2020.02.07
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店舗連携で効果は最大に、リスクは最小に
(たむら薬局)

この薬局がすごい! 第13回「ドミナント戦略」

特定のエリアに集中的に出店し、利便性や宣伝効果を高める「ドミナント戦略」は、コンビニエンスストアの経営手法として有名ですが、近年は大手薬局・ドラッグストアチェーンでも見られます。西武池袋線江古田駅から徒歩5分圏内には「たむら薬局」が4店舗を構えています。地域に根差した活動の中で結果的にドミナント展開になったそうです。業務内容も保険サービスに加えて市販薬や健康食品の販売、管理栄養士による栄養指導など多岐にわたります。たむら薬局を運営する有限会社ファルマ代表取締役、田村憲胤さんにドミナント戦略の効果と未来像を聞きました。

取材・文/竹中孝行(薬局支援協会理事)
撮影/山本未紗子(株式会社BrightEN photo)
編集・構成/メディカルサポネット編集部

この薬局がすごい! 第12回「業務効率化」なごみ薬局 上高田店 自社開発システムで働き方改革 

 

店舗連携で効果を最大化 地域の”顔が見える関係”生かす 

竹中孝行さん(以下、竹中): 江古田駅周辺に4店舗を構えるというのは、かなり地域を絞った経営をされていますよね。もともと江古田にご縁があったのでしょうか?

 

田村憲胤さん(以下、田村):生まれも育ちも江古田なんです。両親は音楽家で、親戚に薬剤師がいるわけでもありません。でも、子どもの頃から通っていた地元の薬局がありまして、薬剤師さんは何でも話を聞いてくれました。店内に並んだいろんな薬や健康食品は宝箱のように見えて、面白かったんですね。その薬剤師さんに憧れて、薬剤師を目指しました。健康食品やOTCの販売に興味があったので、大学卒業後は大手のドラッグストアに就職しました。

  

たむら薬局を運営する株式会社ファルマ代表取締役の田村憲胤さん

江古田駅周辺で「たむら薬局」4店舗を経営する有限会社ファルマ代表取締役の田村憲胤さん

   

竹中:ドラッグストアに就職された後に、江古田で薬局を始めるきっかけが何かあったのでしょうか?

 

田村:ドラッグストアに就職した後、道でたまたま先ほどお話した憧れの薬剤師さんに会って薬剤師になったことを伝えました。その薬局には後継ぎがおらず、「うちの薬局を引き継がないか」と突然の打診を受けたんです。当時の私はドラッグストアのただの社員で、入社1年目。まさか自分が経営者になるなんて思ってもみませんでした。しかし、昔からかかりつけにしていた薬剤師さんに誘われたのはとてもうれしかったですし、興味が湧きました。すぐに経営者になる自信はなかったので、休日にその薬局で働かせてもらいました。その薬剤師さんはケアマネジャーの資格もお持ちで、薬局の中で介護支援事業所も運営。処方箋調剤だけでなく、一般用医薬品や介護のことなど、身の回りのことを何でも相談に来るお客さんがたくさんいたんですね。そんな地域密着の働き方に触れるうちに、「生まれ育った場所で、薬剤師として地域の人から必要とされるような薬局ができたら、とてもやりがいがあるだろうな」と思いました。ドラッグストアを退職し、その薬局で2年間修行させてもらい、引き継ぎました。その後も、昔から江古田で薬局を経営されている方から「地元の方に跡を継いでもらいたい」と譲り受け、今では江古田で4店舗を経営しています。

 

竹中:独立のきっかけが子どもの頃から憧れていた薬局で、さらに店舗を引き継いだなんてとてもすてきですね。江古田から離れて出店エリアを広げようと思ったことはなかったんですか?

