2018.10.20
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がん・生殖医療の現状とオンコロジストが知っておくべき診療は?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

がん・生殖医療は時間との闘いなので、がん・生殖医療では、腫瘍医・生殖医療医・患者が三つ巴となって妊孕性温存を行うかどうかの決断を下す必要があります。がん・生殖医療の大原則は「がん治療の最優先」ですが、がん治療前に妊孕性温存療法を行わなくても治療終了後に希望があれば連携をとり、妊娠の可能性を探ることも大切です。

 

がん・生殖医療の現状とオンコロジストが知っておくべきがん・生殖医療の診療について教えて下さい。東京慈恵会医科大学・鴨下桂子先生にご解説をお願いします。

【質問者】

田部 宏 国立がん研究センター東病院婦人科科長

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【回答】

【時間との戦いでもあるため,迅速で綿密な連携が重要となる】

がん・生殖医療は,がん治療と生殖医療の両者の発展で生まれた概念で,がん治療により著しく低下してしまう可能性のある妊孕性を,何らかの手段で温存する医療です。女性における妊孕性温存療法は現在,胚凍結,卵子凍結,卵巣組織凍結の3種類があり,がん治療開始までの限られた期間の中,患者背景や月経周期,本人の希望をもとに,可能な方法を選択していくことが求められます。

 

現在,世界中の各地域で,がん・生殖医療の標準化や情報共有,がん患者に対する啓発と治療の提供を目的としたネットワークの構築が行われており,わが国では,聖マリアンナ医科大学の鈴木 直教授を中心に,日本がん・生殖医療学会が設立されています。2017年度には日本癌治療学会から「小児,思春期・若年がん患者の妊孕性温存に関する診療ガイドライン 2017年版」が刊行され,治療の標準化に向け大きく前進しました。

 

がん・生殖医療では,腫瘍医,生殖医療医,患者の3者が関わりますが,「がん治療を最優先に考える」という大原則を,この3者が十分に認識することが重要です。生命と妊孕性という2つの大きな危機に直面している中で,がん治療開始までの短い期間で妊孕性温存を行うかどうかの決断は,容易なものではありません。

 

我々生殖医はコンサルトを受けた際に,がん治療内容による卵巣毒性を評価し,がん治療開始時期を遅らせることのないように妊孕性温存方法を提案する必要があります。コンサルトの際は「がんの組織型」「Stage(全身検索結果)」「予定している治療内容・抗がん剤の種類・量」「開始時期」,また「ホルモン感受性がんであればその旨」を教えて頂きたいです。がん・生殖医療は時間との闘いでもあるため,がん治療により妊孕性が低下すると予測される場合は,速やかにご紹介頂くことで,患者の妊孕性温存の選択肢が広がります。

 

がん・生殖医療外来を受診した患者の中には,妊孕性温存療法を行いたくても実際に行えない人,また話を聞いた上で何もしない決断をする人も多くおられます。しかし最も重要なのは,妊孕性温存療法を行うことだけではなく,妊孕性を失う前に妊孕性温存について考えることだと思います。そして,がん治療前に妊孕性温存療法を行わなくても,年齢や卵巣予備能によっては,治療後に妊娠許可が出てからできることもあります。行わなかったからそこで終わり,ではなく,治療終了後に希望があれば連携をとり,妊娠の可能性を探ることも大切です。

 

妊孕性温存療法に費やせる期間(=がんの確定診断・病期決定から治療開始までの期間)も,妊娠許可の判断も,がん・生殖医療の大原則が「がん治療の最優先」である以上,がん治療医の先生には常に連携の際の中心でいて頂きたいと考えます。綿密な連携こそが患者の最大のメリットとなると考えます。

 

【回答者】

鴨下桂子 東京慈恵会医科大学産婦人科学講座

 

執筆:

田部 宏 国立がん研究センター東病院婦人科科長

鴨下桂子 東京慈恵会医科大学産婦人科学講座 

    

 出典:Web医事新報

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