2019.10.16
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チェーン展開で薬剤師の職能を広げる
(セルフケア薬局)

この薬局がすごい! 第11回「セルフメディケーション支援」

2017年に「セルフメディケーション税制」が始まり、自身で健康管理を行うセルフメディケーションへの関心が高まっています。9月には、処方箋なしで医薬品が購入できる「セルフケア薬局」が日本初となるチェーン展開を始め、話題になりました。これからのセルフメディケーション支援や、薬局・薬剤師の可能性について、セルフケア薬局代表取締役社長で看護師の志賀大さん、同COOで看護師・保健師の小瀬文彰さん、同薬局の薬剤師、長澤育弘さんに聞きました。

文/竹中孝行(薬局支援協会理事)
撮影/東京写真工芸株式会社
取材・編集・構成/メディカルサポネット編集部

この薬局がすごい! 第11回「セルフメディケーション支援」 セルフケア薬局 

 

チェーン展開で薬剤師の職能を広げる

──処方箋なしで医薬品が購入できる「零売薬局」という形態は以前からありますが、チェーン展開を始めたのはセルフケア薬局さんが初めてです。開業とチェーン展開のきっかけを教えてください。

 

長澤育弘さん(以下、長澤):もともと病院薬剤師をしていたんですが、北海道や青森といった地方の薬局で勤めていたときに、病院がすごく混んでいて半日くらい待たないと薬がもらえない状況を見てきました。直接薬局に来た患者さんに「医薬品を売ってほしい」と言われることも結構あったんですね。そこから紆余曲折あって首都圏で保険薬局を数店舗経営するようになり、その保険薬局で零売を取り入れようと考えたんですが、かなり難しかったんです。一番の問題は、処方箋薬品と処方箋薬品以外の薬が混ざってしまうことですね。どれが売っていい薬かわからなくなるので、「ここにあるものは全部売っていい」という状況にしないといけないと思いました。当時、薬局は調剤報酬や薬局チェーンの拡大などでよくバッシングの標的になっていて、薬剤師として何ができるのか必死で考えました。処方箋のお薬を間違いなく出すことは大事ですが、それ以上に「患者さんにより密接に関わって、役に立ちたい」と強く思い、薬剤師の職能を広げたい一心で「とりあえずやってみよう」と池袋で零売薬局を始めました。

  

零売薬局を始めた理由を「もっと患者さんと密に関わるため」と話す薬剤師の長澤育弘さん

零売薬局を始めた理由を「もっと患者さんと密に関わるため」と話す薬剤師の長澤育弘さん

  

志賀大さん(以下、志賀):その創業から半年後に、私は長澤と知り合いました。個人的にも、薬剤師の知識や能力には可能性があり、もっと活躍できると思っていたのですぐに意気投合しましたね。私自身は“ワンコイン健診”の「ケアプロ」の創業期メンバーで、現在も医療機関の経営をしているので、経営に関する数字を見ることが少しばかり得意なんです。長澤からチェーン展開の相談を受けたときに「零売薬局は社会に必要なものだ」と思い、世の中に広げていくために、社内体制を強化しようと小瀬に入ってもらいました。小瀬も「ケアプロ」で一緒に働いていたメンバーなんです。 

チェーン展開を踏み切った理由の一つは、医療費の削減のためですね。保険診療の薬剤費は、医療費が膨れ上がる一つの要因になっていると思います。薬剤師の知識、能力、そして経験をもっと社会に出していくために、長澤とよく話し合ってチェーン展開を決めました。

 

「薬剤師さんはもっと活躍できるはず」と語る代表取締役社長の志賀大さん   

「薬剤師さんはもっと活躍できるはず」と語る代表取締役社長の志賀大さん

 

小瀬文彰さん(以下、小瀬)私が入ったのは最近なのですが、セルフケア薬局の事業内容を聞いた時に「絶対に役に立つ事業だ!」と思い、すぐに参画させてもらうことにしました。

 

──強力な3人がそろったんですね。「セルフケア薬局」は、ひとことで言ったらどんな薬局なんでしょうか?

