2023.08.17
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痛み[私の治療]

メディカルサポネット 編集部からのコメント

吉澤明孝 要町病院副院長と吉澤孝之 要町病院院長が主に在宅患者の痛み症状対応について解説します。

がん性疼痛と非がん性疼痛(慢性痛など)について、薬や薬以外の社会的対応、患者宅に1回分置いておくと安心な「コンフォートセット」についても触れています。

                         

「痛み」は在宅療養の継続を難しくする症状のひとつであり,早急に緩和する必要のある症状である。症状緩和のためには,急性痛なのか慢性痛なのかを判断し,薬剤選択のためにも侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,心因性疼痛などの病態による痛みのアセスメントを早急に行い,治療を選択する必要がある。

                                      

▶アセスメントのポイント

【急性痛と慢性痛】

  

急性痛は組織損傷(炎症)に伴う痛みであり,傷害部の痛覚受容体が興奮して痛みが起こるもので,身体の警告信号の意味がある。慢性痛は組織損傷がほとんどなく,神経系の歪みから痛みが起こるもので,警告信号の意味がない。

  

【病態的分類】

  

侵害受容性疼痛:末梢の自由神経終末に存在する侵害受容器が,熱や機械刺激によって活性化されて生じる痛みである。

  

神経障害性疼痛:末梢あるいは中枢神経系における原発病変,機能異常,あるいは一過性の混乱を契機とし,あるいは原因として生じる痛みである。

  

心因性疼痛:器質的・機能的病変がない,またはあっても痛みの訴えと合致しない場合で,心理的要因が大きく影響している可能性のある痛みである。

  

痛みについて患者が訴える表現に注意が必要であり,侵害受容性疼痛であれば,「ズキズキ」など鈍痛様の訴えを聞く。神経障害性疼痛であれば「ビリビリ」など鋭利な訴えを聞くことが多いので,それだけでも鑑別のポイントになる。カルテにそのまま記載することをお勧めする。

         

▶治療の実際

【非がん性疼痛】

  

急性痛における薬物療法の主体は,アセトアミノフェン,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs),弱オピオイド,オピオイドで,神経ブロックは四肢の末梢神経ブロック(腕神経叢ブロック,大腿神経ブロック,坐骨神経ブロック)と硬膜外ブロックが施行される。また,急性痛は炎症を伴うことが多く,局所の熱感を伴うことが多いため,まずは局所冷罨法などのケアを行う。

  

一方,慢性痛では炎症がかなり軽減されており,温罨法,理学療法などのケアが有効なことが多い。薬物療法としては,抗炎症薬であるNSAIDsよりも中枢作用性のアセトアミノフェン,弱オピオイドが用いられるほか,近年では,強オピオイドも非がん性疼痛に使用可能になっている。非がん性疼痛に対する強オピオイドは,がん性疼痛とは異なり,使用目標期間を設定して一時的に用いるもので,緊急対応薬(レスキュー薬)としての適応はない。あくまでも痛みを止めてリハビリテーションを行いやすくし,社会復帰に向けた一時的使用にとどめることを条件として,近年,適応が拡大された。継続使用により依存形成が生じることは避けなければならない。慢性痛には理学療法は重要で,薬物療法+理学療法の組み合わせで改善させていくことを常に考えるべきである。

  

【がん性疼痛】

  

がん性疼痛はトータルペインとしてとらえ,身体的疼痛だけでなく心的疼痛,社会的疼痛,スピリチュアルペインの要因があることを常に念頭に置いて,傾聴,共感,手当,ユーモア(にもかかわらず笑う)をもって対応することが痛みの治療につながることは忘れてはいけない。

  

痛みの程度に応じてNSAIDs,アセトアミノフェンを使用し,効果がなければオピオイド導入を検討するのが基本である。そして十分に痛みがとれていなければ,オピオイドのベース量の1/4~1/2量を加えて増量する。これは日々評価して適正量をみつけるまで行う(タイトレーション)。また,安静時は安定しているが動いたときなどに痛みが増加する場合は,その際に服薬できるように,1日量の1/6~1/4量のレスキュー薬を準備し,対応する。レスキュー薬は,服用後1時間で効果がなければ再度服用可とする。

  

侵害受容性疼痛はオピオイドでコントロールが可能であるが,神経障害性疼痛ではオピオイドのみではコントロールが不十分になりやすく,鎮痛補助薬として抗痙攣薬(カルバマゼピン,プレガバリンなど),抗うつ薬,鎮静薬,ステロイドなどを併用することがある。1週間くらい併用し,効果がなければすぐに中止することを忘れてはならない(保険適用外使用のことが多い)。

  

また,オピオイド使用のポイントとしては,呼吸苦に関してはモルヒネが有用であり,腎障害患者ではフェンタニル,ブプレノルフィンが使用可能で,オキシコドン,ヒドロモルフォン,タペンタドールに忍容性がある。

  

【コンフォートセット】

  

夜間・休日の緊急往診,訪問看護の訪問時,患家に1回分の置き薬が準備してあると心強い。予防薬としてNSAIDs,坐薬,睡眠薬,抗不安薬,ニトログリセリン,制吐薬などの1回使用分を準備し,ジッパー付きのビニール袋に詰めて冷蔵庫に保管しておいてもらい,夜間・休日の緊急往診時に医師,看護師が使用する。使用したものについては翌日処方する。在宅ならではの工夫である。

   

吉澤明孝(要町病院副院長)

吉澤孝之(要町病院院長)       

   

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 出典:Web医事新報

  

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