2019.11.11
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自社開発システムで働き方改革(なごみ薬局)

この薬局がすごい!
第12回「業務効率化」

薬剤師の仕事は「対物業務から対人業務へ」と言われる昨今。いかに業務を効率化し、薬剤師本来の仕事に専念する時間を作るかが課題の一つとなっています。第12回のテーマは「業務効率」です。株式会社なごみ薬局では、代表の渡辺輝さんが薬剤師兼エンジニアという強みを生かし、薬名を音声検索すると薬品棚の置き場所が表示されるツールや、処方箋送信アプリなどを自ら開発し、効率的な働き方を実現させています。ITを活用した業務効率化の効果について渡辺さんに聞きました。

取材・文/竹中孝行(薬局支援協会理事)
撮影/東京写真工芸株式会社
編集・構成/メディカルサポネット編集部

この薬局がすごい! 第12回「業務効率化」なごみ薬局 上高田店 自社開発システムで働き方改革 

 

シフトも薬の位置も一目でわかる! 自社開発システムで働き方改革 

竹中孝行さん(以下、竹中): 薬剤師兼エンジニアってすごいですね!どういう経緯で両方を極めたんですか?

 

渡辺輝さん(以下、渡辺):小学生のとき、パソコン部の部長だったんですよ(笑)。自分の強みがたまたまテクノロジーだった、それだけです。薬剤師としては、病院薬剤師を経て28歳で独立し、薬局を開きました。副業的にIT関連の仕事もしていました。当時は「今までにない薬局を作りたい」という夢だけで起業したので大失敗したのですが。

  

エンジニアとして自社のシステム開発を続けているなごみ薬局代表取締役の渡辺輝さん

エンジニアとして自社のシステム開発を続けているなごみ薬局代表取締役の渡辺輝さん

  

竹中:大失敗した話も聞きたいんですが、今日は自社システムの話を(笑)。まず薬局のどんなところからテクノロジーを生かし始めたんですか?

 

渡辺:最初は、在庫管理と在庫を予測するシステムを作りました。同じ作業が嫌いで、楽をしたかったので(笑)。それと、業務効率化のためにマニュアル・ルールブックを作成しました。電子化し、iPhoneや薬局内で配ったiPadを通じていつでも見られるようにしました。テンプレートを作ったので、スタッフは誰でもページを新たに作ったり更新したりできます。最初は自分が作り込んでいましたが、次第にみんながやってくれるようになりました。作ってくれた人はちゃんと評価をします。

 

竹中:一般的に、業務手順書などのマニュアルは、1度作ったらそのままにしてしまうことが多いですよね。スタッフが更新していけるのは素晴らしいですね。でも、そもそもなぜ自社でシステムを開発したのですか?

  

渡辺:ビジネススクールに通ったことがあって、そのときに「サービス業は生産性が肝になり、差別化した分が利益になる」と習いました。そこで「生産性を上げるにはテクノロジーしかない」と思ったのがきっかけです。働いている薬剤師が幸せになるには、仕事が楽しくないといけません。意味のわからないことをやらされていると段々気持ちが沈んでしまうので、それをテクノロジーで解決したいと思いました。今は「Medical-Pay」っていうアプリを開発しているんですよ。もうウェブ版はできていて、スマホ版を作っているところです。今日も朝までやっていました(笑)。

  

竹中:すっかりエンジニアの顔ですね。開発の話をするとき、本当に楽しそうです(笑)。「Medical-Pay」はどういうアプリなんですか?

 

渡辺:薬局へ処方箋を事前に送れるアプリで、薬剤師とチャットもできるし、事前に銀行振り込みもできるので支払いの時間を省けます。「マイ薬局」の登録もできます。このアプリはどの薬局でも無料で利用できるので、ぜひ試していただきたいですね。ゆくゆくは、位置情報ゲームアプリ「ポケモンGO」のような仕組みで、薬局までの道順を案内できる地図アプリもつくりたいですね。そうしたら、元気なのに道に迷いやすい軽度認知症の方も1人で薬局に来られるので、外出する機会も増えると思うんです。

  

竹中:他にはどんなシステムが稼働しているのですか?

