2024.05.16
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従業員がメンタルヘルス不調に陥らない組織づくり

~菊地雅洋の波乱万丈!選ばれる介護経営~Vol.5

    

編集部より

介護事業の運営は厳しさを増し、利用者や職員の期待に応えられない事業所は、淘汰される時代に入っています。本コラムでは「masaさん」の名で多くの介護事業経営者たちから慕われる、人気介護事業経営コンサルタント菊地雅洋さんに、「介護経営道場」として、ある時は厳しく、あるときは優しく、経営指南を頂きます。

 

「菊地雅洋の波乱万丈!選ばれる介護経営」、第5回は「従業員がメンタルヘルス不調に陥らない組織づくり」です。

新年度になり、新人職員を迎えた事業所も多いのではないのでしょうか。今回は介護業界における五月病の問題とその対策に焦点を当て、新人職員が直面する悩みや具体的な取り組みを紹介します。職員の定着にお悩みの方は必見です。

 

執筆/菊地雅洋(北海道介護福祉道場あかい花 代表)

編集/メディカルサポネット編集部

   

 

      悩みを抱える新人介護職員

1. 五月病の対策はできているか

仕事にストレスはつきものだ。どんな職業に就いている人であっても、誰しもが多少のストレスを抱えながら仕事をしている。特に介護の仕事は「感情労働」と呼ばれ、自分自身の感情をコントロールする必要性がある職業であるがゆえに過度なストレスを抱えやすい労働環境にあるともいわれる。しかも今の時期は五月病という症状が出現しやすく注意が必要である。

 

五月病とは、新しい環境に適応できないことで、新人社員などに見られる精神的な症状の総称をいう。人によってはうつ病に似た症状が出現することがあるが、その出現時期は5月のGW明けであることが多いことから、「五月病」と呼ばれている。新入社員にみられるこうした精神的症状を防ぐには、生活リズムを整え自律神経の乱れを防ぐことが大事だと言われている。しかし介護事業者に勤める人は、この時期からシフト勤務に組み入れられる人も多く、それによって生活リズムが乱れることから五月病を防ぐことは簡単ではない。

(※本来この時期から新人にシフト勤務を強いるのは適当ではないことも後述する。)

      

2. メンタルヘルスケアを高める組織力

介護事業からの離職者の3人に一人が、就業1年未満で仕事を辞めている最大の理由も5月病対策の未整備にあることを理解すべきだ。

 

何より五月病の症状が出ることを個人のパーソナリティに起因する問題として放置してはならない。新人職員が環境に適応できない理由や原因は様々であり、その処方は一つではないが、五月病を防ぐためには、新人職員が不適応の悩みを抱える状態に陥る兆候がないのかを察知することが重要になる。

 

しかし「悩みがあったらいつでも、なんでも相談してくださいね」と新人に告げるだけでは何の対策にもならない。悩んだり苦しんだりしたときに、先輩や同僚に気軽に相談できる人は五月病になりづらい人なのである。五月病は誰もが陥る可能性がある症状ではあるが、特に自分の内面がどうなっているのかを他者に表現できない人が陥りやすい症状である。他人に何を相談してよいかわからない人が、相談できないうちに陥る。だからこそ、「あの人が突然辞めるなんて思わなかった」という事態が生ずるのである。そうしないための唯一の方法は、新人職員が自ら進んで上司や先輩に相談できないことを前提にして対策することだ。

 

新人職員の口数が少なくなる・表情が乏しくなる・仕事上の失敗が増える・遅刻や忘れ物が目立つようになったら即座に対応せねばならない。そのために日ごろから、「最近疲れてない?」「体調はどう?」といった言葉をかけているという介護事業者があるが、言葉をかけるだけでは不十分だ。そうした言葉かけに対しては、「何でもありません」と答えて終わってしまうケースが多いからだ。何となく元気がない後輩に対しては、何か問題があることを前提にして対応すべきである。「何ともありません」という答えを信じてはならないし、そもそも新人職員は悩みなしで成長しないことを前提に、悩みや愚痴を吐き打せる時間と空間を積極的に創る必要がある

       

3. 就業時間内に新人職員の面談時間を設け、シフト勤務に組み込むことを焦らない

リーダー職員と面談をする新人職員

 

新人職員は最低半年間、週に1度必ずリーダー職員と面談する時間を就業時間中に作らなければならない。その時間は10分程度で良いのだ。その中でリーダーは、新人が今現在何をどう感じて働いているかを聞き取り、内面に悩みや問題を抱えていないかをともに考えなければならない。本人が何も問題ないと感じているケースでも、定期的な話し合いを続けている中で、思わぬ問題や不満・悩みが表出できることがある。それに対して支持・共感することによって、新人は自分が気付かなかった問題や悩みから解放されて、少しずつ専門職として成長していくのである。

 

その為に職場内でリーダー研修が常に必要とされることも理解しなければならない。「相談をしてくださいね。」と言える唯一無二の条件は、相談を受ける側が相談に応ずるスキルを持っているということだ。相談を受ける側に受容的態度がなく、傾聴の重要性の理解がなければ、相談した人は悩みを解消するどころか、相談したのに説教されて、さらにつらい状態となり、5月病が芽吹くことにつながるのである。

 

今この時期は、新しい職場で働き始めていろいろなことを吸収したり、壁にぶつかったりしている時期だ。こうした時期に既にシフト勤務に新人が入っているような職場は要注意だ。

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