竹中孝行さん(以下、竹中):店舗は3階にあるんですね。外の看板には「在宅支援センター」と書かれていましたが、この店舗はどのような薬局なのでしょうか?
臼井順信さん(以下、臼井):ここは在宅業務の基幹薬局です。在宅業務に特化しているので、3階で目立たないように営業しています(笑)。周りに医療機関はたくさんありますが、外来業務はしていません。居宅療養管理指導料を算定するための書類作成など事務作業や契約業務を行っています。もともとは近くにある別店舗の負担を減らすため、在宅業務を分離しようと考えたのが始まりです。在宅は事務作業が大変なので、事務作業を代行する拠点を作りたかったんです。ここは立地に依存していないし、医師の顔色を伺う必要もない。自分たちが頑張れば、頑張った分だけ売り上げが上がります。薬局としての独立性も保てます。ここ以外にも10店舗ほどが施設在宅をしています。ただ、外来で忙しいところでは在宅はしてほしくないと思っていて、徹底的に役割分担をしています。
会社全体で、主に高齢者福祉施設を120施設ほど担当しています。管理人数は約5800人で、契約者は4300人ほどです。1997(平成9)年ごろだったでしょうか、知り合いからお薬の管理に困っているという施設の経営者の方を紹介され、相談に乗ったことが始まりです。今のような点数がつく前のことですね。当時から、医師に処方箋をもらって調剤をする流れが嫌で、自分たちで主導できる薬局を目指そうと考えていました。
「外来で忙しい店舗の在宅業務を担うために在宅支援センターをつくりました」と話す臼井順信代表
竹中:往診同行を積極的にされていると聞いたのですが、どのようになさっているのですか?
臼井:「往診同行」という言葉が一般的ですが、本当はそうは言わないんですよ。意味合いは往診ではなく診療ですので、「診療同行」と言います。診療同行は約4300人と契約していて、居宅管理指導は8000回以上算定しています。その8000件は診療同行しています。
竹中:薬剤師はどれほどの頻度で施設に行き、診療同行しているのですか?
臼井:施設の診療は奇数週に行うグループと、偶数週に行うグループに分かれていて、診療は毎週あるんです。薬剤師は診療同行と薬のセットのときに伺うので、週に2回は行きますね。施設によっては、診療の選択肢を増やすためクリニックが2カ所来るところもあります。その場合は診療が週に2回あるので、薬剤師は週3回行きますね。みなさんそんな頻度で行っているとは思わないですよね(笑)
担当施設で診療同行しているわかばの薬剤師(左)
竹中:施設在宅だと、積極的に営業している薬局もありますが、担当施設をどのように増やしているのですか?
臼井:よく「どうやって営業しているの?」と聞かれますが、うちにはいわゆる「営業マン」はいないんですよ。薬剤師の日頃の業務や役割を施設が評価してくれて、紹介につながり、自然と担当件数が増えています。年に3つほど紹介がありますよ。日常的に薬剤師としてしっかり仕事していることが、営業活動になります。
竹中:素晴らしいですね。薬剤師の真摯な対応の積み重ねですね。どんなところが評価されているか、具体的な事例を教えていただけますか?
臼井:そうですね、例えばこんな提案をしています。高齢者が服用する薬の用法は「朝食後」が多いじゃないですか。一方で、施設の人数配分をみると朝と夕は圧倒的に少なく、昼が多いんですよ。朝は早番か当直明けのスタッフしかいない一番人出が足りないときで、服用する薬が多いと事故につながりやすい。添付文書の通りに朝、昼、夕を分けてみると、昼でもいい薬はある。そこで、薬剤師が処方提案し、朝食後の服用を昼食後に変更する。昼は施設スタッフが多いので、事故が減るんですよ。スタッフの方が困っていることが何なのかを考えて、負担を減らすことも大切ですね。もちろんポリファーマシーも大切です。
竹中:おっしゃる通りですね! ポリファーマシーにも力を入れているのですか?
臼井:はい。入居者約350人(5800人のうち)の1日に服用する薬の種類を診療同行しているグループと、自己管理のグループで比べてみると、前者の平均は6.8種類、後者の平均は7.9種類と、平均1.1種類の差がありました。利用者1人で1.1種類の差ということは、約2万床を運営している会社全体なら2万5000種類/1日も変わってくるわけですよ。年間だと900万種になります。これがポリファーマシーというものですよね。薬剤師が介入する価値は、数字に置き換えることができます。他にも、薬剤師の役割を明確にするためにさまざまな大学や企業と共同研究もしています。
竹中:共同研究ですか? どんなことをされているのか気になります。
臼井:私たちは同一運営会社のホーム3000人を担当していますよね。そうすると、同じ住環境で毎日同じ食事をしている人の臨床データが集められるんです。例えば、高血圧の薬を先発品からジェネリック医薬品に変更したときの同等性のデータを60施設の利用者130例を対象に取っています。ご存知のとおり、ジェネリック医薬品の販売許可で審査されるのは生物学的同等性だけですよね。薬剤師が変更の2カ月前と2カ月後に血圧データや副作用の聞き取りを行うと、生物学的同等性があれば理論的には変わらないはずが、実際には併用薬などいろんな要因によって有意差が出ました。現在は、その考察のために第2弾の調査をしています。一昨年は、ベンゾジアゼピン系のポリファーマシーを行いました。施設で服用している患者さんをピックアップし、医師や看護師にアプローチしたが、変えられたのは数%でした。今は転倒事故リスクなどを数値化し、リスクを見せることで働きかけています。
豊富な臨床データをもとに大学との共同研究も行っているという
竹中:さまざまなことをされていますね! そういった研究に興味を持っている薬剤師の方も多いのでしょうか?