  

渡辺:シフトグラフ作成、雇用契約書の自動作成と管理運用、プレアボイド・リスクマネジメント、薬のインデックス、訪問薬歴システム、発注システム、自動在庫予測システムなどです。

  

竹中:いろいろありますね。順番に聞いていきたいのですが、シフトグラフとは何でしょうか?

 

シフト希望の入力をすると自動で1日ごとの人員体制を表示。店舗ごとの忙しさも数値化できる

シフト希望の入力をすると自動で1日ごとの人員体制を表示。店舗ごとの忙しさも数値化できる

 

渡辺:薬局経営が軌道に乗ると、人の管理が大変になるんですよね。そこで、薬剤師の希望したシフト時間帯を入力するだけで、1日ごとの人員体制がひと目で分かるシフト作成自動化システムをつくりました。1人当たりの生産性も数値化でき、どの店舗で人手が足りないかも分かります。今までは現場に入って忙しさを主観的に比較していたんですが、数値で客観的に判断できるようになりました。あと、採用の効率化のために、ピープルアナリティクスというものも活用しています。WEBテストを受けてもらうと性格が20種類ほどに分類されるので、社員の性格との相関関係をグラフ化して採用基準の一つにしています。

  

竹中:採用も効率化の努力をされているんですね。そのシステムで雇用契約書の自動作成もできるんですか?

   

渡辺:そうですね。経営者の方は分かると思いますが、面接して、評価して、雇用条件通知書を作って、その後雇用契約書を作り、はんこを押してもらって…というやり取り、とても面倒なんですよね。その過程を全て自動化したシステムを作りました。先方に送るメールまで自動作成できます。

  

竹中:メールまで自動で作れるなんて、すごいですね。あと、聞き慣れない言葉なのですが、薬のインデックスとは何ですか?

  

渡辺:薬のインデックスは、特に力を入れているんですよ! これは、スマートフォンやタブレットをICカードの「Suica」みたいに専用のチップにタッチすると自動的にアプリが起動して、薬名を音声検索すればその薬が棚のどこにあるか表示されるんです。チップは調剤台に数カ所貼るだけです。薬の位置を覚えるのは大変なので、とても役に立ちますね。

 

スマホやタブレットで薬名を音声検索すると薬の置き場所が表示されるシステム「薬のインデックス」スマホやタブレットで薬名を音声検索すると薬の置き場所が表示されるシステム「薬のインデックス」

スマホやタブレットで薬名を音声検索すると薬の置き場所が表示されるシステム「薬のインデックス」  

 

竹中:どれもかゆい所に手が届くシステムですね! ちなみに、スタッフの方とのコミュニケーションの取り方や信頼関係の築き方でも何か工夫をされていますか?

  

渡辺:3つありますね。時間を守ること、挨拶すること、掃除することです。小さい約束ごとをみんなで共有して、少しずつ守っていくと信頼関係ができてきます。何かちょっとしたことがあっても許せたり、受け入れられたりするようになります。意識して組織作りをやっていくと、業務がスムーズになります。

  

竹中:いいですね。あちらの棚に飾られているのは、企業理念ですか?

  

今年新たに作成した企業理念を手に笑顔を見せる渡辺さん

今年新たに作成した企業理念を手に笑顔を見せる渡辺さん  

 

渡辺:はい。なごみ薬局を開業して13年目になるのですが、今年、あらためて理念をブラッシュアップしました。今までは「心から元気にする薬局」という一言だったんですが、気持ちや行動指針を整理し、「圧倒的なTechnologyと感化させるArt、そして薬学的根拠をもとに、健康で幸せを感じられる社会にします」といった7つの言葉にまとめました。スタッフは、せっかく長い時間働くのに楽しくなかったらかわいそうですよね。なぜここで働くのかを理解してもらった方が楽しめると思っています。

 

竹中:事業の柱は、テクノロジー、アート、専門性なんですね。薬局の内装もすごくすてきですね。

 

