2022.05.26
5

高齢者ケアのあるべき未来の姿

介護事業者インタビューvol.9 山崎摩耶

介護事業者インタビューvol.9 山崎摩耶

 

編集部より

前衆議院議員で日本の訪問看護制度の礎を築いた山崎摩耶さんは、介護保険制度創設などの審議会に関わるなど、早くから日本の超高齢社会に対応する仕組みづくりに取り組まれてきました。その視点は広く、国内だけでなく海外の介護における先進的事例にも着目し、視察にもされています。介護保険制度の創設から20年が過ぎ、転換期を迎えている日本の介護業界。そしてと同時並行的に変革していく世界の介護。ポストコロナ時代の高齢者ケアや地域包括ケアについて話を聞きました。

 

取材・文/松崎 純子

撮影/山本 未紗子(株式会社BrightEN photo)

編集/メディカルサポネット編集部

 

 

山崎 摩耶(やまざき・まや)  ヘルスケア・コンサルタント/日本認知症グループホーム協会顧問/元衆議院議員

山崎 摩耶(やまざき・まや)

ヘルスケア・コンサルタント/日本認知症グループホーム協会顧問/前衆議院議員
 

・日本の訪問看護制度創設に尽力。

・介護保険制度創設には94年から2005年まで厚労省の社会保障審議会・介護保険部会、介護給付費分科会、身体拘束ゼロ作戦会議等でかかわる。

・日本看護協会常任理事、日本訪問看護振興財団及び全国訪問看護事業協会常任理事、

旭川医科大学客員教授、岩手県立大学看護学部教授、旭川大学特任教授を歴任。

・2009年衆議院総選挙に北海道比例で初当選。衆議院議員2期を務める。主に厚生労働委員会等で活躍。

・近著は「世界はチャレンジにあふれているー高齢者ケアをめぐるヨーロッパ&中国紀行」日本医療企画から出版など著書、論文多数。

 

 

 

日本と世界を比較しポストコロナ時代に備える

 

――長きに渡り日本の訪問看護や介護制度を牽引してこられました

 

保健師・看護師として1970年代半ばから制度なき時代の訪問看護に従事し、訪問看護制度創設に尽力してきました。また、日本の介護保険制度創設にあたり、高齢者介護・自立支援システム研究会をはじめ、社会保障審議会介護保険部会、介護給付費分科会、身体拘束ゼロ作戦会議、ケアマネジャー養成などの委員として制度づくりにも参画しました。諸外国の医療・福祉については、1980年代から視察調査しています。人生100年時代の高齢社会の幸福を追求するケアは世界共通であり、どの国も高齢社会を乗り越えようとそれぞれにチャレンジにあふれています。

 

日本の介護は素晴らしいですが、視野を広げて世界に目を向けることも必要です。グローバルな視点で魅力ある介護のあり方を模索する「Think Globally,Act Locally」という視点を大切にしてほしいと思います。諸外国から学ぶことも多くあり、コロナ禍をきっかけにポストコロナ時代の高齢者ケア・地域包括ケアのあるべき姿を考える必要があります。そこで参考になればと思い、各国の事例を紹介しながら考える「世界はチャレンジにあふれている―高齢者ケアをめぐるヨーロッパ&中国紀行」を出版しました。本書は2014年から2019年までで視察した、ヨーロッパ7か国(デンマーク・イギリス・フランス・ドイツ・オランダ・フィンランド・リトアニア)と中国の高齢者ケアや看取り・医療介護現場のIT・デジタルネットワークなどの取り組みを紹介しています。

 

 

 

――世界を巡りどのようなことを感じましたか

 

WHOや国際連合・世界銀行は、1990年代から高齢化社会の到来による国家経済や世界経済への影響について警告を発しながらその状況を注視してきました。実際、各国の国家予算に占める社会保障費は増大傾向にあり、その国の経済に大きな影響を及ぼしています。

 

特に認知症は高齢化とは切り離せない問題として、経済に影響を及ぼすポイントとなります。イギリスが2007年に国家戦略を作ったのを皮切りに、ほぼ同時期にフランス、そしてEU各国がそれぞれ国家戦略として認知症の対策にとりかかりました。

 

日本は2011年にオレンジプラン(認知症施策推進5か年計画)が策定され、その後2015年に新オレンジプラン(認知症施策推進総合戦略)ができました。2000年には介護保険制度が始まり20年以上が経ちました。日本が先行しているものばかりではなく、同時並行的に世界の国もそれぞれチャレンジしていることに気づきます。海外と日本の制度比較で新たな発見もあります。

 

 

 

エビデンスに基づいた科学的介護を重視

 

――昨年の介護報酬改定で着目すべき点はどこにあると思われますか

 

日本の介護保険はドイツを参考にしています。ドイツは日本の介護度でいうと、要介護3~5の重度者を対象にしたものでした。2017年の介護保険改革によって要介護1・2まで給付を広げ、軽度者支援と家族支援の強化を図り、認知症の人にも給付が強化され、軽度者を切り離そうとしている日本とは真逆な改革をしました。

 

日本も介護保険制度創設から20年目にして、新しい生活様式とケアの導入や、介護の質、科学的介護、アウトカムの推進、看取りの本格化、ICTの導入によるDXなどパラダイムシフトが起きています。特にこれから日本の介護事業者の課題になるのは、科学的介護だと思います。医療業界ではEBM(Evidence Based Medicine)を重視してきましたが、介護業界でもEBC(Evidence Based Care)が導入されました。全国の介護現場の事例がいくつも積み重なることで、やがて強力なデータベースへと成長していきます。エビデンスに基づいたケアによる自立支援の実現や、情報の可視化によってスタッフの育成の充実などが両立する一方で、ヨーロッパの国々のように、質の低い事業者が淘汰されていく仕組みになっていくでしょう。

 

 ヨーロッパ視察中の山崎さん(写真右端)

 

会員登録されている方のみ続きをお読みいただけます。

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP