2020.11.09
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働き方改革のキーは“業務の任せ方改革”にあり

裵英洙のマネジメントのちから~人事で悩むあなたへ~
vol.2

 

編集部より

医師で、医療機関コンサルティング会社、ハイズ株式会社代表の裵 英洙(ハイエイシュ)さんの連載「マネジメントのちから~人事で悩むあなたへ~」の第2回目。裵さんは勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感したそうで、10年ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院経営管理研究科(慶應ビジネススクール)でMBA(経営学修士)を取得し、現在は各地の病院の経営アドバイザーとして活躍しています。病院経営で重要な「人事」を切り口に、組織マネジメントのポイントを毎月お伝えします。今回は、働き方改革を進めるために欠かせない、「人を動かすための”仕事の任せ方”」に関するお話です。

働き方改革がにぎやかです。

2019年4月から働き方改革関連法が成立し、医療現場においても2024年4月より医師の労働時間上限が適用されることが目前となりました。医療機関においても間違いなく働き方改革の波は押し寄せてきます。当然ながら、医療機関に勤める忙しい管理職も自身の働き方改革を進めていかねばなりません。そのためには、いかに部下やチームメンバーに自身の業務を任せていくかが勝負となっていきます。人材マネジメントでは人を動かすことが基本であり、人を動かすためには上手に仕事を任せることがキーとなります。

今回は、業務の任せ方について3つのコツをお伝えします。

 

1.任される側が持つ3つの“ふ”

業務を任せる際、医療機関で働く職員は皆それぞれ仕事を抱えすでに多忙な状況にあることが多いです。その状況を無視して強引に仕事をお願いすると、「なぜ私が?」「今忙しいのに」といった反応が予想されます。つまり、業務を任される側には3つの“ふ”の感情が交差するのです。

①今までしたことがない仕事を任される「不安(“ふ”あん)」

②ただでさえ忙しいのに仕事を任されることによる「負担(“ふ”たん)」

③なぜ上司の仕事をやらなければいけないのかという「不満(“ふ”まん)」

 

この3つの”ふ”は、いつまでに、何をなぜ私が行なわなければいけないのかという説明がなく、納得感を得ないまま、上から押し付けられた仕事として受け取ることから生じるものです。仕事は下請け感や、やらされ感だけでは長く続かないものです。なぜあなたにこの仕事を行なってもらう必要があるのか、仕事を明確に定義し、その仕事の意義を伝えることがやる気を促すものです。また、慣れていない業務を依頼する場合には、しっかりとした教育を行い技術習得の時間を確保する必要があります。その人の能力育成促進することで自信を持って引き受けられるようになるものです。任される側は人員不足では引き受けたくても対応することができません。余裕のないところでの引き受けは既存業務の圧迫や医療事故につながる恐れがあり、余力があるかどうかの見極めも大切です。

 

 

2.「ぱなし症候群」に気を付ける

「これやっておいて」と部下に仕事を任せ、数日後部下が提出した仕事の成果に対し叱責しても、部下は納得しません。これは、仕事を“任せた”のではなく仕事を“丸投げした”ということです。仕事を任せるときの業務命令には教育と進捗管理がセットとなっており、単品ではせっかくの機会も活かしきれません。その際、任せた部下の能力に応じて裁量権を調整しながらも、何度もコミュニケーションを取ったり、話を聞いたりする機会を意識的に設けることを忘れないでください。人はコマメに会う接点があると相手に好意的な感情を持つようになる「ザイアンスの原理(単純接触効果)」があります。上司が部下やチームに対していつも気にかけてくれることで、部下やチームに次第に良い感情が生まれ、チームが活性化していきます。忙しい上司は「言いっぱなし」「命令しっぱなし」「お願いしっぱなし」などの「ぱなし症候群」に陥りがちです。だからこそ意識して、コマメな接点をつくるようにして、教育と進捗管理の機会にしたいものです。このようにマメなコミュニケーションを通じて風通しの良いチームが創られていくことで、チームメンバーは何か困ったことがあった場合に助けを求めやすい雰囲気が生まれます。ミスの原因を早期発見・早期治療できることは上司にとっても嬉しい話であるのは間違いありません。

 

3.“何を”言うかよりも、“誰が”言うか

信用の置ける人や尊敬できる人からお願いされる場合、ちょっと理不尽でも「あの人が言うなら」と言って動いてしまうことはありませんか?職場でも尊敬できる上司からの指示命令は部下やチームメンバーは素直に受け入れてくれます。一方、普段からだらしない上司や率先垂範の逆を行く上司からの命令は受け入れがたく感じます。だらしない上司から言葉巧みにいかに論理的に業務の説明をされても、「どうせ自分は何もしないんでしょ」「どうせ口先だけでしょ」と部下やチームメンバーは腹落ちせずに表面的なyesで終わらせてしまいがちです。だからこそ、管理職たるもの、普段から信頼と尊敬を勝ち取っておくことが必要なのです。命令するときだけいいカッコしてもすぐにばれますし、普段から部下やチームメンバーは思った以上に上司を見ておりチェックしているものです。部下から「この人が言うなら」の“この人”になれるとどんな業務も任せやすくなるものです。“この人”になるためには、ウソをつかない、感情的にならない、約束を守る、話をよく聞く、など仕事人とした当たり前の姿勢を普段から保ち続けることが重要となります。 

 

 

忙しい管理職の働き方改革を進めるためには、上手な業務の任せ方をマスターしていくことが近道です。仕事上手は任せ上手。忙しい管理職の皆さんに少しでも余裕が生まれて、より価値ある仕事を創出できるように、ぜひ日々の業務の「任せ方改革」に取り組んでいきましょう。

 

※次回は12月中旬に公開予定です。

Profile

裵 英洙(はいえいしゅ)MD, Ph.D, MBA
ハイズ株式会社 代表取締役社長、慶應義塾大学 特任教授、Keio Business School 特任教授、 高知大学医学部附属病院病院長 特別補佐、高知大学医学部 客員教授、横浜市立大学医学部 客員教授。

奈良県出身。1998年医師免許取得後、金沢大学第一外科に入局、金沢大学をはじめ急性期病院にて外科医・病理医として勤務。勤務医時代に病院におけるマネジメントの必要性を痛感し、10年ほどの勤務医経験を経て、慶應義塾大学院 経営管理研究科(慶應ビジネススクール)に入学。首席で修了し、MBA(経営学修士)を取得。現在、ハイズ株式会社代表として、各地の病院経営の経営アドバイザーとして活躍中。 また、アカデミックの分野では慶應義塾大学 特任教授はじめ複数の客員教授を務め、病院経営に関して教鞭を取る。 さらに、厚生労働省「医師の働き方改革に関する検討会」や「医師需給分科会」の公職を歴任。日経メディカルや日経ヘルスケア等で連載を書き、発刊された書籍は通算15万部以上のベストセラーとなっている。

 

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