臼井:こういった研究結果を「すごい!」「面白い!」と思っている薬剤師に来てもらいたいですね。「給与が高い」「働きやすい」とかは別の話ですよね。さまざまな大学と共同研究を行っていくなどの面白いことに取り組んで薬局のブランディングをしていかないと、新卒の学生がうちに来る意味がないですからね。
竹中:処方提案するのには、医師や看護師としっかり話せることが大切だと感じます。これからの薬剤師には、どんなスキルが大切だと思いますか?
臼井:薬剤師だから、薬効とか薬の知識があるのは前提ですね。これからはやはり、「観察する力」が大切だと思います。うちが取り組んでいる「あっかんべぇ運動®」はご存知ですか? 子どものころ、小児科へ行ったら「あっかんべぇ」をしましたよね。「あっかんべぇ」はフィジカルアセスメントで、目の粘膜の色から貧血状況、舌の状態から体調や脱水症状、疾患の確認ができます。慢性疾患が増えるこれからは、変わらないことが当たり前。変わらないことを管理するスキルが大切になりますね。今の医療はほとんどが薬物治療ですよね。そうすると、患者と一番最後に接するのは薬剤師です。つまり患者に一番近いのが薬剤師なわけですよ。製薬会社の方に「OD錠なんて現場で誰も喜んでないと」言ったことがあります。OD錠の単独処方の患者がどれぐらいいるのかと。そんな人はほとんどいませんよね。一般の錠剤とOD錠が処方に混ざっていると、溶けてしまったら誤嚥の原因になり得ます。薬剤師は患者に一番近い存在だから、状態をしっかり把握して製薬会社にフィードバックする義務もあると思います。薬剤師の役割は、ただ薬を渡しているだけではないんですよね。
竹中:変化を観察するというのは非常に大切ですね。薬剤師向けにそのような社内勉強会もしているんですか?
臼井:講師の方に来てもらう社内勉強会はしてますね。また、社内に「在宅委員会」というものがあって、施設に対して情報発信もしています。「ゼリーの作り方」や「マグミット1錠はラキソベロン何滴に相当するか」とか。2カ月に1回、会議もしています。社内ではどの店舗でも同じサービスを提供したいので、情報共有を大切にしています。
竹中:診療同行をしたいけれどできていなかったり、医師とコミュニケーションを取るのが苦手だったりする薬剤師に、何かアドバイスはありますか?
臼井:かたいことは考えずに、まずはやってみないと分からないですよね。コミュニケーションを取ってみないと始まらない。Do処方(前回と同じ処方)されている薬は案外、「この薬は要りますか?」と提案しやすいです。コミュニケーションを重ねる中で信頼関係をつくっていくと、「今日、患者さんの様子がおかしいけど、何を出したらいいかな?」と聞いてくれる先生も出てきて、処方提案できるようになります。当社では、新卒採用の新人薬剤師にも診療同行させています。診療同行は先生と話して、余計なことを言っても何も言えなくても大きな間違いにはつながらない。「ごめんなさい」をすれば理解してくれます。薬のセットはすごく地味な業務ですが、間違ったら大変でしょう。セットに行くのは経験のある薬剤師にしています。
処方内容などについて医師と話し合うわかばの薬剤師(右)
竹中:たしかに、そのとおりですね。今後、会社としてどんなことに力を入れていきますか?
臼井:事務作業を徹底的に減らしたいですね。「調剤業務のあり方について」の0402通知もあったので、ピッキングやセット業務もなるべく調剤事務の人たちに任せていきたい。ただ、先ほども話した通り、間違えてはいけない作業なので、それをどうカバーしていくかは課題ですね。それと、今後も面白いことをやっていきたいです。実は今年、「薬学士」という新しい職種をつくって研究熱心な学生を新卒採用しました。いろんな研究をして、エビデンスを新しくつくって、薬剤師の価値を高めていってもらいます。現場と研究部門をしっかりつないでいきます。薬剤師という仕事は面白いですよ。
わかば薬局 中央林間店
住所:神奈川県大和市中央林間3-11-1 サンケイビルⅢ3F(わかば薬局中央林間店)
URL:http://www.wakaba-pha.co.jp/
TEL:046-200-9137
株式会社わかばは1989年、横浜市で創業。現在は神奈川県を中心に37店の調剤薬局を運営している。10年以上前から在宅医療に注力し、現在は高齢者入居施設を約120施設担当。病院や訪問看護ステーション、老人ホーム、行政などと連携しながら、地域全体から信頼される会社を目指している。
ライター/竹中孝行(たけなか・たかゆき)薬剤師。薬局事業、介護事業、美容事業を手掛ける「株式会社バンブー」代表。「みんなが選ぶ薬局アワード」を主催する薬局支援協会の代表理事。薬剤師、経営者をしながらライターとしても長年活動している。 ◆取材を終えて◆ 今回、薬局で行なっている共同研究の話を伺い、非常に勉強になりました。薬局、薬剤師が提供している価値を数字やエビデンスとして示すことはとても大切なことだと感じます。また、今後、診療に同行する薬剤師が増え、医師や看護師など医療従事者の方と密にコミュニケーションをとりながら、一人の患者を支えていけるとより良い社会が実現できるのではないかと思います。 |
メディカルサポネット編集部
(取材日/2019年7月17日)