2023.10.12
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ミッション:強制栄養のデメリットを理解しろ!

熱血!特養常勤医師1,825日の挑戦 ~特養での穏やかな日常を目指して~ vol.11

       

編集部より

特別養護老人ホームや有料老人ホームをはじめとする高齢者施設は、施設長を経営トップとして、介護職・事務職・看護職・外部機関など多職種の関わりによって日々の業務が進められ、高齢者の生活が保たれています。一方で、多職種が関わるからこそそこで生じる問題もさまざまで、解決には多職種の関わりが必要となるため大きなエネルギーを要することも多いのではないでしょうか。本コラムでは、大阪の特別養護老人ホームで「常勤医師」として働く堀切康正さんに、同施設における5年間の挑戦をつづっていただきます。「入居者様が穏やかに過ごせる施設」を目指し病院から特別養護老人ホームに活躍の場を移した堀切さんは、介護の現場で何を感じ、誰とどのように改革を進めてきたのでしょうか。

  

第11 回は、強制栄養(胃ろう、点滴など)がお題です。経口栄養との差、強制栄養を行うことによってどのようなことが起こるのかを事例を挙げて解説いただきました。

  

執筆/堀切 康正(社会福祉法人 永寿福祉会 永寿特別養護老人ホーム 永寿診療所 管理医師)

編集/メディカルサポネット編集部

   

              

     

 第10回は、終末期にどうするかを含む家族のさまざまな意思決定のためには時間が必要であるとお伝えしました。

介護施設の中で入居者が食事を食べなくなってきた時は、大きな変化が起こる前触れです。その際、無理をしない程度の経口摂取を継続するのか、胃ろうや点滴(以下、強制栄養)などの栄養投与方法を考えるのかの選択が必要になります。この際の意思決定は、医学的な適応だけでなく、本人家族の死生観などを含めた総合的な判断となるため、正解はありません。

ただ、強制栄養を希望された場合に、その医療行為が本人の苦痛の原因になっている状況がありました。そこで今回は、強制栄養を行う上で大事な事について考えていきます。この記事が皆様のお役にたてば幸いです。

           

1. 栄養摂取の方法

食事が食べられなくなってきた場合、栄養摂取の方法は大きく分けて3つあります。

1.胃ろう、経鼻経管チューブを使った、経腸栄養

2.末梢静脈、中心静脈を使った、経静脈栄養

3.本人が食べられる分だけ、自然な形

    

それぞれの簡単な説明は、図表1をご参照下さい。

      

図表1 栄養摂取の方法

栄養摂取の方法

    

1、2の方法は、3と比較して、本人の意志によらず水分や栄養が体に入るため、強制栄養法とも言われます。

この強制栄養法は、病気で食事が食べられない時に、治療として非常に有効です。例えば、脳梗塞や脳出血で急に食事が食べられなくなった際の胃ろうなどは、これに当たります。

認知症/老衰で食事を食べなくなった時も、治療として有効な場合はあります。しかし、強制的に体に入ってしまうというところが問題にもなります。その問題とは、過剰な水分・栄養による浮腫や頻回の吸引、胸腹水の貯留です。その中でも、頻回の吸引が必要になる場合、施設で対応できなくなり病院への紹介が必要になります。

           

2. なぜ吸引を行う必要性があるか?強制栄養の対照的な事例2つ

ここで、強制栄養中に吸引が必要になった方の事例を2つご紹介します。

     

事例1

80代女性 Yさん。140cm、40kg。寝たきり全介助で胃ろうの方。コミュニケーション不可。数日前から日中にゴロゴロと喉がなることがあり、日中に1、2回吸引を行っていた。胃ろうの投与量は、水分200ml X 3、栄養剤1本200ml X 3。

    

この間、発熱なく、SpO2低下もなし。その他バイタル異常なし。胃ろう投与中に嘔吐などのトラブルもなかった。吸引回数が増えていたため診察したが、異常所見なし。ただ、口のなかは湿っており、サラサラとした唾液がでていた。バイタル、身体所見で異常ないため経過観察の方針とした。

   

診察日の夜、Yさんは明らかに喉がゴロゴロとする頻度が多く、フロアスタッフが頻回に巡視して

  

   

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