2022.04.04
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“科学的介護”だけでは証明できないもう1つのエッセンス

菊地雅洋の激アツ!介護経営塾 ~選ばれる介護事業所であり続けよ~ Vol.7

菊地雅洋の激アツ!介護経営塾 ~選ばれる介護事業所であり続けよ~ 

 

編集部より

来るべき”2040年問題”に向けて、介護事業所の経営はこれからさらに厳しさを増すと予想されています。いかにして生き残るか。経営者たちはその手腕が問われようとしています。本コラムでは「masaさん」の名で多くの介護事業経営者たちから慕われる、人気介護事業経営コンサルタント菊地雅洋さんに「介護経営道場」と称して時にピリ辛に、時に激辛に現状と課題、今後の展望を伝えていただきます。第7回は、認知症に対するケア実践に関する考察です。介護事業に携わる以上、認知症と共に生きる方たちの行動を理解し需要することは非常に重要なことです。科学的介護情報システム「LIFE」の運用が始まり早1年。人間対人間の関わりである介護実践において、masaさんが着目する科学的には説明しきれない側面について、皆さんはどう感じますか?日々の介護ケア実践において、改めて施設全スタッフで理解・認識しておきたい内容です。

 

認知症のメカニズムとケアの視点

 

アルツハイマー型認知症は、アミロイドβ蛋白が脳内に蓄積することによって神経細胞が壊死する過程で現れる症状です。最初の病変部位は海馬ですが、海馬は見たり聞いたりした情報を取り込んで、必要な情報を保存する器官です。その器官が機能不全に陥るために、現在起こっている新しい出来事を記憶できなくなりますが、認知症の発症当初は、認知症になる前に処理された記憶は残っていることが多いのです。しかしアミロイドβ蛋白の蓄積と、それによるタウ蛋白の出現という脳内現象は止まらないため、脳の神経細胞の壊死が進行し、症状も進行していきます。

 

この過程で過去に保持した記憶さえも失ってしまうことが多く、例えば特養に入所している認知症の方が「小学生の息子が、お腹をすかせているからご飯を作らねばならないから家に帰る」と訴える理由は、子供が大人になったという記憶がすっぽりと抜け落ちて、自分自身も子供にご飯を作っている時代までの記憶しかなくなっていることによるものです。

 

 

医療,介護,IT,ICT

 

 

そのような理由で徘徊などが起こることを「行動・心理症状(BPSD)」と呼びますが、それは認知症そのものがもたらす不自由(記憶の欠落など)のために、日常生活のなかで困惑し、不安と混乱の果てにつくられた症状なのです。だからこそ行動・心理症状は、その困惑と不安に対処するという意味で、暮らしのなかで周囲の人々が対応する必要があります。つまり認知症そのものは、今現在、治療も予防もできないけれど、認知症がもたらす症状は、ケアによって良くなるのです。それは医学の手が届かないところに、ケアの手は届くという意味なのです。

 

では具体的にはどのようなケアの方法が求められるのでしょう。

 

 

 

生活支援型ケアの根拠とその方法

 

人間の記憶は3つの種類に分類することができます。

 

エピソード記憶:自分がいつ結婚したか、子供がいつ生まれたかなど、過去の出来事の記憶

意味記憶:他者の名前、りんごの色は赤であるなどの言葉の意味の記憶

手続き記憶:物事のノウハウ等、仕事の手順の記憶

 

このうち最初に失っていくのがエピソード記憶であり、次に失われるのが意味記憶です。しかし手続き記憶は比較的晩期まで残ると言われています。その理由は、手続き記憶だけが海馬を通さずに小脳に残るからです。

 

手続き記憶が最後まで残されるからこそ、

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