渡辺:アートな雰囲気の薬局にしたかったので、タイルや照明、ソファといった内装にはこだわりました。自分の好きなものを並べただけ、とも言えるんですが(笑)。目から認知する情報で、ご高齢の方や認知症の方も心から笑ったり元気になったりするんですよ。あとは“コミュニティーファーマシー”を目指していて、いろんな人が集まって話せるイベントスペースとしても使えるように待合室を広く取っています。今年の夏は子ども向けに薬剤師体験教室を開き、白衣を着た子どもたちに分包機を使った調剤や服薬指導をしてもらいました。

  

木とタイルの色が調和。人気ガラス作家の照明も飾られ、アートが身近に感じられる空間

木とタイルの色が調和。人気ガラス作家の照明も飾られ、アートが身近に感じられる空間

   

竹中:地域にしっかり根差していますね。

  

渡辺:開業から2年経った今は順調ですが、ここは駅から遠いしバスも走っていない陸の孤島みたいな場所なので、失敗覚悟で始めたんですよ。このクリニックモールで開業された先生の地域医療に貢献したいという思いに感銘を受けたのと、近隣に薬局がなくて住民の方たちが困っていることも知ったので上高田店の開業を決めました。

 

竹中:これだけのシステムを開発されていますし、今後は開発会社としても事業を展開していく可能性はありますか?

  

渡辺:うーん、何かきっかけがあればですね。金儲けも大事ですが、社会貢献を一生通してやりたいと思っています。2、3年で結果を出すというより、10年ぐらいの長いスパンで考えています。エンジニアとしての技術を磨くために今の自分の時間をフルに使って、40代で結果を出せればいいかなと思っています。何もできないのに、声だけ大きい人っているじゃないですか。そういう人になりたくなくて、作って支える側にまわりたいと思っています。

  

竹中:素晴らしいですね。薬局としては今後どのような展望ですか?

  

  大切にしていることは「社会貢献」「ワクワクする」「自分の強みを生かす」だという

 

渡辺:薬局の無人化に取り組んで、薬剤師が本来できる仕事に集中させていきたいです。例えば、アプリで薬局に来る前に必要な手続きを済ませておいて、薬局に来たらロボットが対応して、ドローンで配達できたら面白いですね。在宅医療の場合、寝たきりの患者さんが鍵もかかっていない家で1日中窓の外を眺めているだけ、なんていうことも多いんですよ。そういう人を放って置けないので、働き方を変えて、チーム医療を陰で支える薬剤師が時間をかけて話を聞き、最後は手を握って看取ってあげられる。そんな風にしたいですね。コミュニティーファーマシーとして、場をつくる役割も担っていきたいです。薬局が薬を渡すだけの場所ではなく、みんなが元気になるような場所に変えていきたいですね。

   

なごみ薬局 上高田店

なごみ薬局 上高田店

所在地:東京都中野区上高田1-8-13

TEL:03-5942-6080

URL:https://nagomipharmacy.co.jp/

2007年創業。テクノロジーとアート、専門性を大切にした薬局づくりを行い、都内に東京警察病院前(本店)、西荻窪駅前店、上高田店の3店舗を構える。代表取締役の渡辺輝氏は薬剤師兼エンジニアで、自社のシステムやアプリを自ら開発している。渡辺氏が開発した処方箋送信アプリ「Medical-Payは、どの薬局でも無料で利用できる。

ライター/竹中孝行(たけなか・たかゆき)

ライター/竹中孝行(たけなか・たかゆき)

薬剤師。薬局事業、介護事業、美容事業を手掛ける「株式会社バンブー」代表。「みんなが選ぶ薬局アワード」を主催する薬局支援協会の代表理事。薬剤師、経営者をしながらライターとしても長年活動している。

◆取材を終えて

渡辺さんのワクワク感が伝わってくる取材でした。社員を大切に思う気持ち、患者さんのためになることをしていきたいという思いがとてもすてきでした。特に、開発の話をされているときのキラキラした目が印象的で、本当に好きなこと、強みを生かした仕事をされているんだなと思いました。今後、どのようなものを開発されるのか非常に楽しみです。ありがとうございました。


 

メディカルサポネット編集部

(取材日/2019年10月24日)

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