2022.02.09
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政府、介護施設の人員減を検討 現場の関係者から慎重論 「基準緩和はケアの質の低下につながる」

メディカルサポネット 編集部からのコメント

人手不足が深刻化している介護業界において、テクノロジーの活用により職員の負担軽減を図り、介護施設の人員配置基準を思い切って緩和してはどうか−。という構想が政府によって練られています。労働環境などの改善によって、従業員の定着・確保に期待が持たれる中、大きな論点となっているのは、生産性の向上を直ちに人員配置基準の緩和と結びつけることの是非です。全国老施協は「介護は対人サービス。職員の削減はケアの質の低下、職場環境の悪化につながる可能性が高い」と述べるなど、質の高いサービスのためには単純な人減らしになってはいけないと主張し、意見は対立しました。

  

※ 画像はイメージ

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新たなテクノロジーのフル活用と併せて介護施設の人員配置基準を思い切って緩和してはどうか − 。こうした構想の具体化を目指す政府の「規制改革推進会議」が7日に会合を開き、介護現場を担う事業者の団体、専門職の団体を招いて意見を聴取した。【青木太志】

 

参加したのは、全国老人福祉施設協議会(*)と日本介護福祉士会。プレゼンはともに慎重な姿勢が色濃い内容となった。

 

* 特別養護老人ホームの経営者らで組織する事業者団体。

 

もっとも、改革の前提となる取り組みの必要性については既にコンセンサスが作られている。見守りセンサーやロボット、インカム、ICTなどを適切に導入し、それに伴う業務の合理化・効率化を突き詰めていくことへの異論はほぼない。サービスの質の向上や職場環境の改善、職員の負担軽減、処遇改善、介護現場の魅力アップ、離職の防止などが図られ、ひいては人材確保につなげられるためだ。

 

こうした構想への期待感は、この日の会合でも改めて共有された。大きな論点となっているのは、生産性の向上を直ちに人員配置基準の緩和と結びつけることの是非だ。

 

「単純な人減らしを目的としたものであってはならない」

 

全国老施協はこう主張。「介護は対人サービス。職員の削減はケアの質の低下、職場環境の悪化につながる可能性が高い」とくぎを刺した。

 

あわせて、多くの介護事業者が現行の人員配置基準(3対1)より手厚い体制を敷いている現状を説明し、「3対1やそれを超える水準の実現は相当困難なレベル」と指摘。十分な研修会の開催、新人への教育、レク・イベントの企画、利用者とのコミュニケーションなどが犠牲になる可能性にも触れ、「生産性向上は事業者の利益ではなく、利用者が受けるケアの質が高まること、職場環境が改善されることで実を結ばなければならない」と強調した。

 

また日本介護福祉士会も、「質の高いサービスの提供や職員の負担軽減に逆行するのではないか」と懸念を表明。緊急時、災害時など危機管理上の問題が生じないかも含め、注意深く影響を確かめる必要があると呼びかけた。

 

一方、規制改革推進会議は人員配置基準の緩和に前向きだ。テクノロジーの目覚ましい進化や人手不足の深刻さ、国の厳しい財政事情などを勘案した立場で、こうした考えに賛同する介護現場の関係者も一部にいる。

 

厚生労働省は表向き中立のスタンスをとっており、「今後の議論の根拠となるデータを十分に揃えていくことが重要」という態度を変えていない。昨年度、今年度と実施してきた実証事業を来年度、再来年度も続け、できるだけエビデンスレベルを高めていく構えをみせている。

 

具体策をどうするかは、2024年度に控える介護報酬改定の重大テーマ。前回改定のように小幅な措置にとどめるのか、それとも"待った"の声を尻目にアクセルを踏み込むのか − 。人員配置基準は制度の根幹の1つであり、最終的な決断までの道のりには曲折がありそうだ。介護現場の関係者の中には、少しずつ段階的に緩和が進められる中長期の展開になるだろう、と予測する人もいる。

 

 

 

 

出典:JOINT

 

 

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