2025.01.23
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介護事業者のカスタマーハラスメント対策を考える

~菊地雅洋の一心精進・激動時代の介護経営~Vol.2

    

編集部より

2024年に行われた介護報酬改定を通して、介護業界には多くの課題が生まれました。経営課題はもちろん、人材不足の解決、介護DXをどのように進めるか、事業所経営者は様々な問題と直面することでしょう。そこで、本コラムでは「masaさん」の名で多くの介護事業経営者たちから慕われる、人気介護事業経営コンサルタント菊地雅洋さんに、「菊地雅洋の一心精進・激動時代の介護経営」として、介護の現場に重要なノウハウやマインドを解説頂きます。

 

第2回は、「介護事業者のカスタマーハラスメント対策を考える」です。

カスタマーハラスメントへの毅然とした対応は介護業界でも重要な課題です。ハラスメントにより心身が傷ついてしまった職員が休職や退職に追い込まれてしまうことは避けなければなりません。しかしそれと同時に、利用者の正当なクレームを見逃すことなく、丁寧に対応することも重要です。

そのような職場を作るためにはどのような考えや行動が大切か、解説します。

  

執筆/菊地雅洋(北海道介護福祉道場あかい花 代表)

編集/メディカルサポネット編集部

   

      

  

1. カスタマーハラスメント対策の強化が求められる社会情勢

 

泣いている介護職員

 

カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、事業者や従業員側に非がないにもかかわらず、怒鳴り散らしたり、恫喝してきたりする顧客によるハラスメント行為を指す。

 

我が国においては、そのような行為に対しても「相手はお客様なのだから、多少のことは我慢しなければならない」として、事実上なにも対処しないという風潮が続いてきた。

しかし近年になって、そのような行為によって従業員が心身にダメージを負うことが大きく問題視されるようになった。

 

特に生産年齢人口の減少が止まらず、各産業で労働者不足が深刻化する我が国においては、従業員がいわれなき顧客のクレームによってメンタルヘルス不調に陥り、休職や退職に追い込まれるケースなどの対策が急務となっている

 

そのため昨年6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024」(いわゆる「骨太方針2024」)には、カスタマーハラスメントを含む職場におけるハラスメントについて、「法的措置も視野に入れ、対策を強化する。」の一文が書かれている。

これを受けて各企業でカスタマーハラスメント対策強化の動きが目立っている。

 

介護事業においては、すでに2021年度(令和3年度)の基準改正において、全事業者にハラスメント対策を講ずることが求められており、そこではカスタマーハラスメントを防止する措置も求められているが、それが実効性のない形骸化した対策と成ってはいないかを検証しなおす必要性がある。

 

昨今の介護人材不足を鑑みると、カスハラ被害で貴重な人材を失うのは大きな損失であるし、カスハラ対策を実際には機能しないアリバイ作り程度しか講じていない職場には、人材が集まらず定着しない点を考慮すると、基準がどうこう言う前に、人材マネジメントを含めた職場環境の改善という面から、実効性のあるカスタマーハラスメント対策が求められる

 

カスハラ対策で重要となるのは、被害者への配慮のための取組(メンタルヘルス不調への相談対応等)であるが、特に重視してほしいのは、カスハラ行為者に対して被害者自身に対応させないことである

 

出来れば被害者を外して、担当者が対応すべきであるが、何らかの事情で被害者の直接対応が必要な場合も、必ず担当者等の別の職員が立ち会って、被害者が加害者に対応する行為はあくまで副次的行為としなければならない

 

そうしないと対応の場で罵詈雑言を浴びた被害者が、対応場面で新たにメンタル上、取り返しのつかない深い傷を負って再起不能となることが多いからだ。それは絶対に防がねばならない。

  

   

2. 深刻化するネット中傷被害

 

スマートフォンで何かを投稿する人 

昨今問題となっているカスハラ行為とは、被害者に直接罵詈雑言を浴びせる行為ではなく、ネット上の問題が大きくなっている

 

SNS上で企業や社員の名誉を棄損させるほか、SNSへのアップロードを脅しに使うケースもある。

例えば、介護施設等を訪れた家族が従業員をスマホで隠し撮りして、自分のSNSに、「ふてぶてしい態度で、利用者から嫌われている」などと勝手にアップするケースがある

 

勿論、そうした行為を非難する前に、本当に利用者に対して失礼な対応をとっているのなら、それは改めなければならない。しかしネットカスハラ被害の多くは、加害者の勝手な思い込みや、気に食わない従業員を貶めようとする謂われなき中傷である。

そういう行為は決して許されない。

 

さらに女性従業員を隠し撮りして、「可愛い」というハッシュタグをつけて画像をネット上に挙げるケースが見られる。

可愛いというのは誉め言葉だから、カスハラに当たらないという考えは危険である

 

その行為によって、ネット上に姿をさらされた女性従業員は、名前と勤務先のみならず自宅の住所まで突き止められてストーカー被害に遭うケースも実際にあるのだ。

この場合、その女性従業員は引っ越しを余儀なくされるだけではなく、仕事を辞めなければならなくなるケースもある。さらに最悪ストーカーによる暴行被害にあう可能性も否定できない。

 

こうした行為を未然に防止するカスハラ対策が求められる。

その為には介護施設・介護事業所内で、訪問者がスマホ等を使って写真撮影する行為は原則禁止とすべきではないかと考える

禁止行為を行っている場合には、毅然として注意対応する必要もあるだろう。どちらにしても従業員のプライバシーとメンタルを護るという視点から、カスハラ対策を随時見直していく対応が求められている。

 

経営者や管理職の方々は、この問題の深刻さを理解して、早急なる対策を講じていただきたい。

 

 

3. 顧客からのクレームには正当な要求も存在することを忘れない

 

クレームかカスタマーハラスメントか悩む画像

 

顧客からのハラスメントを受けて心身の不調に陥る従業員がいなくなるように、対策を講ずること自体は非常に重要な視点である。

しかしここで勘違いしてはならないことは、顧客からのクレーム=カスタマーハラスメントではないということだ

 

カスタマーハラスメントとは、従業員に対する暴行や脅迫、暴言などの行為によって、従業員が安心して働けなくなる状態に陥るような 顧客による理不尽なクレーム・言動を指す。

 

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