2020.12.16
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対話で組織を活性化 
~訪問看護リハビリステーション所長~

実践者に聞く!
デキる介護管理職のモチベーションアップ術 vol.3

 

編集部より

ますます需要が高まる介護現場において、施設管理やスタッフ勤怠管理など管理職の方たちに求められるマネジメントスキルも高まっています。しかし、必ずしも「管理職になりたくてなった」とは限らず、また、十分な管理職教育を受けられるとも限らず、孤独になりがちな介護管理職に向けたマネジメントに関する情報はこれまで多くは語られてきていません。

本連載では、看護師・保健師を経て現在は人材育成・組織開発コンサルタントとして活躍されている久保さやかさんが、「介護管理職のモチベーション」をテーマに、医療介護業界で活躍する管理職や経営者に実際にお話を伺いながら、そのありかを探っていきます。介護業界の管理職の楽しさがわかる、明日からのモチベーションが上がる、そんな気持ちにさせてくれる全6回のコラムです。

 

執筆/久保 さやか(thoughts代表/看護師・保健師)

編集/メディカルサポネット編集部

「介護業界の管理職のモチベって、なんだ?」

そんな単純な疑問から、この連載は始まりました。

あれやこれやと苦労が絶えない管理職のモチベーションのありかを探す、そんな旅のような企画です。

  

訪問看護リハビリステーション所長 クロさんの場合

 

今回お話を聞かせてくれたのは、訪問看護リハビリステーションの所長を務めるクロさん。以前は、救命救急の看護師として働いていました。言わずもがなですが、救命救急のスタッフナースと、地域の訪問看護リハビリステーションの管理職では、求められている役割は大きく異なります。クロさんのモチベは、一体どこにあるのでしょうか。


「現場が一番大事だと思っていた」元救命救急看護師が、“現場”を手放せたその理由

現場で働くことが1番大事だと思っていました。私が患者さんの前に行けば、他のスタッフより経験が多い分、誰よりもうまくやれてしまうし、進められる。それによって、確かに現場はスムーズに流れていきます。でも、うまくいくのは、そこの現場だけに限定されてしまいます。

 

今は管理職として、いかに私が手を出さないで、部下にタスクを渡し、シナジーを生み出せるか。最初は、もどかしかったし、私も現場に関わりたい思いが強かったです。部下に伝えたり、タスクを渡すことも上手くできませんでした。ただ、部下の達成感があがって、モチベーションを高く持ってくれている方が、組織の雰囲気が良くなることに気が付きました。私ひとりがやるより、もっと大きなものも得られます。 

 

私には、「地域から救急搬送を減らしたい」という思いがあります。これって、ひとりじゃできないことなんです。ですが、チームであれば出来ます。部下も最初は「出来るわけない」と感じていたはず。でも、話し続けたら部下のマインドが寄って来てくれて、今までトライしていなかったこともトライしてくれるようになった。信念を理解してくれた人が動いてくれると現場が変わります。私ひとりでやれる事以上の大きな成果を、部下たちがあげてくれた時に、モチベーションが上がりますね。

 

 


私の信念に会社の理念が寄ってきた

会社の理念に合わせようとしすぎる、捻じ曲げられるというか。やりたくないこともやらなきゃいけなくなり、モチベーションも上がらない。今、私の信念に会社の理念が寄ってきた感覚です。

理念について、頭で理解しなくていいと思っています。旗を立てていけば、部下はそこを縫いながら行動し始めます。旗がないとあっちこっち行って戻ってこられなくなってしまいます。会社の理念と私のやりたいことや実現したいことを結び付け、自律的に動けることが理想ですね。


意図的に“対話”をつくりだす

所内では、社長とも部下とも対話しています。ぶつかることを恐れず、ぶつかることを良しとしています。今、会社が中長期的な計画を作り始めていることもあって、意図的に対話の機会を多く持つようにしています。

意見交換だけだと、ぶつかって腹落ちせず、対立して終わる。そして、対話の前提として、以下の2つを良しとしています。

 

1.他人と自分の意見は違うこと

2.自分の意見が変わっていくこと

 

