2023.09.07
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ミッション:家族の意思決定をサポートしろ!

熱血!特養常勤医師1,825日の挑戦 ~特養での穏やかな日常を目指して~ vol.10

       

編集部より

特別養護老人ホームや有料老人ホームをはじめとする高齢者施設は、施設長を経営トップとして、介護職・事務職・看護職・外部機関など多職種の関わりによって日々の業務が進められ、高齢者の生活が保たれています。一方で、多職種が関わるからこそそこで生じる問題もさまざまで、解決には多職種の関わりが必要となるため大きなエネルギーを要することも多いのではないでしょうか。本コラムでは、大阪の特別養護老人ホームで「常勤医師」として働く堀切康正さんに、同施設における5年間の挑戦をつづっていただきます。「入居者様が穏やかに過ごせる施設」を目指し病院から特別養護老人ホームに活躍の場を移した堀切さんは、介護の現場で何を感じ、誰とどのように改革を進めてきたのでしょうか。

 

第10 回は、「終末期に入居者に行うケアや、栄養摂取方法について家族が意思決定をしなければならないとき、介護者側はどのような点に注意を払ってサポートすればいいか」です。第9回で解説したトラジェクトリーカーブをどのように利用するかも説明されています。

  

執筆/堀切 康正(社会福祉法人 永寿福祉会 永寿特別養護老人ホーム 永寿診療所 管理医師)

編集/メディカルサポネット編集部

   

            

 前回第9回目はトラジェクトリーカーブについてご紹介しました。トラジェクトリーカーブを使用して、認知症の今後の予想される経過を家族と共有しておくことは、非常に重要です。例えば、入居者の認知症が進み、食事量が減ってきたとします。この時、初めて家族に今後の栄養摂取方法を説明し、方針についての意思決定をお願いしても、すぐに結論は出せません。

 

意思決定のために早い段階からの準備は必要ですが、実際にどのようなサポートをしていけば良いのでしょうか?今回は、模擬症例を通して、サポートの方法について考えていこうと思います。

この記事が皆様の意思決定のサポートのお役に経てば幸いです。

     

    

1. ある息子さんの葛藤

「どうすれば良いんだろう?」

入居者Aさん(80代、女性)の息子さんは悩んでいました。その日、私は息子さんに、Aさんの食事量が少なくなっていることと、栄養摂取の方法を考える時期であることを説明しました。

  

母親に対してどのような選択をするのが一番よいのか?

病院での高カロリーの点滴?胃ろう?それとも施設で自然な形で看取り?

結論を出せなかった息子さんは、Aさんと何度も面会をされました。また、食事量が減っていたAさんのために、定期的に手作りのお弁当を持ってきてくれました。入所前、Aさんと息子さんは同居しており、食事は息子さんが作っていました。Aさんは、施設の食事は食べませんが、息子さんが作ってくれたお弁当だけは少しずつ食べてくれました。

  

そのような献身的な努力の結果なのか、Aさんは低空飛行の生活を続けていました。その間、息子さんは結論を出すことが出来ず、1週間、また1週間と時間は過ぎていきました。何度も私や看護主任、担当ケアマネ、フロアスタッフとの話し合いを重ねました。また、息子さんは直接Aさんに栄養を取る方法をどうしたいか聞くこともありました。しかし、Aさんは「よくわからんわ」と答えるだけでした。

  

時間が経つごとに、Aさんは弱っていきました。もともとは、食事は自立でしたが、途中から介助を必要とするようになりました。また最初は会話できていましたが、徐々に単語だけになり、それが頷くだけに変わっていきました。そのような変化を見ていく中で息子さんの心境が少しずつ変化していきました。

  

ある時、息子さんから提案がありました。

「やりたいことがあるんです。家族写真が取りたいんです。撮らせてもらえませんか?後悔したくないんです。」

すぐに施設側の了承を得て、家族写真を撮影することが出来ました。

そのあとに息子さんは結論を出されました。

「色々と話を聞いてくださってありがとうございます。母をずっと見てきて、また施設のみなさんが色々と話を聞いてくれたお陰で決めることが出来ました。施設での看取りをお願いします。」

息子さんは、面談の時にいつも「どうすればいいんだろうか?」と不安そうでした。しかし、このお話をされた時は、非常に落ち着いて堂々とされていました。出来ること、やりたいことはやりきったという顔でした。

その後、Aさんは息子さんが決断出来たことにホッとしたのか、本当に安らかなお顔で旅立たれました。

           

2. 家族による意思決定は時間がかかる

家族が代理で意思決定をする場合、大きな葛藤が伴います。その決断が、自分の配偶者や親の寿命を短くしてしまうのではないか、または苦しめるのではないか、という葛藤です。この葛藤は、自分自身で結論を出すまでなくなることはありません。

結論を出すまでの時間は、個人差があります。過去に意思決定をした経験がある方は、ない方と比べて早いとは思いますが、それも不確定なものです。そのため、意思決定をサポートする際の基本として認識しておくべきことは、「家族はすぐに意思決定できない」ということです。意思決定をするために必要なのは、「時間」です

      

3. 意思決定をサポートする上で3つの大事なこと

時間が必要だとことを踏まえた上で、意思決定をサポートする際に大事なことを以下に3つ挙げます。

  

  

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