2024.01.22
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義務化された介護BCPは災害時の命綱 残り作成猶予期間は1年弱

~小濱道博の基礎から学ぶ介護経営~Vol.9

令和6年介護保険制度改正に向けて 介護サービスの歴史20年を徹底検証(その1)

     

編集部より

現在、社会保障費の膨張により医療・年金・介護に使われる国の予算や保険の報酬は削減待ったなしの状態です。 介護報酬が抑制され、少子化対策や子育て対策にも保険料が回されていくことが予想される中、介護事業者はどのように公共の福祉を守りながら利益を出していけばいいのか。日経ヘルスケアや介護ニュースJOINT、介護実務書籍執筆者としても著名な小濱介護経営事務所代表、小濱道博さんが「基礎から学ぶ介護経営」と題して、初心者でもわかりやすい介護経営のヒントをお伝えします。

 

第9回は、義務化された介護の「業務継続に向けた計画等の策定」BCPについてです。どういうものか、どう策定したらいいのか、BCPの考え方などを解説します。

  

執筆/小濱道博(小濱介護経営研究所 代表)

編集/メディカルサポネット編集部

BCPを策定しようとして頭を抱える女性  

                                

1. 義務化された「業務継続に向けた計画等の策定」BCP

令和3年度介護報酬改定に於いて、全ての介護サービス事業者を対象に業務継続に向けた取組の強化が義務化された。業務継続に向けた計画等の策定(BCP)、研修の実施、訓練の実施等が必要となる。研修の実施、訓練の実施においては、定期的(在宅サービスは年1回以上、施設サービスは年2回以上)な研修と訓練を開催して記録しなければならない。なお、感染症の業務継続計画研修は、感染症の研修と一体的に実施することも差し支えない。

 

ひとりで運営される居宅介護支援事業所などは、他のサービス事業者と連携してBCPの作成などを行なう必要がある。3年の経過措置期間が設けられたが、すでに残りの猶予期間は1年を切っている。令和6年度介護報酬改定では、未作成や研修、訓練を未実施の場合は基本報酬を減算するとされた。サービスによって異なる経過措置が設けられているが、早期に作成を済ませることに越したことはない。

 

図表1:業務継続計画未策定事業所に対する減算の導入

図表1:業務継続計画未策定事業所に対する減算の導入

出典:第232回社会保障審議会介護給付費分科会資料 【資料3】業務継続に向けた取組の強化等

 

             

2. 利用者個々人の対策は盛り込まない

BCPを作成する時、利用者一人ひとりの状況を検討して、特に重度者の安否確認の手段、避難方法や備蓄品について検討を進めるケースを見かける。これは、BCP作成に於いては陥っては行けない脇道である。BCPの対象範囲は、職員と組織体制の維持である。職員の一人ひとりが安全で健康であり、組織が機能していれば、利用者へのサービスは継続できるからだ。

 

職員は、まず自分自身を守ることを最重要に考えるべきである。職員一人ひとりの安全を確保できてこそ、介護サービスが提供できる。また、介護サービスは個人プレーでは無く、チームプレーである。しっかりと組織としてのマネジメントが機能していてこその介護サービスだ。職員の一人ひとりが安全で健康であり、組織が機能していれば、利用者へのサービスは継続できる。職員が倒れてしまうと何もできない。利用者個々人の対策は盛り込んではいけない。利用者一人ひとりの対策の検討は、必要無いことの理解が必要である。

        

        

3. BCPは最悪の状況に陥ることを想定して危機感を持つことが重要

令和3年度介護報酬改定で全サービスに義務化されたBCPは、自然災害と感染症の2つである。いずれの場合にも、組織や職員個々人の危機感が問題となる。過去に自然災害や感染症の被災経験をした事業所は、経験値があるため比較的作成は容易だ。しかし、多くの場合、被災経験は無いに等しい。この場合、適切なBCPを作ることは難しい。幸い、今は多様な体験談や事例がインターネット上にも公開されている。情報を積極的に職員と共有しなければならない。去年は、線状降水帯による集中豪雨や洪水被害が各地に大きな被害をもたらしている。また、能登で起こった地震など、全国各地で大きな自然災害が起こる可能性があることを肝に銘じる必要がある。

 

  

          

4. BCPは永遠に完成しない。作成完了時がスタートである

BCPは頭で考えた対策である。研修や訓練で体験する現実とのギャップが大きいことが多い。その為、BCPは研修や訓練後に見直しを行う必要がある。BCPは永遠に完成しないことを知らなくてはならない。BCPの作成が完了した時点からスタートである。

 

 

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