経済産業省水口課長補佐に聞く 介護ビジネスケアラー問題に政府が切り込む背景

      

編集部より

就労しながら家族の介護にも従事する「ビジネスケアラー」が、近年増加しつつあります。仕事と介護の両立にはどのような課題が存在し、政府はどのような方向性で対策を取ろうとしているのでしょうか。経済産業省の商務・サービスグループ ヘルスケア産業課で課長補佐を務める水口怜斉さんと、係長の鶴山あかねさんにお話を伺いました。

※本記事のデータは、すべて『経済産業省における介護分野の取組について』(2023年7月:経済産業省ヘルスケア産業課)を出典としています。

    

取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)

撮影/和知 明(株式会社BrightEN photo)

編集/メディカルサポネット編集部

               

経済産業省の水口怜斉課長補佐と、鶴山あかね係長

≪経済産業省の商務・サービスグループ ヘルスケア産業課の水口怜斉課長補佐と、鶴山あかね係長≫

          

1. 介護のビジネスケアラー発生による損失は9兆円以上に!

水口さん:介護というと厚生労働省がイメージされがちですが、実は経済産業省でも積極的に取り組みを推進しています。具体的には、ロボット介護機器やICT機器などを含む福祉機器全般を担当する「医療・福祉機器産業室」や、主に保険外を中心とした介護サービス供給に関するソフト面を担当する「ヘルスケア産業課」などが、介護領域に携わっています。

   

超高齢社会となった日本において、多くの家庭で介護が必要になることはもはや避けられません。生産年齢人口の割合がどんどん減っているにもかかわらず、働き盛りの方々が介護問題に直面し、生産性を落としてしまうのは大きな問題です。私たちヘルスケア産業課は、こうした経済や労働力といった切り口から、介護サービスの在り方を改善しようとしているのです。

   

鶴山さん:現在、私たちが注目しているキーワードは「ビジネスケアラー」。就労しながら家族などの介護に従事する方を指す言葉で、2020年時点で約262万人が該当します。今後しばらくは増加していく見通しで、ピークとなる2030年には、およそ318万人もの方がビジネスケアラーになるという試算に。これは、家族介護者のうち約4割が、仕事と介護の両方を担っていることを意味します。また、仕事と介護の両立困難による労働生産性損失、介護離職に関連する育成費用や代替人員採用コストなどを合算すると、2030年における損失額は9兆1,792億円に達すると推計されています。介護に起因する経済損失の影響は想像以上に甚大であり、経済産業省としても看過するわけにいきません。

   

水口さん:個人的には、介護問題は防災に似ているところがあると感じています。大切だと分かっていても、心のどこかに「まさか自分には起こらないだろう」という油断が生じやすいもの。実際に直面する前に、しっかりと対策を取れる方は少数派かもしれません。しかし、いざ問題が起きてから動くのでは、間に合わないこともあるのです。例えば、仕事と介護の両立体制を築くためには「初動」が大切なのですが、窓口となる地域包括支援センターの存在すら知らなかったり、介護保険サービスの使い方がまったく分からなかったりする方も非常に多いのが現状です。情報不足のため適切に対応できなければ両立が困難になり、いずれは介護離職に至る可能性も低くないのです。

   

また、介護に関して「言いづらい」「聞きづらい」といった雰囲気の職場が多く、職員の介護事情について実態を把握できていない企業が多いことも問題です。本人を気遣ったつもりで比較的緩やかな働き方ができる部署に配置転換させたものの、事前に希望を聞いていなかったためやりがいを奪うような結果になってしまった――という話もよく聞きます。できるだけ本人の希望に沿ったかたちでの就労を続けるため、企業側の支援制度を構築していくことも課題の一つといえるでしょう。

      

発言する水口課長補佐

      

2. 「かゆいところ」に手が届く介護保険外サービスを応援

水口さん:こうした課題を受けて、経済産業省ではビジネスケアラー対策として3つのアクションを起こしています。一つ目は、介護保険外サービスの振興です。現在の介護保険制度では、ケアマネジャー(介護支援専門員)などが作成したケアプランに沿ってサービスを受ける必要があります。現状のケア

  

  

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