編集部より

一般的な企業でも新人研修で学ぶ接遇マナーですが、医療機関や介護施設での接遇マナーは事業会社・小売店や飲食店などとは異なる側面を持ちます。足が痛くて治療に来ている患者さんに席次が良いからと遠い奥の席をすすめたり、体調が悪い利用者さんのところに強い柔軟剤の香りをさせて行くなどの行動は、医療機関職員や介護事業所職員なら避けたいものです。基本的な接遇マナーとその考え方を学びながら、本当に相手のためを思った行動ができるように工夫していきましょう。

講師は病院、薬局などで20年を超える患者対応経験があり、薬剤師資格を持った医療接遇コミュニケーションコンサルタント、村尾孝子さんです。

 

第1回は、なぜ医療機関・介護事業所に接遇マナーが必要かと、接遇の良い例・悪い例、接遇マナーが地域社会に及ぼす影響を解説します。

 

執筆/村尾 孝子(薬剤師 医療接遇コミュニケーションコンサルタント スマイル・ガーデン代表)

編集/メディカルサポネット編集部

   

      
病院の廊下で挨拶する患者さんたちと職員たち

       

1. 医療介護施設の接遇マナーはなぜ必要か

 コロナ禍を経てマスク着用が必須となる中、患者さん・利用者さんとの接し方に何かしらの変化を感じている医療・介護者は少なくないと思います。患者さんや利用者さんは医療・介護者に何を感じ、何を求めているのでしょうか。

 

 患者さん・利用者さんは、親身になって話を聞いてくれる、ささいなことでも気軽に相談できる、何か疑問に感じたとき「あの人に聞いてみよう」とすぐに顔が思い浮かぶような人に信頼を寄せ、医療介護を受けたいと思っています。

患者さん・利用者さんの要望に応えるためには、相手の気持ちになり、何が分からなくて何に困っているのか、何を知りたいと思っているのかを想像して、異なる背景を持つ一人ひとりに共感を示し寄り添う姿勢が欠かせません。

 

 接遇とは「おもてなしの心を持って相手に接すること」。それは相手の立場になって、相手の考えや気持ちに思いを寄せること。相手に興味を持ち、関心を寄せることとも言えます。医療介護施設では、目の前にいる患者さん・利用者さんの喜びや不安、痛みや苦しみを想像して、その気持ちに寄り添い応えるように行動することです。そのためには、患者さんや利用者さんが気軽に質問したり話し掛けたりしやすい雰囲気や話し方を身につけ、常に相手を思いやる姿勢を持ち続けることが大切です。

 

 さて、医療・介護者の誰もが胸に抱いている「患者さん・利用者さんに対する思いやりの心」ですが、その心は存在していても相手には見えていないことを正しく理解してほしいと思います。思っているだけでは、その思いは相手に伝わりません。そこで、目に見えない「おもてなしの心」「思いやりの心」を見えるようにする=可視化する方法が礼儀(マナー)です。患者さんや利用者さんの命を預かる医療介護の現場では、一般社会で求められる以上の接遇マナーが必要でしょう。高度な技術や知識は患者さん・利用者さんとの信頼関係があってこそ活用できるものであり、信頼関係を築く基本となるのが接遇マナーです。

 

 患者さん・利用者さんが医療・介護者に求めているのは、医療介護サービスだけではありません。大切なのは「心のケア」。限られた時間と規則の中でやるべきことが山積みだとしても、目の前にいる患者さん・利用者さんが痛みや悩みを抱えて言いたいことを十分に言えずに我慢しているかもしれないことを決して忘れてはいけないと思います。

 

 心のケアとは特別なことでも難しいことでもなく、例えば、初診時の不安な気持ちを察して「分からないことがあれば、何でも聞いてください」と声を掛ける。受付から会計までの流れを説明する、等々。患者さん・利用者さんへの労りや温もりの感じられる対応をすることであり、小さな思いやりの積み重ねです。患者さんや利用者さんは、自分にはやさしく接してほしい、自分の家族には他の誰より特別に親切にしてほしい、と思っています。実際には特別扱いすることはあってはならないのですが、患者さん・利用者さんがそのように期待したり願ったりしていること理解し、一人ひとりと丁寧に接する気持ちを持ち続けることが重要です。

        

2. 接遇マナーの良い例・悪い例

 接遇マナーが身についている医療・介護者の例として、初めて会う患者さん・利用者さんに対応する場面を考えてみます。

 

初めて顔を合わせる際、最初に、

「こんにちは。今日○○さんを担当させていただく◆◆(職種)の△△です。よろしくお願いします」

と患者さん・利用者さんの目を見て挨拶します。

やさしい表情で自己紹介すると、患者さんや利用者さんに安心してもらえる効果が期待できます。その後、質問票の確認やヒアリングをおこなうと、初対面であっても緊張感がほぐれてスムーズに医療介護サービスを進めることができます。

 

接遇マナーの実践ポイントとしては、

 

 

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