2023.07.10
5

FPが決算書から計算!上場介護企業 トップ10社ランキング2023

  

  

編集部より

介護企業はコロナ禍で感染対策に追われるなど、ここ数年困難な時期を経験してきました。そのような時代を耐え抜き、介護業界もコロナウイルスと共に暮らす「ウィズコロナ」のステージに入っています。

   

株式市場に上場している介護関連企業の決算報告書から、ファイナンシャルプランナーでオフィスISC代表の斎藤勇さんが計算し、2023年3月期(2022年4月~2023年3月)の売上高トップ10社をランキングにしました。決算月が異なる企業については、前期の売上高に加えて最新期の売上高の進捗具合もチェックしています。10兆円市場と言われる介護業界で、企業がどのように成長を続けているのか、気になる介護の会社をチェックしてみましょう。

   

執筆/斎藤 勇(ファイナンシャルプランナー/宅地建物取引士/オフィスISC代表)

編集/メディカルサポネット編集部 

   

   

            

1. 上場介護企業・連結売上高ランキング表と上位10社の紹介

 連結売上高は、企業の事業規模をチェックするときに参考となる指標です。上位の企業がどのように事業規模を拡大しているのか、今期の業績をどう予想しているのか、公開している決算資料をもとに見てみましょう。

   

連結売上高 TOP10
順位 企業名・証券コード 売上高(百万円)
SOMPOホールディングス 8630 149,800
ベネッセ 9783 介護・保育事業 132,687
セコム 9735 77,623
学研HD 9470 72,240
セントケアHD 2374 52,551
ソラスト 6197 48,536
ケア21 2373 38,398
シップヘルスケアHD 3360 33,581
チャーム・ケア・コーポレーション 6062 29,071
10 日本ケアサプライ 2393 25,892

  

※2023年3月期(2022年4月~2023年3月)の連結売上高です

※学研は9月期決算のため2022年9月期(2021年10月~2022年9月)の連結売上高です

※ケア21は10月決算のため2022年10月期(2021年11月~2022年10月)の連結売上高です

※チャーム・ケア・コーポレーションは6月決算のため2022年6月期(2021年7月~2022年6月)の連結売上高です

          

1位 SOMPOケア(SOMPOホールディングス 8630)

     

上場介護企業の連結売上高トップのSOMPOケアは、損害保険会社のSOMPOグループの介護・シニア事業で、介護付き老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅、在宅サービスなどを行っています。

   

2023年3月期の「介護・シニア事業」は増収減益となりました。2023年3月末時点の施設入居率が92.3%(前年同期は91.1%)に上昇したほか、住居系・在宅系の事業所数がともに増えており、増収に寄与しています。減益になった理由については決算資料で触れていませんが、のれん(※1)の償却額を5,274百万円(前年同期4,807百万円)計上しており、営業利益を圧迫している可能性がありそうです。

   

2024年3月期については施設入居率が94.8%に上昇し、住居系・在宅系の事業所数をM&Aや新規開設によって増加する計画により、増収増益を見込んでいます。

   

※1 のれんとは、M&Aの際に買い手が支払う買収金額のうち、買収企業の純資産を上回った差額のことです。差額は複数年にわたり、販売費・一般管理費として計上するため、営業利益圧迫の要因になります。

    

※決算短信でセグメント別の営業利益、来期予想に関する記載がなかったため、決算説明資料の事業別詳細にて公表されていた売上高と営業利益率をもとに計算しています

    

    

2位 ベネッセスタイルケア(ベネッセホールディングス 9783)

  

上場介護企業の連結売上高2位のベネッセスタイルケアは、進研ゼミでおなじみのベネッセホールディングスの介護・保育事業を展開している企業で、入居介護サービス事業や高齢者住宅、在宅介護サービス事業、介護・医療職の派遣・紹介サービス、高齢者向け配食サービス、保育園・学童運営事業などを行っています。

   

2023年3月期の「介護・保育事業」は増収減益となりました。増収の主な要因は入居介護サービス事業において、高齢者向けホームと住宅数が前期比で9拠点増加したこと、保育園・学童運営事業でも拠点数が6拠点増加し、顧客数が増えたことです。これにより売上高が前期比で4.2%増加しました。しかし光熱費と販促費の増加が影響し、営業利益は前期比17.0%の減益となっています。

   

2024年3月期については新規開設拠点の増加と入居率の改善、価格改定等によって売上高は前期比で6.6%増加、営業利益は前期比で42.8%増加と大幅な増益を見込んでいます。

  

  

3位 セコムのメディカル事業(セコム 9735)