 

志賀:「街の保健室」ですね。健康相談の入り口のような存在を目指しています。一般的な薬局だと処方箋がないと入りづらいですし、処方箋をもらう病院にも体調が悪くならないと行かないですよね。セルフケア薬局には、フラッと入って来てほしいと思っています。薬を買わなくてもいいんです。例えば、「今もらっているお薬って大丈夫なのかな…」と不安なことを気軽に話してもらえたら、医師への相談の仕方をアドバイスします。

 

薬局はシンプルなつくり。中央に窓口があり、その奥に調剤室がある

薬局内はシンプルなつくり。中央に窓口があり、その奥に調剤室がある

  

──なるほど。薬局にはどのような悩みを持たれている方が来るのですか?

 

志賀:「前にAという薬をもらっていたけれど、診療所に行く時間が作れないのでここで買いたい」という相談を受けたり、「歯が痛いんだけど、どうしたらいい?」という歯肉炎になっているおばあさんが来られたり。そのおばあさんには、近くの歯科医院を調べて受診を勧めました。そうやってコミュニケーションを取りながら、街に溶け込んでいきたいですね。我々だけでサービスを完結するつもりは全くなく、お薬をお渡しした後に、「もし症状が改善しなければ医療機関に行ってくださいね」と声掛けをしています。レベルに応じて、医療機関を受診するよう促しています。

 

──どんなお薬がよく売れていますか?

 

長澤季節によって変わってきますね。夏だったらアトピーがひどくなる人が多いので、ステロイドの軟膏やヒルドイドがよく出ます。秋や春だと花粉が多いので、抗アレルギー剤ですね。冬だと、体調を崩すことが多いので風邪薬や解熱剤、咳止め、吐き気止めですね。

 

志賀:ドラッグストアで扱っている薬から扱っていない薬まで、どちらも用意しています。箱ではなく、1週間分や10錠ほどの少量から販売しているので、利便性は高いと思います。

 

少量で販売できるため、残薬を防ぐ効果も期待できるという

少量で販売できるため、残薬を防ぐ効果も期待できるという

 

――お客さんからはどのような感想や反応がありましたか?

 

長澤:「便利」「待たなくていい」という点が非常に大きな利点のようですね。あとは、薬のプロに気楽に相談できる安心感ですかね。どうしても保険薬局では、ゆっくり相談したり時間をかけて説明したりすることができない傾向があります。当店だと、気軽に相談できたり、必要な時は医療機関を受診するようしっかり伝えたりできます。

 

――幅広く相談される立場だと、勉強量や知識量が大事になると思いますが、そこはどのようにフォローしていますか?

 

長澤:今、採用している薬剤師は全員が中途採用です。病院薬剤師だったり、薬局勤務の経験があったり。皆さん経験を積んだ上で入社しているので、ベースの知識はあります。当店では接客コミュニケーションが大切になるので、慣れるまでは1カ月近くは2人体制でサポートします。一般的な薬局では聞かれないような質問や相談を受けることもあるので、そこは意識的に勉強してもらっています。

 

「絶対に事故をおこさないようにマニュアルはしっかり作っています」と話すCOOの小瀬文彰さん

「絶対に事故を起こさないようにマニュアルはしっかり作っています」と話すCOOの小瀬文彰さん

 

小瀬:約200ページのマニュアルを作り、ある程度フォーマットに組み込んでいます。とは言え、薬剤師が病気のことを全部分かるわけではないですし、患者さんの背景によっても薬の使い方が変わります。「ここだけで完結させることはないように」と徹底して伝えていますね。分からないままちょっと調べただけで薬を売ることはありません。分からないときは不用意に売らないで、受診を促す指導をしています。

 

──このセルフケア薬局は池袋、雷門と続き、今後3年以内に首都圏で100店舗を目指す予定だそうですね。出店エリアはどのように決めていくんですか?

 

志賀:まずはたくさんの人に知ってもらうために、ターミナル駅の池袋に出店しました。実際、さまざまな沿線から来てもらっています。平日は20時までやっているので、ビジネスマンの利用が多いですね。土日にも大勢来られます。一方、雷門は地域住民にどれくらい受け入れてもらえるのかを試すために、乗降客数がそれほど多くない駅ということで選びました。雷門店は、ママさんが多い印象があります。薬局の隣は小学校ですし、台東区は幼稚園や学校が多いからかもしれません。我々が目指すのは「街の保健室」なので、なるべく利用者に寄り添いたいと思っています。今後の出店はまだ具体的には考えていませんが、新宿や渋谷エリアは候補の一つです。これからどんな立地でどんな反応があるのか、経営的な計算をしていきます。経営的に成り立つと分かったタイミングで、拡大しようと考えています。

 

──零売薬局としてチェーン展開することに対して、薬剤師からも何か反応がありましたか?