  

田村:実は、そういう話もあったんですよ。ただ、日々の薬歴に追われながら採用や労務管理、教育といった経営者としての業務にも追われ、かつて憧れていた薬剤師になれているのかと悩んだ時期がありました。その中で初心に帰り、地域の人々の健康的な生活に貢献したいと思い、江古田から出ないことを決めました。

  

 たむら薬局の健康食品が並んだ棚。各商品の特長を伝えるポップ作りにも力を入れている

   

竹中:苦しい時期があったんですね。江古田でいわゆるドミナント展開をしていて感じるメリットとはどんなことでしょうか?

 

田村:「江古田といったらたむら薬局」というブランディングが成功しつつあり、各店舗の相乗効果もあって医療機関から受ける処方箋の数が増えています。処方箋は4店舗で月に約4000枚で、毎月300程の医療機関から受けています。薬の種類も全店合わせると3000品目以上ありますね。店舗間でICTを活用した情報共有もしています。各店の薬の在庫数・種類もすぐに分かりますし、ネットワークカメラで店内の混雑具合も一目で確認できるので、すぐにヘルプに行くことができます。最近では、患者さんがどの店舗に来ても同じ対応ができるように、薬歴を共有できるクラウド管理も進めています。地元商店会の会長をしたり地域に根差した活動をしたりしていると他職種の方ともどんどん”顔が見える関係”になって、連携が進んでいるのを感じますね。そんな取り組みをメドピアさんに注目していただき、同社が開発・運営するかかりつけ薬局化支援サービス「kakari」では、パイロットユーザーとなっていろいろな改善提案も反映していただきました。「kakari」を使えば処方箋の受付や患者さんとチャットで薬の相談がスムーズにできて、いいですよ。たむら薬局のアプリとして紹介できるので、患者さんからは「そこまでやってくれるなんて、すごい!」と、どこの病院にかかっても来てくれるようになりました。

 

たむら薬局のネットワークシステム  店内の様子はネットワークカメラで把握。混んでいれば店舗間でヘルプに駆け付ける

 

竹中:ICTの活用もされていて、すごいですね。話は変わりますが、どの店舗にもさまざまな健康食品やOTC医薬品が並んでいて、物販に非常に力を入れているようですね。どうしてですか?

 

田村:地域の人の健康にもっと貢献したいと考えた時に、相談に乗るための“武器”が欲しいと思ったんです。一般的な保険薬局は、調剤・服薬指導、在宅、学校薬剤師といった地域衛生に比べて、セルフメディケーションである健康相談やOTCの分野が弱いイメージがありますよね。人生100年時代は、大きなリスクは公助・共助、小さなリスクは自助を徹底することが大切で、社会全体で病気の予防・健康づくりへの支援を強化する必要があります。そんな背景から公的保険外サービスを強化したいと思い、一般用医薬品、医薬部外品、スキンケアなどさまざまなジャンルの商品を厳選しました。イメージは、処方箋がなくても訪れたくなる「薬のセレクトショップ」です。薬局薬剤師は住民が会う最初の医療職なので、この地域で健康な生活を送れるように、care(セルフメディケーション)からcure(保険調剤)まで幅広く貢献し、地域と医療をつなぐHUB(中心)として頼りにされる薬局を目指しています。ここは駅まで数分のエリアですが、駅前のお店まで行けない高齢者がいっぱいいるので、洗剤やおむつ、トイレットペーパーなど生活用品も幅広くそろえています。薬局で近所の方たちの井戸端会議が始まることもありますよ。

   

竹中:確かに、これからの保険薬局はセルフケア分野にも力を入れていく必要があると思います。ただ、近隣に大手ドラッグストアもありますが、差別化するためにどんな工夫をされていますか?

 

たむら薬局を運営する株式会社ファルマの田村憲胤代表

「処方箋なしでも来たくなる『薬のセレクトショップ』を目指しています」と話す田村さん  

 

田村:それは品ぞろえですね。世の中に健康情報があふれているからこそ、薬の専門家が選んだ商品を提供することが大切だと思っています。自分も実際に使いながら価値があるものを厳選した結果、他では売っていないようなものがそろいました。私は日本薬局協励会の会員なのですが、地区ごとに定期的なグループ会があり、そこで「どの商品がいいか」「どんな風にアピールするか」といった情報交換をしています。昔ながらのやり方で頑張っている薬局さんは豊富な経験から培ったたくさんの知識や販売テクニックを持っています。そういった方からの学びが多いですね。

 

竹中:昔ながらの地域密着の薬局さんは保険に依存していないところも多いですもんね。物販に関しては、薬剤師としてどういう心構えが必要なのでしょうか?

