日本人2型糖尿病患者の成績においても,非糖尿病群に比較し,より高い骨密度にもかかわらず骨折例が多く存在し,骨折閾値が高いことが示されています。糖尿病は骨密度に依存しない骨折リスクの上昇をもたらすことから,骨質劣化の要因も大きいと思われます。

 

(3)薬物治療開始の目安

骨粗鬆症の診断や骨折リスク予測因子として重要なものは,骨密度と既存骨折です。したがって,骨密度のみならず,X線で既存形態的椎体骨折を評価することが重要です。さらに,問診で身長低下の有無や非椎体骨折の既往を評価することも重要です。現在,生活習慣病関連骨粗鬆症の薬物治療開始基準はまだありませんが,「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版」では,2型糖尿病の骨折リスクに対する薬物療法(薬物治療開始基準試案)が示されています。大腿骨近位部骨折または椎体骨折がある場合,大腿骨近位部・椎体骨折以外の骨折があり,骨密度が若年成人平均値(young adult mean:YAM)80%未満の場合,脆弱性骨折がなくてもYAM 70%以下の場合には薬物治療開始となっています。しかし,糖尿病患者では骨質劣化の関与が大きく,骨密度は比較的保たれている例が多くあります。そのため,脆弱性骨折がない患者では,骨量減少段階からの治療介入案として,YAMが70%より大きく80%未満の場合には,2型糖尿病の骨折リスク評価(病歴が長い,HbA1c 7.5%以上,インスリン治療中など)を行い,薬物治療開始を考慮します。

(4)治療

治療としては,薬物療法とともに生活指導も重要であり,禁煙,適切な運動,CaやビタミンDなどを配慮した食事療法などが推奨されます。まず問診やX線,骨密度測定,糖尿病コントロールを評価し,骨粗鬆症の薬物治療開始の必要性を判断することが必要です。それらが,糖尿病患者における骨粗鬆症・骨折を予防し,QOL維持・健康寿命延伸に繋がると思われます。

 

【回答者】

岡田洋右 産業医科大学医学部第1内科学講座准教授

 

執筆:

西村理明 (東京慈恵会医科大学糖尿病・代謝・内分泌 内科教授)

岡田洋右 (産業医科大学医学部第1内科学講座准教授)

  

 出典:Web医事新報

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