2022.06.27
5

独自開発のラダー「LPS」で訪問看護ステーションの人材育成に取り組む
―――訪看における人事評価とスタッフ教育の底上げへの挑戦

みんなのかかりつけ訪問看護ステーション(株式会社デザインケア)

独自開発のラダー「LPS」で訪問看護ステーションの人材育成に取り組む ―――訪看における人事評価とスタッフ教育の底上げへの挑戦

 

 

編集部より

訪問看護領域でのスタッフ教育は、制度が充実した病院などと比べると見劣りすることも多く、この世界へ飛び込もうとする人に二の足を踏ませることもしばしばです。しかし、みんなのかかりつけ訪問看護ステーションを運営する株式会社デザインケア(愛知県名古屋市)は、独自のクリニカルラダーを開発し、それを存分に駆使してスタッフ教育に注力しています。独自開発に至った背景やメリット、スタッフ教育への思いについて、同社の社長と教育研修部長のお2人に伺いました。

 

取材・文/中澤 仁美(ナレッジリング)

撮影/和知 明(株式会社BrightEN photo)

編集/メディカルサポネット編集部

お話を伺った方々

藤野泰平さん

藤野泰平さん
(株式会社デザインケア 代表取締役社長・看護師)

2006年に名古屋市立大学看護学部を卒業後、聖路加国際病院に入職。その後、一般社団法人日本男性看護師会の共同代表や愛知医科大学非常勤講師などを歴任。2014年11月に株式会社デザインケアを創業し、代表取締役社長に就任した。

坂口博紀さん

坂口博紀さん
(株式会社デザインケア 教育研修部 部長)

看護専門学校を卒業後、臨床で7年間勤務。その後、愛媛大学医学部看護学科へ編入。在学中に医学書院看護教育実践シリーズの書籍資料作成に携わる。2017年に株式会社デザインケアへ入職し、教育責任者を経て教育研修部の立ち上げから部長に就任。

 

組織のビジョンを盛り込んだラダー

――まずは、貴社の概要をご紹介ください。

 

藤野:現在、当社では「訪問看護(24時間365日対応)」「コミュニティデザイン」「企業内保育園の運営」という3つの事業を展開しています。訪問看護ステーションは1都5県に計17施設(2022年6月現在)あり、月間1,000人以上の利用者様にご利用いただいています。ご高齢の利用者様を中心に、0歳から100歳を超えるすべての方々に最適なケアをお届けできるよう日々努めています。

 

また、在宅医療の価値を高めるため、「地域づくり」にも積極的に取り組んでいます。現在、国内の在宅での看取り率はわずか13%で、最期の時間を自宅で過ごしたいと思っても、その願いをかなえられない人がまだまだ多いのが現状です。地域をよりよいかたちにデザインし直し、どこにいても希望するケアが受けられる、社会インフラとしての訪問看護ステーションであることをめざしています。

 

独自開発のラダー「LPS」で訪問看護ステーションの人材育成に取り組む ―――訪看における人事評価とスタッフ教育の底上げへの挑戦 藤野泰平社長

 

――LPS(ladder positioning system)を独自開発したそうですが、どういうものなのでしょうか。

 

藤野:クリニカルラダーは、スタッフの主体的な取り組みを促し、その達成状況を段階的に評価できる教育ツールですが、当社のスタッフとして望ましい能力獲得をめざすためには、既存のものをそのまま使う、あるいはカスタマイズして使うのでは足りないと考えました。そこで、ラダーを構成する項目について、ビジョン・ミッション・バリューの実現のために必要なことは何か、まっさらなところから一つひとつ時間をかけて検討し、LPSとして作り上げたわけです。

LPSという名称は、カーナビなどで使われるGPS(global positioning system)を参考にして付けました。自分の「現在位置」や「行き先」を明確にすることで自己学習を促し、さらには評価基準を定めることで公平な人事評価ができるようにしています。

 

坂口:LPSは6つの大項目で構成されています。そして、その中の小項目は、組織目的の実現に向けて選び抜かれたものが設定されています。これらには、ケア提供者としての実務的な内容に加えて、組織風土を醸成するためのグランドルールや、ステーションを24時間365日運営するために必要な能力などが盛り込まれています。このLPSを指針として、各スタッフと評価者である管理者が「ポジショニングの明確化→課題と目標設定→目標達成に向けた取り組み」のサイクルを回していきます。そして、項目の達成度に応じて、昇格や昇給、賞与に反映させる仕組みです。

 

 LPSの操作画面

 独自開発のラダー「LPS」で訪問看護ステーションの人材育成に取り組む ―――訪看における人事評価とスタッフ教育の底上げへの挑戦 LPS操作画面

LPSはスプレッドシートで管理。ラダーレベルごとに指標ごとの達成基準が設定され共有されている(写真奥)。
個人別シートでは、本人評価・上司評価・最終評価の最新の到達度が可視化される(写真手前)。

 

 

――ラダーを独自で開発するに至った背景を教えてください。

 

藤野:設立当初は既存のラダーを使っていたのですが、項目の抽象度が高く、あまり活用できていませんでした。また、評価者ごとに評価のずれが生じやすいという側面もありました。こうした問題点をクリアした上で、「利用者様の生きる希望につながるケア」「スタッフ同士が助け合う風土」「よりよい地域づくりの実現」といった私たちのビジョンを共有できる人材育成をめざすため、独自のラダーを開発することにしたのです。

 

坂口:事業所数が増えてきて、ちょうど教育制度を見直すべきタイミングでもあったと思います。事業所数が増えると評価者も増え、人により評価が甘かったり厳しかったりするおそれが大きくなるため、評価のばらつきが出にくくなるような新しい制度をつくる必要がありました。

 

オンライン取材の様子

取材当日坂口さんはオンラインで取材に参加

 

――LPSを開発する中で、どのような苦労がありましたか。

 

坂口:なかなか険しい道のりだったと思います。特に時間と労力を費やしたのは、項目内容と評価基準の磨き込みでした。例えば、大項目の一つである「グランドルール」は組織風土を左右する重要な要素なのですが、詳細に固めすぎるとスタッフの自由度や柔軟性が損なわれ、主体的な成長を妨げてしまいます。そのため、厳しすぎず緩すぎない、ちょうどよいラインを探っていきました。

 

また、評価基準の整合性を合わせたり、基本給や賞与と適切にひも付けたりすることにも力を注ぎました。一つひとつの項目ごとに徹底的な議論を重ね、すべてをフィックスするのに約1年かかりました。

 

ラダーは「なりたい看護師・セラピスト」に近づくための道標

――LPSを実際に導入してみて、スタッフ皆さんの反応はどうでしたか。

 

坂口:「自分の目の前にある壁が立体的に認識でき、乗り越えやすくなった」「めざすべき方向性が明確になり、初めの一歩を踏み出しやすくなった」といった声を聞いています。こうしたフィードバックを生かしてLPSを進化させていき、現在はversion 2.1を運用しているところです。

 

藤野:一般的に、ある程度経験を積んでベテランに近づいたスタッフは、その先の目標が見えづらくなり、モチベーション維持が難しくなりがちです。ラダーのような

会員登録されている方のみ続きをお読みいただけます。

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP