2025.02.20
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離職防止~従業員の定着率が向上する職場環境

~菊地雅洋の一心精進・激動時代の介護経営~Vol.3

    

編集部より

2024年に行われた介護報酬改定を通して、介護業界には多くの課題が生まれました。経営課題はもちろん、人材不足の解決、介護DXをどのように進めるか、事業所経営者は様々な問題と直面することでしょう。そこで、本コラムでは「masaさん」の名で多くの介護事業経営者たちから慕われる、人気介護事業経営コンサルタント菊地雅洋さんに、「菊地雅洋の一心精進・激動時代の介護経営」として、介護の現場に重要なノウハウやマインドを解説頂きます。

  

第3回は、「離職防止~従業員の定着率が向上する職場環境」です。

要支援者と要介護者が今後も増えていくと想定される中、介護職員数は減少傾向を見せています。その状況下で重要なことは、いかにして獲得した人材を、定着させ、職場で活躍してもらうかです。

そこで今回は、職員の定着率を向上させる職場環境づくりのポイントを解説します。給与改善の工夫、生産性向上への取り組み、高い志を持った人材の確保・育成といったポイントを、ぜひ参考にしてください。

  

執筆/菊地雅洋(北海道介護福祉道場あかい花 代表)

編集/メディカルサポネット編集部

   

      

  

1. 介護職員数前年比減の衝撃

 

人口減少

 

昨年12/25に厚労省が公表した集計結果によると、2023年10月1日現在の介護事業者に所属する介護職員数が約212.6万人となり、前年比で2.9万人減少していることが明らかになった。

要支援者と要介護者は前年比8万人増えている中での介護職員数減少の衝撃は計り知れない。

  

介護人材不足と言われる中ではあるが、介護保険制度創設以後、介護職員数は毎年増加していた。

ただし要介護者等の増加数に介護職員の増加数が追い付かずに介護人材不足は深刻化してきたわけであるが、介護職員数が減少に転じたのであるから、今後介護事業者は益々人材確保が困難となることが予測される

 

しかもこの数字は外国人材を含めてのことだろうから問題は深刻だ。

 

少子化が止まらない我が国においては、日本人若年労働者は全産業で不足し、その改善見込みもない中で、入管法などを改正して外国人が永住できる対策をとってきた。

介護業界でもより外国人材が活躍できるように、介護福祉士試験に合格した外国人は、「在留資格・介護」として家族を含めて日本に永住できるようにしている

これは実質、日本が移民政策にかじ取りしたことと同じことである。

 

そうであるにもかかわらず、介護職員数が前年比減に転じたという意味は、そうした大きな改革をしてきたにもかかわらず、期待したほど外国人材が増えることがなく、介護人材対策として機能していないことが明らかになったということだ。

 

そうなると、今後の介護職員数の減少はさらに加速すると想定せざるを得ない。

  

今でさえ、「人がいない」と音を上げている介護事業経営者や管理職の方々は暗澹たる気持ちになるだろうが、だからこそ人材確保と定着の戦略を深化させていかないと負け組となり、事業廃止が現実的な問題となりかねない

 

特に介護職員の絶対数が減る状況では、募集に応募者を増やす対策以上に、雇用した従業員が熟練者として成長できるように、離職せずに定着できる職場づくりが重要となる

  

   

2. 国に頼らない賃上げ原資の確保という視点

 

介護職員の給与 

昨年の春闘で、他産業が大幅な賃上げを行った中で、介護事業者は報酬改定でわずかなプラス改定分を賃上げに回しても、民間の改善額とはかなりの差が生じ平均給与の格差はさらに広がった。

 

今年の春闘も近づき、他産業は更なる賃上げに向けて動いている。介護業界がその動きに遅れると給与格差は益々広がりかねない。

これを放置しておれば若年労働者から、介護を職業にしようとする動機づけが失われていく

それは介護人材確保が不可能に近い状態になるということに繋がり介護事業崩壊へと繋がっていく。

  

そのため介護職員の更なる処遇改善を求める要望書を厚生労働省に提出するなど、介護報酬の引き上げや人材確保を訴えている団体も複数ある。

だがこの運動が実を結んで緊急的な介護報酬の引き上げが行われる可能性は極めて低い。

 

国の腰は極めて重いと考えたうえで、国の動きに頼らない形で収益を挙げ、その分を従業員の給与改善に回していく最大限の努力が介護事業経営者には求められる。

 

全国的に介護サービス事業を展開している大手民間企業が、全産業平均までの賃上げの取り組みを行おうとするなど、国に頼らずに賃上げ財源を保険外サービス等でねん出して人材確保に取り組もうとする動きもある。

そうした事実に向かい合うとき、手をこまねいて傍観しているだけの介護事業は淘汰されかねない。

 

例えば社会福祉法人は、税制上優遇されているのだから、非課税分が賃上げ財源だと考えて、更なる給与改善に努める必要があるのではないか。

どちらにしても個人商店的経営には限界が生じるため、事業規模拡大とサービスの多角化に努めてスケールメリットを最大限に生かした収益確保の方策を探る必要もあり、長期的にみると介護事業者間の連携・合併などを視野に入れる必要も生じてくるだろう。

 

 

3. 人材確保と定着のために必要な生産性向上

 

リモートワークする介護職員

 

そのような中で、職員を確保し定着させる工夫が介護事業者の最大の課題となってくる。

そのためには新たに一本化された介護職員等処遇改善加算は最上位加算を算定することが当たり前であると考えるべきだ。

 

そのためには、「職場環境等要件」の「生産性向上(業務改善及び働く環境改善)の取り組み」は3要件、その他の項目は2要件をクリアしなければならないが、そうした要件を満たすための取り組む費用については賃金改善額とは認められないために介護事業者の持ち出しとなる。

 

それは大変痛い出費ではあるが、「生産性向上(業務改善及び働く環境改善)の取り組み」の要件の一つ、生産性向上委員会の機能は、今後の介護事業者にとって命綱になる。

この委員会を立ち上げて有能な職員を委員に任命し、実効性のある生産性向上につながる改革をしていかねば介護業務が回らなくなる恐れが強いからだ。

 

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