2018.12.09
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血液培養によるGPC clusterで黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌をグラム染色で見分ける方法は?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

グラム染色によって得られる情報からブドウ球菌を分類するには、①菌体の形態学的な違い,②菌体周囲の“にじみ”に注目することがポイントになるそうです。黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌の見分け方として活用してください。

 

血液培養からブドウ球菌が生えた際,黄色ブドウ球菌なのか表皮ブドウ球菌なのかは臨床的に大きな違いを生み出します。この2つを見分けるためにグラム染色によって得られる情報から分類することは可能でしょうか?東京医科歯科大学・羽田野義郎先生にご回答をお願いします。

【質問者】

佐田竜一 天理よろづ相談所病院総合診療教育部

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【回答】

【菌体の形態学的な違いと菌体周囲の“にじみ”に注目する】

黄色ブドウ球菌(MSSA,MRSA)菌血症の30日死亡率はおおむね20~30%であり1),頻度も高く臨床的に重要な微生物の1つです。昨今では質量分析など早期の診断が可能になる検査装置が設置される病院も増えてきましたが,一部の病院に限られているのが現状です。血液培養陽性後,血液のグラム染色でブドウ球菌を疑うグラム陽性球菌(GPC in cluster)が検出された場合,黄色ブドウ球菌と表皮ブドウ球菌は治療方針が大きく異なるため,その判断は重要となります。見分け方として用いる所見は大きく2つあり,①菌体の形態学的な違い,②菌体周囲の“にじみ”の2つに筆者は注目しています。

 

菌体の形態学的な違いについては,(1)菌体が立体的に見えるか平面的か,(2)cluster(菌体の塊り)が大きいか小さいか,(3)菌体のサイズが大きいか小さいか,に注目し判別する方法です。黄色ブドウ球菌は特に好気ボトルの検体では菌体が三次元に観察でき,clusterは大きく,菌体のサイズも表皮ブドウ球菌と比較して大きい(>1μm)特徴があります。一方,表皮ブドウ球菌ではグラム染色で菌体が平面的に観察でき,clusterは小さく,菌体のサイズも黄色ブドウ球菌と比較して小さくなります(≦1μm)。この判別に関しては,Bactecのシステムで陽性予測値90%,陽性尤度比11.42),またBacT/ALERTシステムでは感度89%,特異度98%であった3)と報告されており,判別の際に有用な所見と考えられます。

 

もう1つの菌体周囲の“にじみ”についてですが,これは菌体周囲に観察されるピンク色のにじみ(あるいは皮膜)のことを指しています。この“にじみ”はフィブリン膜で,コアグラーゼを産生する黄色ブドウ球菌に特異的な性質であり黄色ブドウ球菌の推定にも役立つ所見です4)。この“にじみ”に注目した研究では,感度78%,特異度95%との結果が報告されています5)。私見ですが,この“にじみ”は,血液培養システムがBacT/ALERTで認めやすい所見のように考えています。またグラム染色の染色法や培養時間も影響する(培養時間を延長することで陽性化する現象が報告されている)と筆者は考えています。上記の研究では,BacT/ALERTシステム,グラム染色方法はフェイバー法を用いており,また日勤帯は血液培養陽性時にグラム染色を施行していますが,それ以降は翌朝行っているので,結果がみかけより良い可能性も否定はできません。

 

以上,2点の判別するポイントについて概説しました。自施設の血液培養システム,グラム染色方法,染色できる時間帯を加味した上で用いることで,早期発見につながる有用な所見であると筆者は考えています。

 

【文献】

1) van Hal SJ, et al:Clin Microbiol Rev. 2012;25 (2):362-86.

2) Murdoch DR, et al:J Clin Pathol. 2004;57(2): 199-201.

3) 近藤成美,他:感染症学雑誌. 2008;82(6)656-7.

4) 永田邦昭:感染症診断に役立つグラム染色. 第2版. シーニュ, 2014, p656-7.

5) Hadano Y, et al:BMC Infect Dis. 2018;18(1):490.

 

【回答者】

羽田野義郎 東京医科歯科大学医学部附属病院感染制御部

 

執筆

佐田竜一 (天理よろづ相談所病院総合診療教育部)

羽田野義郎 (東京医科歯科大学医学部附属病院感染制御部)

 

 

 出典:Web医事新報

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