2023.09.22
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説明を聴きたいだけなのに,どうして怒鳴るんですか?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

分刻みで動く臨床現場、忙しさもあってか、習慣なのか、患者さんに強く当たっている医療者を見ることがありませんか? 今回は大江和郎 元東京女子医科大学附属成人医学センター事務長が、問題のある医師の対応と望ましい医師の対応を、事例を挙げて解説します。

      

執筆:大江和郎(元東京女子医科大学附属成人医学センター事務長)

  

▶ 医師も千差万別です。じっくり患者の話に耳を傾ける医師がいる一方,まったく聴く耳を持たない医師もいます。それどころか,患者は一言発するごとに怒鳴り返され,聴きたいことすら聴けない場合もあります。もう少し患者に寄り添う気持ちがあればと思うのですが……。

   

医 師  :また,血糖値が上がっているよ,体重も減っていないし。療養指導通り実践していないでしょ!

   

患 者  :いえ,気にはしているんですけど……。

   

医 師  :まったく,毎回言ってもわからないんじゃ,どうしようもないね! 今日からお酒飲まないで!

   

患 者  :先生,何もそんなに怒鳴らなくてもいいんじゃありませんか? 毎回,怒鳴られると聴きたいことも聴けなくなります。                             

正しい対応はどちら?             

①何度言っても,こちらの話を聴いてもらえないからですよ! 私の話が聴けないようであれば,他の医療機関にかかって下さい!

                           

②大変申し訳ございませんでした。でも,怒鳴るのは,Aさんの病気はしっかりと生活指導を守り自己管理ができれば,改善するからなんですよ。もう一度,日常生活について説明しますので,今日から実践して改善に努めましょう。

事務長の見解  

患者も医師に,病気のことや日常生活の過ごし方,今後のことなど,いろいろ聴きたいと思っています。しかし,時間をかけて話を聴く雰囲気などない医師もいて,つい聴きそびれてしまう患者もいます。①のような対応ではなく,②のようにまずは,患者の話に耳を傾け,不安な気持ちを取り除いてあげることが大事です。 

詳しく解説すると…… 

1. 問題ある医師の対応

都道府県や保健所の相談窓口には,医師の対応に関する苦情も多く寄せられます。

   

「薬が半分しか出ていなかったことを後日申し出たところ,当日言ってくれなくては困る,と逆に叱られた」「医師への不信感から転医しようと紹介状を依頼したところ,罵声を浴びせられた」「高慢な医師が担当医なので,血液検査の結果の写しが欲しいと直接言い出せない」「入退院を繰り返している母親の症状が悪くなり,前回入院していた病院に電話したところ,医師の横柄な対応で,十分な説明を受けられなかった」「規則を守って入院しているのに,医師から暴言を吐かれて,不満を感じている」など,これらは苦情の一部です。

   

日々,患者の診察に明け暮れて多忙をきわめている医師にとっては,少しでも早く患者をさばきたいと思い,つい厳しい言動となって対応してしまうのかもしれません。 

2. 説明の難しさ

患者への説明は,医療法第1条の4第2項,保険医療機関及び保険医療養担当規則第14条で義務となっています。業務が多忙,説明が面倒,説明する時間がもったいないなどの理由で,説明をおろそかにしてはなりません。

  

ただ,説明の難しさもあるのは事実です。2004年12月4日の東京新聞に掲載されたジャーナリストの小田桐誠氏による「なぜの説明こそ必要」と題した記事を紹介します。「よく電車遅延の際に『信号が赤のため,信号が変わってから発車します』とアナウンスされることがあるが,これではなぜ信号が赤だったのかわからない。車掌に確認すると,前の電車で発車間際の駆け込み乗車があり,発車オーライの青信号に変わるまで時間を要したためということであった。それなら初めからそう伝えたほうがわかるし,発車間際の駆け込み乗車が危険であると警告する効果もあったのではないか」という内容でした。

  

また,医師の堀 夏樹氏は『患者と医者は本当にわかりあえるか』という著書の中で,説明の難しさについて,次のように例を挙げて解説しています。「医師は『抗がん剤の治療をしたので,マスクをして下さい』と言うが,この文章の隙間を埋めていくと『抗がん剤を使用したため,副作用として薬剤に敏感な骨髄が反応し白血球が減少し抵抗力が落ちているので感染予防のためにマスクをして下さい』となる。この穴埋め作業をすべてに実施するのは不可能だが,患者が疑問を持った時には医師は答えるべく努力しなければならない」とあります。

  

わかりやすく説明することを心がけるほど時間を要しますが,患者は「なぜ」という説明を医師に求めており,医師はそれに応える必要があるということです。

3. 医師の対応

東京都医師会発行の『外来診療における医療安全Q&A』の中で,「患者への言動はどのような配慮が必要か」という質問があります。これに対する回答を要約すると,「患者は医師との信頼のもとに良質の医療を求めている。寄せられた苦情を整理すると,コミュニケーション不足が原因と思われるものが大半であること,医療の担い手は,医療法第1条の4第2項および保険医療機関及び保険医療養担当規則第14条に則り,診療の際には説明は懇切丁寧を旨とし,療養上必要な事項は理解しやすいように説明することである。そして,コミュニケーション成立のためには,わかりやすい言葉を使用し,一方的に話すのではなく,患者の話にも真摯に耳を傾けることが必要である。医師は,患者の病気に対して知りたいという要望を理解し,患者が納得する説明が求められる。患者の説明の際にはパソコン画面ばかり見ず,患者に適度な微笑を送ることにより雰囲気を和ませ,安心を与えよう」と解説していました。

  

この冊子は14年前に発行されたものですが,この回答は今でも通用しますし,このように患者の言動に対する配慮を行うことで,患者の不満や不安も解消されるのではないでしょうか。

  

【関係法令】

▶医療法第1条の4第2項

▶保険医療機関及び保険医療養担当規則第14条(指導)

  

【参考文献】

▶堀 夏樹:患者と医者は本当にわかりあえるか. 品文社, 1997.

▶東京都医師会:外来診療における医療安全Q&A. 2009.3.

  

※対応例はあくまで一例であり,その時の状況や患者の思想・生い立ち・生活背景により,対応の仕方も異なってきます。

                              

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 出典:Web医事新報

     

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