2022.05.10
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高齢者施設で発生する虐待の背景 
~求められる経営者の覚悟とスタッフへのマナー教育の徹底~

菊地雅洋の激アツ!介護経営塾 ~選ばれる介護事業所であり続けよ~ Vol.8

菊地雅洋の激アツ!介護経営塾 ~選ばれる介護事業所であり続けよ~ 

  

編集部より

来るべき”2040年問題”に向けて、介護事業所の経営はこれからさらに厳しさを増すと予想されています。いかにして生き残るか。経営者たちはその手腕が問われようとしています。本コラムでは「masaさん」の名で多くの介護事業経営者たちから慕われる、人気介護事業経営コンサルタント菊地雅洋さんに、「介護経営道場」と称して時にピリ辛に、時に激辛に現状と課題、今後の展望を伝えていただきます。第8回は高齢者施設で起こる利用者への虐待に焦点をあてます。ある日突然始まるのではなく、何気ない日常がゆがんだ結果だと菊地さんは話します。虐待が起こらないようにするために経営者がすべきこととは何なのでしょうか?

 

当事者が気づかずに行われる高齢者施設での虐待

 

高齢者虐待には、暴力的な行為(身体的虐待・性的虐待)だけではなく、勝手に高齢者の資産を使ってしまうなどの行為(経済的虐待)や、暴言や無視、いやがらせなどの心理的虐待のほか、必要な介護サービスの利用をさせない、世話をしないなどの行為(ネグレクト)が含まれます。そのため無意識に虐待行為に及んでいるケースもあります。しかもそこで行われている行為は、世間の常識をはるかに超えたひどい行為も見受けられます。

 

下半身を裸にした利用者をベッドの上で四つんばいにさせ、頭におむつをターバンのように巻き付けている姿を写真に撮り、職員間でメールを回し見て笑っていた老健施設がありました。きっかけは認知症の女性利用者が便器に座って排泄している姿を「かわいい」と写真に撮って回し見たことでした。そうした不適切行為が明らかになった後に聞き取り調査をしたところ「親しみを込めてやった」という答えが複数返ってきたのです。親しみを込めて利用者の心を殺すことが許されるというのでしょうか・・・。そもそもそこで行われていることは、親しい人に行う行為とは言い難いのではないでしょうか。

 

介護職員が利用者に暴言を繰り返し「ばか、クルクルパー」という罵声を浴びせる姿が隠し撮られ、その動画が報道機関に送られたことがきっかけで虐待が発覚した特養では、最初からそうした暴言が飛び交っていたわけではありませんでした。

 

ある日1人の職員が利用者を「さん付け」で呼ばずに「ちゃん付け」で呼び始めたことがきっかけとなり、そこではいつの間にか利用者をニックネームで呼ぶようになり、利用者に向かって「お前」と呼ぶ職員さえ現れるようになったのです。

 

管理職がその状態に気づかないわけがないと思うのですが、その状態は放置され、いつの間にか利用者の目の前で仁王立ちして「100歳にもなってそんなこともわからないのか、あほ!!」と罵る職員が現れました。隠し撮りの映像はその状態をつぶさに映し出していますが、そこに映っている職員は、自らの醜いその姿を自分の家族に見せることができるのでしょうか。

 

 

  

感覚麻痺が高齢者虐待をエスカレートさせる

 

こんな風に日常は何気なく歪み、何気なく壊されていきます。普通の感覚がいつの間にか奪われ、常識の通用しない密室空間が作られていくのです。それはとても恐ろしいことです。だからこそ世間の常識と照らし合わせて、自分が所属する事業者の常識は歪んでいないのかを常に検証する必要があります。

 

例えばクリスマスパーティーの度に、大人である高齢者に、画用紙で作った先のとんがった円柱形の帽子をかぶせて唄わせている家庭があるでしょうか。そのような行為が介護事業者で当たり前に行われているならば、

 

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