   

上場介護企業の連結売上高3位は、警備・セキュリティでおなじみのセコムのメディカルサービス事業です。訪問看護サービスをはじめとした在宅医療サービスを中心に、シニアレジデンスの運営、電子カルテの提供、医療機器・医薬品等の販売、介護サービス、医療機関向け不動産賃貸などの事業を展開しています。

  

2023年3月期のメディカルサービス事業は増収増益となりました。増収の主な要因は海外事業が好調に推移したこと(インドにおける総合病院事業会社の増収)と、医療機器の販売が好調に推移したことで、売上高が前期比で4.1%増加、営業利益が前期比で3.7%増加しました。

   

2024年3月期についても売上高の増加傾向が続くものの成長率はやや鈍化し、売上高と営業利益ともに前期比で0.5%増加を見込んでいます。

   

   

4位 学研ホールディングスの医療福祉分野(学研HD 9470)

   

※学研は9月期決算のため2022年9月期(2021年10月~2022年9月)の連結売上高です。

   

上場介護企業の連結売上高4位は、学習塾などの教育サービスを展開する学研ホールディングスの医療福祉分野です。サービス付き高齢者向け住宅や認知症グループホームなどの介護施設、子育て支援事業などを行っており、2023年9月期は介護施設の新規開設を推進する方針を掲げています。

  

2023年9月期の医療福祉分野は増収増益の見通しで、中間決算報告書でも上期の売上高・営業利益ともに前年同期を上回って推移しています。中間決算報告書によると、上期にサービス付き高齢者向け住宅を6事業所、認知症グループホームを7事業所新規開設しました。この結果、2023年9月上半期(2022年10月~2023年3月)の売上高は前年同期比で8.2%増加、営業利益は前年同期で15.7%増加しています。上期までの売上高は380.8億円で通期計画に対する進捗率は50.2%ですが、営業利益は13.8億円で同進捗率が39.3%にとどまっており、このままのペースでは計画通りの営業利益を確保するのが難しいかもしれません。

  

  

5位 セントケア・ホールディング 2374

  

上場介護企業の連結売上高5位のセントケア・ホールディングは、訪問介護や訪問入浴をはじめとした訪問系のサービスのほか、看護小規模多機能型居宅介護や小規模多機能型居宅介護などの施設系サービスを主に行っています。

   

2023年3月期は増収減益でした。2021年11月に連結子会社となった株式会社福祉の里の業績が好調に推移したほか、新規出店や新会社設立などにより売上高が前期比で7.5%増加しました。その一方で労働環境の改善に伴う人件費の増加や水道光熱費の上昇などにより、営業利益は前期比で3.8%減少しました。

   

2024年3月期は、訪問系・施設系サービスにおいて新たな拠点を27カ所開設する予定で、早期の黒字化によって売上高が前期比で5.3%増加、営業利益が前期比で22.1%の増加を見込んでいます。

   

  

6位 ソラスト 6197

   

上場介護企業の連結売上高6位はソラストの介護事業です。訪問介護(ホームヘルプサービス)や通所介護(デイサービス)、介護付き有料老人ホーム、ケアハウス、住宅型有料老人ホーム、サービス付き高齢者向け住宅、ショートステイ、居宅介護支援、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)、訪問介護などを行っています。

  

2023年3月期の介護事業は増収減益でした。積極的なM&Aが業績に貢献して売上高は増加しましたが、積極的な賃上げを行ったことなどから減益となりました。2024年3月期はコロナ禍の影響から回復し、売上高が前期比で14.1%増加、営業利益が前期比で27.7%増加する見通しです。また、同社は中期経営計画2025を掲げており、介護分野ではM&Aによって2025年度(2026年3月期)までに売上高を720億円に上積みする計画を立てています。

   

  

7位 ケア21 2373

  

※ケア21は10月決算のため2022年10月期(2021年11月~2022年10月)の連結売上高です

  

上場介護企業の連結売上高7位のケア21グループは、訪問介護事業をはじめとした在宅系事業所(2022年10月現在 314施設)と、有料老人ホームなどの施設系事業所(同128施設)、障がい者(児)支援事業やダイニング事業などのその他事業所(同154施設)を運営しています。

   

2022年10月期は増収減益でした。在宅系事業所が前期の285施設から314施設に増えるなど、積極的な事業展開によって売上高は増加しましたが、コロナ禍の影響で施設系介護事業の入居時期先送りがみられたほか、人件費や感染予防対策費用の増加、食料品や光熱費の価格上昇による負担が増えたことで営業利益は前期比で26.5%減少しました。

