2023.09.14
5

介護事業者連盟斉藤正行理事長が語る 2024年度介護報酬改定の荒波に、業界団体が果たすべき役割は?

        

編集部より

サービスや法人の種別を問わず、全国規模の横断的な業界団体として2018年に発足した一般社団法人全国介護事業者連盟。激動のコロナ禍を経験するなど大変な時期もありましたが、これまで業界の発展にどう尽力し、そして未来に向かっての展望をどう描いているのでしょうか。

志のある介護事業者が淘汰されないための方法、行政が日本の未来に危機感を持って介護報酬の改定に臨んでいる背景などを、理事長の斉藤正行氏に伺いました。

   

取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)

撮影/和知 明(株式会社BrightEN photo)

編集/メディカルサポネット編集部

   

       

介護事業者連盟のパネルの前で笑顔の斉藤正行理事長

1.「介護現場の声を届けたい」と発足後、会員急増の背景は?

どうして介護現場の声は世間に届かないんだろう――。こうした素朴な問題意識が、全国介護事業者連盟(介事連)を立ち上げるきっかけでした。私は新卒でコンサルティング会社に就職し、2003年から介護事業に携わるようになり、その後はグループホームやデイサービスを運営する会社で副社長などを務めてきました。そうして現場の大変さを肌で感じる中で、介護報酬改定や法改正に現場の実情が反映されないと感じることが多く、もどかしさを覚えたのです。一方で、その原因として介護事業者が一枚岩になれていないという事情もあると思いました。サービス種、法人種、地域などの単位ごとに小団体が乱立しており、業界全体としての発信力が大きくなりにくかったわけです。

   

そこで、そうした垣根を超えた全国規模の業界団体にすることをめざして2018年に介事連を立ち上げました。そして、持続的な介護保険制度の実現を支えるために、「介護の産業化」と「生産性の向上」を二大テーマに掲げて政策提言や情報発信を行ってきました。発足当初は「介護業界全体に横串を通すような組織が本当にできるのか?」と疑問視されることも多かったですが、実績が生まれるにつれて少しずつ期待や応援の声が増えていった印象です。実際、会員数は2023年7月時点で2万2000事業所を超えており、介護団体の会員数としては圧倒的にトップになりました。特にここ半年は急増していて、毎月1000事業所ほどが新たに加入してくださっています。

    

このように風向きが変わってきたことの背景には、新型コロナウイルス感染症の拡大もあったと思います。私たちは第一波と呼ばれる混乱の前から動き出し、現場の状況把握や行政への情報提供に努めました。その結果、「新型コロナウイルス感染症対応のためのかかり増し経費」「介護サービス再開に向けた支援事業」などが実現し、当初は含まれていなかった在宅サービス事業所職員のワクチン優先接種もかないました。また、「新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金」において創設された物価高騰対策としての交付金も、私たちが政府に働きかけて獲得した予算の一つです。

   

従来は行政側も「介護業界の意見を聞きたいが、誰に尋ねればよいか分からない」という感じだったようですが、介事連の存在感が増したことで声を拾い上げやすくなったと受け止めていただいています。2023年7月現在、介事連では全国に6ブロック支部を展開するほか、介護事業で33都道府県に、障害福祉事業で11都道府県に支部を置く体制にまで成長しました。地域ごとの実情やローカルルールを踏まえた提言をするためにも、各地の意見を正確に収集して発信力や信頼性を高めるためにも、すべての都道府県に支部がある体制を早急に確立したいと考えています。

  

真剣に議論する斉藤さん      

2.介護報酬改定に向けて「落としどころ」を探ることも役割

直近の活動としては、2024年の同時報酬改定に向けた意見の取りまとめと要望活動がとても重要になってくるでしょう。2023年6月に「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太方針2023)が閣議決定されましたが、ここで介護報酬の引き下げが確定することはありませんでした。最悪の事態は当面のところ避けられたとはいえ、岸田総理が掲げる「異次元の少子化対策」には3.5兆円規模の予算確保が必要とされており、介護や医療の財源にメスが入る可能性は捨てきれません。

   

これから年末にかけて介護業界は正念場であり、既存の団体とも協力しながら一致団結して交渉に臨みたいと考えています。新型コロナウイルス感染症が第5類に移行しようと現場に大きな負担がかかり続けていることに変わりなく、物価高騰という側面を見ても、職員の賃上げは必須でしょう。その原資となる介護報酬をきちんと確保していくことが絶対であり、業界として強く訴えていかなければなりません。

   

今回の介護報酬改定では、以下の4つが具体的なテーマとして掲げられています。

   

・地域包括ケアシステムの進化、推進

・自立支援、重度化防止を重視した質の高い介護サービスの推進 

 

会員登録されている方のみ続きをお読みいただけます。

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP