編集部より

「ナーシングビジネス」2019 vol.13 no.2より抜粋。『病院における産業保健の現状と課題』をご紹介します。

 

小森友貴(こもりともたか)

京都第一赤十字病院 産業医

2002年産業医科大学卒業、洛和会音羽病院で臨床研修を修了、2006年に労働衛生機関(京都工場保健会)で中小企業の産業保健活動を経験。その後2009年より京都第一赤十字病院専属産業医として就職。本活動以外に小児科臨床にも携わっている。日本産業衛生学会「医療従事者のための産業保健研究会」世話人として活動中。

    

いま病院において産業保健の取り組みが注目を集めつつあります。しかし現場ではいまだ人手不足の問題もあり、有給休暇の取得率向上や夜勤・交替制勤務への配慮、ハラスメントへの対策などの課題が散見されます。看護管理者が知っておきたいポイントを事例を交えて解説します。

目次

  1. 働きやすい職場が生み出すものとは?
  2. 知っておきたい対策と取り組み事例

 

働きやすい職場が生み出すものとは?

近年、医療現場を取り巻く環境は大きく変化し、超少子高齢化の時代が進む一方で患者のニーズは増大、多様化しています。また公的財源の制約は強くなり、労働人口の減少やICT(情報通信技術)の進化は、これからの医療システム全体に大きく影響を与えると考えられます。そうした中でわれわれ医療を提供する側は、疲弊することなく、医療従事者の持つべきプロフェッショナリズムを守り、こうした環境変化に対応していかなければなりません。2017年4月に厚生労働省から「新たな医療の在り方を踏まえた医師・看護師等の働き方ビジョン検討会報告書」、2018年2月には「医師の労働時間短縮に向けた緊急的な取組」が公表されるなど、これからは各医療現場において、医療者の職場環境対策が大きな課題となってきます。

 

看護職は多様かつ複雑な患者の医療や生活ニーズに寄り添い、多職種と連携しながら患者ケアの中心となり、医療現場で大きな役割を担っています。しかし今後も看護職へ求められる内容がさらに増大すると、そのストレスに耐えられず看護師不足がさらに深刻化することが予測されます。そして看護師の量的な不足だけでなく、看護師の若年化の進展や高い離職率により熟練した看護師が十分に育たず、看護の質の低下につながることも懸念されます。

 

看護師の労働衛生上の問題としては夜勤・交代制勤務をはじめ、腰痛、感染、医薬品などへの曝露、化学物質・物理的な有害要因、患者からの暴力などのリスク要因があり、メンタルヘルスやハラスメントなどの対策が急がれます。これらには個人だけでなく、組織としての取り組みを行っていくことが重要です。職場のメンタルヘルス対策の一環として2015年12月からストレスチェック制度が始まりました。この制度も現在は主にセルフケアが目的となっていますが、今後は集団分析結果を使った職場環境改善が求められてくることとなるでしょう。

 

2018年3月に日本看護協会より、看護職の健康と安全に働ける職場環境づくりの指針として「ヘルシーワークプレイス(健康で安全な職場)」という労働安全衛生ガイドラインが示されました。看護管理者は職場における業務上の危険を管理し、看護職が自分自身の健康づくりに取り組むことを支援する役割を担います。また経営陣の一員として各部門と連携・協力しながら、看護職だけでなく、組織内のすべての人々にとってのヘルシーワークプレイスを目指さなくてはなりません。

 

このガイドラインの中には仕組みづくりとして、①院長や看護部長らがその必要性を理解しトップの方針を出すこと、②取り組みを行うチームづくりと現職場の実態調査(既存データの収集・分析やアンケート・ヒアリング)、③問題解決のためのアクションプラン作成、④プランの実施、⑤取り組みの評価をし、PDCAサイクルを回すことなどが記されています。これらを参考に組織づくりを進めていくとよいでしょう〔図-01〕。

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