 

長澤:採用の問い合わせが結構来ていますね。意識の高い薬学部生や若い世代の薬剤師さんから「協力したい」と連絡をいただき、プレスリリースを出してから5日ほどの間に約10人の面接をしました。

 

小瀬:そうですね。以前から体制を整えていまして、リリース後にあちこちから「自分も話を聞かせてほしいです」「働きたいです」と連絡をいただいています。

 

──みなさん薬剤師としての職能をもっと発揮したいと思っていたということでしょうか。

 

志賀患者さんの話を聞きながら、その人のために何ができるかを考えるような「薬を渡すだけじゃなくて、アドバイスもして貢献できる働き方をしたい」という方が多いと思います。

 

長澤:もともと薬剤師の職能には、薬局で患者さんの薬の相談に乗るということがあったんですよね。でも、保険薬局が増えて医薬分業が進み、薬局は“ただ薬をもらう場所”になっていきました。医療費の高騰や少子高齢化といった社会課題がある今、かつての形態が求められ、薬剤師をもっと活用すべき時代が来たんだと思います。

 

――今後目指している薬局のあり方を教えてください。

  

長澤:一番は薬剤師の職権の拡大ですね。薬剤師は裏方のようなポジションですが、もっと認知されて、薬剤師という職業自体がもっと活躍できるようにしたい。そうすることによって、住民の医療へのアクセスが良くなったり、薬剤師さんたちがやりがいを感じやすくなったりすると思うので、進めていきたいです。

  

3人からアットホームな雰囲気が漂う。親しみやすさからか、取材中も訪れるひとがいた。

明るい人柄がにじむ3人。通りに面した大きな窓から店内の様子が分かり、初めての人でも入りやすい。

  

小瀬:参画して思ったのは、零売薬局は簡単なビジネスではないということです。お客様に認知されることもそうですし、事故は絶対に起こってはいけないのでオペレーションもしっかり組み込まないといけません。今後100店舗を目指す上でも、そこが難しいところです。ただ、困っている人は非常に多くいるんです。私はオペレーションの責任者ですので、今後、零売薬局が全国に展開するための仕組みづくりにチャレンジし、成し遂げたいです。 

  

志賀:今まで自分の健康を守る方法といえば、「病院に行く」「フィットネスクラブに通う」「ドラッグストアでOTC化された薬を買う」などでした。そこに、処方箋なしでも医薬品が買えるという新しいサービス、選択肢を増やしたいと思っています。零売薬局で自分の健康増進や維持ができるんだよ、と伝えたいですね。このサービスが世の中に浸透することで、医療機関に行くかどうか迷っている人の受診につなげられるなどのメリットがあります。薬局業界の方からさまざまなご意見をいただいていますが、今までヘルスケア業界、医療業界を築き、支え、守ってきてくれた人たちを尊重しながら、我々のサービスを決めていきたいですね。このセルフケア薬局の形態が世の中に認められていくということを、行政とも対話しながら考えています。

  

セルフケア薬局 雷門店

セルフケア薬局 雷門店

所在地:東京都台東区雷門1-9-2 山口ビル1階

TEL:03-3842-1093 
URL:http://selfcare-sdc.com/

「セルフケア薬局」はSD C株式会社(代表取締役:志賀大、Founder:長澤育弘、COO:小瀬文彰)が運営する日本初の零売薬局のチェーン店。長澤氏が2016年、東京23区初の零売薬局「池袋セルフメディケーション」(現:セルフケア薬局 池袋店)を開局。2019年、志賀氏と長澤氏がSD C株式会社を共同創業し、小瀬氏が参画した。8月に2店舗目となる雷門店をオープンし、日本初の零売薬局チェーン店展開を始めた。

ライター/竹中孝行(たけなか・たかゆき)

ライター/竹中孝行(たけなか・たかゆき)

薬剤師。薬局事業、介護事業、美容事業を手掛ける「株式会社バンブー」代表。「みんなが選ぶ薬局アワード」を主催する薬局支援協会の代表理事。薬剤師、経営者をしながらライターとしても長年活動している。


 

メディカルサポネット編集部

(取材日/2019年9月11日)

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