それがないと苦しくなるし、言いづらくなる。

対話の場づくりも重要です。「対話しようぜ!」と言ってもできるものではありませんから(笑)、例えば、ファシリテーション出来そうな部下を見つけ出して、「●●さんに話を聞いてきてくれない?」と依頼して、対話の場を仕掛けたりします。あとは、意図をもって雑談をするのみ。昼メシを食べながら休憩室で話すとか。雑談から真剣な話に広がることもあります。種をまいたり、時間や雰囲気を意図的に作ることもしています。

 

対話の大切さは、80%が実践、20%が勉強して身に着きました。今までももちろん雑談はしていたけれど、意識してはいなかった。雑談や対話について、初めから自然に取り組まれている会社だった、ということもありますね。


やっちまった時は本に逃げる。そして、モヤモヤを持ち続ける。

モチベーションが落ちた時や、失敗、やっちまった時は、本に逃げます。「オレ、終わったなー」と思うと、本の世界に入り込んで、著者の苦労に思いを馳せます。本に助けられます。いにしえの他人の行動に照らし合わせて、自分を振り返り、慰めている。そうすることで、失敗したけど、1年前と変わっていることに気づくこともあります。

救命救急で働いていた時は、そんなことしていませんでした。今は、立ち止まったり、振り返ったりする時間を意図的に作っています。悶々とする時間は増えましたが、答えが出ないこと、解決しないことを持ち続けること、ネガティブケイパビリティを大事にしています。

患者さんが亡くなった時は悲しいです。看護師は泣いちゃダメなのか、泣いてもいいのか。答えは欲しいけれど、ずっと迷いつつ患者さんと接していく。答えを決めたり、誰かに決めてもらったりする方が楽ですよね。でも、答えなんてなく、アンビバレントなまま、モヤモヤしながら、そのままでもいいのだと、今は思っています。

 

  

ネガティブケイパビリティという概念を、私はクロさんのお話で初めて知りました。 ネガティブケイパビリティとは、「不確かさの中で事態や状況を持ちこたえ、不思議さや疑いの中にいる能力」1) のこと。通常、日々変わる状況の中で、いかに迅速に適切な判断をし、対処する能力が求められますが、それとは裏返しの能力です。

もし、解決方法がないような状態に出会った場合、逃げたり、答えをひねり出したり、答えを誰かに求めて、早々に終えたくなります。ですが、特に医療介護の現場では、倫理的な問題は日常茶飯事で、どうにも変えられない事態の方が多い。そのような中で、曖昧さを持ち続けること、曖昧さに自分にも他人にもOKが出せるのは、大きな強さに繋がるでしょう。

 

そして、クロさんから感じたのは、静かな力強いリーダーシップ。

「現場で患者に熟達した看護を直接提供する」というベテラン看護師にとっては、捨てがたい仕事の魅力を手放し、「地域から救急搬送を減らす」という大きな社会課題に挑まれています。課題の大きさにめげず、対話を繰り返し、振り返りや、それを裏付ける知識をつけながら、部下や組織と一緒になって実践している姿が垣間見えました。

お話を伺いながら、いつの日か、クロさんがいる地域でその思いが実現するのではないか。そう遠くない未来が見えたような気がしました。

  

引用参考文献 1)帚木蓬生著 ネガティブ・ケイパビリティ答えの出ない事態に耐える力 朝日新聞出版社2017 P121

プロフィール

久保さやか(くぼ・さやか)
THOUGHTS代表。看護師・保健師、人材育成・組織開発コンサルタント。
慶應義塾看護短期大学卒業後、慶應義塾大学病院混合病棟勤務を経て、慶應義塾大学看護医療学部に編入学し保健師免許取得。大学卒業後は、大手小売業にて人事部所属の産業保健師として産業保健体制の立ち上げに携わる。その後、弁当チェーン運営会社の総合職として役員秘書、人事部、経営戦略部などで勤務する。現在は中小企業の産業保健師として勤務すると同時に、医療職やビジネスパーソン向けの人材育成・組織開発コンサルタントとして活躍している。


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