   

田村よく実習生に話しているんですが、処方箋には答えがあって、それが合っているかどうかを判断します。一方、薬局で健康相談をされる方には悩みがあって、その答えが知りたくて来ています。悩みに対して応えられるようにすることが大切で、物販はそのためのアイテムの一つです。提案をする中で、提供できる商品があれば合わせて紹介します。そのためには、保険がきくものときかないものとを把握し、薬と商品の幅広い知識を得ていることが必要です。開業当初は、物販の売上は年間200万円ほどだったんですが、2019年は年間1200万円まで成長しました。とはいっても、物販が軌道に乗るまでには時間がかかります。薬局を通じた成功体験を持っている地域の方が代々続いてファンが増えてきます。何十年もの時間をかけて信頼を作っていく必要がありますね。

調剤の業界的にあまりやらないと思いますが、薬局の認知度を上げるためにちらしの新聞折込も定期的にしています。ドミナント経営なので、たむら薬局として4店舗を一気にアピールできるのがいいですね。

     

ニュースレターにはたむら薬局の管理栄養士が考案したレシピが載っている 

 

竹中先ほど栄養ドリンクの「若甦」(じゃっこう)をいただき、その良さを田村さんから聞いていたら購入したくなってきました。まずは与える精神が大切なんですね。最後にお聞きしたいのですが、今後、薬局あるいは薬剤師としてどのようなところを目指されているのでしょうか? 

 

田村:薬局の存在価値を、「薬をもらう場所」から「健康をもらえる場所」に変えることを目指しています。日常生活圏にあって、処方箋がなくても来られる場所ですね。そのための第一歩が、セルフメディケーションです。実は管理栄養士を数名採用しており、各店舗で栄養相談ができるようにしたり、レシピを盛り込んだニュースレターを定期的に発行したりしています。物販もそうですが、保険サービスだけに頼らないような“武器”をもっと増やし、それを磨いて地域での健康的な生活にさらに貢献できるよう挑んでいます。今後も、単なる地域最大の薬局ではなく、最良の薬局を目指していきたいと思います。そして、自分たちと同じように保険サービスだけではなく、地域にしっかり根差してセルフケアにも貢献する薬剤師の輪が広がってくれたらうれしいと思っています。

   

たむら薬局小竹町店

 たむら薬局 小竹町店

所在地:東京都練馬区小竹町1-76-17
TEL:03-5926-9911
URL:https://www.tamura-pharmacy.com/

2005年創業。江古田地域に特化し、栄町・旭丘・小竹町・豊玉上の4店舗で展開している。iPadによる電子薬歴システムを導入し、服薬指導や在宅訪問で活用。全店で調剤監査支援システムも導入している。ドミナント展開で効果を最大化、リスクを最小化し、地域の健康をサポートする拠点となっている。

ライター/竹中孝行(たけなか・たかゆき)

ライター/竹中孝行(たけなか・たかゆき)

薬剤師。薬局事業、介護事業、美容事業を手掛ける「株式会社バンブー」代表。「みんなが選ぶ薬局アワード」を主催する薬局支援協会の代表理事。薬剤師、経営者をしながらライターとしても長年活動している。

 

◆取材を終えて

地域密着という言葉はよく耳にしますが、実際に体現されている薬局はそう多くないと思います。今回お伺いし、田村さんの地域愛を非常に感じました。また、とても戦略的に地域に根差されているな、と勉強になりました。薬局でのICTの活用、そして物販に関しても大変参考になりました。まさに今後求められている薬局がここにあると感じました。ありがとうございました。


 

メディカルサポネット編集部

(取材日/2020年1月24日)

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