   

2023年10月期については、積極的なエリア開拓とM&Aによって増収増益を見込んでおり、3月に発表された第1四半期決算(2022年11月~2023年1月)によると、売上高は前年同期比4.7%増で推移しました。しかし、施設系介護事業の入居ペース鈍化が継続したことや、食材費と水道光熱費の上昇が影響したことなどから、営業利益は赤字に転落しています。営業利益の通期計画を達成できるのか、今後発表される中間決算の中身を確認したいところです。

  

  

8位 シップヘルスケアHDのライフケア事業 (シップヘルスケアHD 3360)

  

上場介護企業の連結売上高8位のシップヘルスケアHDのライフケア事業は、老人ホームやグループホームの運営、食事提供サービスなどを行っています。

   

2023年3月期は増収減益でした。介護事業では高い入居率を維持したほか、新規にM&Aをした給食事業が寄与して、売上高は前期比で33.0%増加しました。一方、食材価格の高騰や光熱費高騰の影響を受け、営業利益は前期比で14.6%減少しました。

   

2024年3月期のセグメント別の業績予報は公表されていません。そこで、他のセグメントを含めた業績を見ると、売上高の多くを占めるトータルパックプロデュース事業(医療機器及び医療設備等の一括受注販売及びメンテナンス、医療・保健・福祉・介護施設等に関するコンサルティング、医療機関等に対する不動産賃貸など)とメディカルサプライ事業(医療用診療材料及び特定保険医療材料等の販売など)が底堅く推移するなどして、全体の売上高が年期比で4.8%増加、営業利益が前期比で13.5%増加を見込んでいます。

  

  

9位 チャーム・ケア・コーポレーション 6062

  

※チャーム・ケア・コーポレーションは6月決算のため2022年6月期(2021年7月~2022年6月)の連結売上高です

   

上場介護企業の連結売上高9位のチャーム・ケア・コーポレーションは、介護付有料老人ホームに経営資源を集中させており、2022年6月時点の施設数は71施設で、そのほかでは住宅型有料老人ホームを5施設運営しています。同社によると、介護付有料老人ホームは収益が見込みやすい一方、運営実績のない事業者にとっては参入障壁が高いと分析しており、経営資源を集中させることで高い成長と安定経営を目指しているようです。

   

2022年6月期の業績は増収増益でした。既存の老人ホームで高い入居率を維持したことなどから、水道光熱費の上昇などコスト増加分を補い、売上高が前期比で28.6%増加、営業利益が前期比で40.8%増加しました。

   

2023年6月期についても大幅増収増益予想で、売上高が前期比で39.2%増加、営業利益が前期比で87.5%増加を見込んでいます。なお、第三四半期決算資料から進捗具合をチェックすると、3月までの累計(2022年7月~2023年3月)で連結売上高は前年同期を上回っていますが、営業利益は前年同期を下回っています。進捗率については、介護事業セグメントの売上高が通期計画の72.2%、営業利益が同67.0%にとどまっています。一方、売上規模で全体の約4分の1を占めるその他事業の売上と営業利益は、第四四半期に集中計上される予定で、結果によっては通期計画達成が視野に入りそうです。

  

   

10位 日本ケアサプライ 2393

   

上場介護企業の連結売上高10位の日本ケアサプライは、福祉用具のレンタル・販売卸を中心に事業を展開する三菱商事グループに属する企業です。

   

2023年3月期の業績は増収減益でした。主力の福祉用具レンタルが堅調に推移したことや、後期高齢者が増加する都市部を中心に拠点の新設・移転を行ったことなどから、売上高は前期比で11.1%増加しました。一方で、レンタル資産の購入費用や拠点の新設・移転に関するコスト、人件費、物流費などの増加によって営業利益は前期比で9.0%減少しました。

   

  

2024年3月期については主力の福祉用具レンタルに加え、新たな収益の柱として取り組んでいる高齢者生活支援サービスが業績に寄与し、増収増益を予想しています。

  

  

  

2. 上場介護企業上位10社 連結売上高増加率のランキング表

 連結売上高が前期と比較してどのくらい増えたのか・減ったのかを知ることができる連結売上高増加率。事業の成長度合いを確認する際にチェックしたい指標です。

  

連結売上高増加率ランキングトップはチャーム・ケア・コーポレーションで、前期を約4割も上回る大幅増収を見込んでいます。2位はSOMPOホールディングスで約2割の増収見込みです。また、3位以下すべての企業が今期は増収を見込んでいます。

  

会員登録されている方のみ続きをお読みいただけます。

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP