編集部より

看護管理者研修は、現在の医療や看護を取りまく状況に対応するために重要な研修です。看護師がより良い看護サービスを提供するためには、看護の未来を担う次世代の看護管理者育成が欠かせません。

本記事では、看護師経験14年の西川さんが、看護管理者研修の具体的な内容や、必要とされる能力の定義、メリットやデメリットなどを解説します。

 

執筆/西川 正太(看護師、医療ライター)

編集/メディカルサポネット編集部

          

 

医療現場の進化に適応できる看護師を育成するには、看護管理者のスキルアップも必要です。そこで検討したいのが、看護管理者研修の実施です。本記事では、筆者が実際に体験した病院内の看護管理者研修について解説するとともに、施設ごとに研修を実施する重要性をお伝えします。

 

1.管理者育成に必要な「看護管理者研修」とは?

前を向いて真剣な眼差しの女性看護師

        

医療機関や施設などを運営するうえで、管理者のマネジメント能力を向上させる取り組みは欠かせません。しかし、急性期病院やリハビリテーション病院、介護施設など、施設ごとに機能が違うため、管理者に必要な役割やスキルも異なります。

 

たとえば、急性期病院では在院日数が短いなかで患者さんへの質の高いケアを実施し、状態の変化に合わせたアセスメントや対応ができる看護師を育成する役割が求められます。一方で、介護施設では、ほかの事業所との連携や医師が常駐していない場面での対応などが求められるため、病院でのマネジメント経験があったとしても、そのまま生かせるとは限らないでしょう。こうした施設ごとの違いを加味しないまま、汎用的なマネジメント研修を実施するだけでは、施設が求める管理者としてのスキルは得られない可能性があります。

 

施設の機能や状況にあった看護管理者を育成するためには、看護協会で実施されている管理者研修に加え、施設独自で管理者向けの研修を行う必要があります。

           

2.看護管理者育成に向けて、覚えておきたい6つの能力の定義

正面を向き、笑顔で1のサインをする女性の看護師

      

看護管理者の育成に向けて、参考にしたいのが、日本看護協会が提示する6つの能力です。施設を問わず、管理者に必要な能力として基本となる共通点があります。日本看護協会では、看護管理者の能力を下記の6つにカテゴリー化しています。

  

図表1:看護管理者に必要な6つの能力の定義

看護管理者に必要な6つの能力の定義。組織管理能力、質管理能力、人材育成能力、危機管理能力、政策立案能力、創造する能力。

出典:病院看護管理者のマネジメントラダー|日本看護協会

    

3.病院における看護管理者研修例

メモを取りながら真剣に講義を受ける女性看護師の後ろ姿

     

では、実際に、看護管理者研修はどのような形で実施すればよいでしょうか。看護管理者には看護主任、看護師長、看護部長と大きく3つの種類があります。それぞれの役割は異なるものの、それぞれの立場でリーダーシップを発揮し、看護職のやる気を向上させる役割を担っています。実際に、筆者が勤務していた病院の看護主任も、仕事ができる人でした。ただ、多くは語らないため、距離を置くスタッフも少なくない状況でした。

そうしたなか、ある患者さんが急変した際、看護主任がテキパキと動き、焦る医師に「先生、次これじゃない?」と冷静にフォローしていたのです。その指示があまりにも的確で、スムーズに処置ができ、患者さんは一命を取り留めました。

 

あとから看護主任に急変時の対応について聞いてみたところ「急変のときだからこそ冷静にっていうのは当たり前。先生は、より責任が重いから慌てる。だから、私たちは冷静にならないと」と話してくれました。看護師の役割をあらためて学ぶ機会となり、この話を聞いていた看護職は、「ついていこう!」と思ったのでした。

 

このように、管理者の在り方によって、現場の雰囲気が変わります。看護管理者の育成は、施設全体に影響するものといえるでしょう。ここからは、筆者の経験をもとに、実際に病院で開催されていた看護主任への研修内容を具体的に解説します。

 

看護主任への導入研修

病棟内でも重要な役割を担う看護主任は、現場のリーダー的存在であり、師長の補佐や一般看護師の指導などを行います。看護主任の育成を目的とした研修として、以下のような内容で実施されました。

  • 対象者:看護主任の候補
  • 研修期間:約6ヶ月
  • 内容:講義を中心に、ときには、グループワークで課題解決に取り組む。

例)SWOT分析(※)で自部署を分析したうえで課題解決への取り組みを実施し、グループ内で評価する。

 

課題解決への取り組みと評価を繰り返す過程が、看護管理に必要な能力を高める内容となっていました。講師は主に看護部長が担い、外部講師を招くこともありました。看護協会が定める6つの能力に沿って管理職としての基本的なスキルを学び、研修が修了すると看護主任に昇進する資格が得られる仕組みです。

 

※SWOT分析…Strength(強み)、Weakness(弱み)、Opportunity(機会)、Threat(脅威)の4つを挙げ、内部環境と外部環境、プラス要因とマイナス要因に分類して分析する手法

 

新任看護管理者研修

看護主任となりマネジメント業務を行うなかで、自身の課題を明確にして解決することを目的に実施されていました。研修を通して看護管理のスキルや知識を身につけ、不安を解消することも目的の1つです。

  • 対象:主任経験3年未満の看護主任
  • 研修期間:月1回
  • 内容:業務改善や人材育成、職務満足度向上など看護管理における重要なテーマに沿って課題を検討する。

例)「どうすればもっと自部署をよくできるか」「どうすれば問題解決できるか」などを話し合うことで、看護管理の実践力が養われ、現場での業務に生かす。

 

看護師から主任看護に昇進しても、すぐにマネジメント能力を発揮し、活躍できるわけではありません。実際に、現場に出たあとの不安を抱える看護師も多くいるため、同じ環境下にある管理者と気持ちや課題を共有し、解消にもつなげる内容となっています。さらに、自身を見直す機会となり、課題解決に取り組めます。

 

看護師長・看護主任会

すべての看護主任を対象とし、看護主任の上役となる看護師長がアドバイザーとして研修に参加して実施します。看護管理者として課題解決の能力向上を目指した研修となっています。看護主任が上層の組織経営の中核を担うための研修といえます。

  • 対象:すべての看護主任
  • 研修期間:3ヵ月ごと
  • 内容:看護師長が、看護主任それぞれの課題を明確にしたうえで解決できるよう促す。

 

看護主任は、病院経営の知識やスキルが不足している場合が多いため、人事課のスタッフが講師を務めることもあります。

 

4.施設で看護管理者研修を実施する3つのメリット

真剣に研修を受ける男性と女性2人

 

看護管理者研修を行うとしても、自施設で行うのはハードルが高いと思われるかもしれません。しかし、施設で看護管理者研修を実施するメリットとして、以下の3点が挙げられます。

 

1.施設が求める看護管理者を育成できる

先にもお伝えしたように、急性期病院や介護施設など施設により機能は違い、看護管理者へ求める役割やスキルは異なります。施設独自で研修を実施すると、施設ごとに必要なスキルを明確にし、知識を与える機会が提供できます。結果として、施設にとってより効果的な看護管理者の育成につながるでしょう。また、研修のカリキュラムを、実際の現場を見てきた看護部長や看護師長が「現場で必要な看護管理の能力」として構成できるのもメリットです。研修で学んだスキルは、現場に即した実践的なスキルであるため、すぐに活用できます。

 

 

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