2019.08.07
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自動化で医療アクセス高めて健診促す(株式会社メディカルユアーズ)

この薬局がすごい! 第6回「自動化」

処方箋のデータをもとにロボットアームが医薬品の棚から箱を選び、自動で払い出す―。その間わずか数秒。未来の薬局のような風景が、今年5月、大阪の医療モールに株式会社メディカルユアーズが開いた大阪梅田メディカルセンター 梅田薬局、通称「ロボット薬局」で見られます。日本初の「自動入庫払出装置」を導入したロボット薬局の強みや目指している薬局像について、代表取締役社長の渡部正之さんに聞きました。

文/竹中孝行(薬剤師/薬局支援協会理事)
取材・撮影・編集・構成/メディカルサポネット編集部

 

待ち時間ゼロへ 自動化で医療アクセス高めて健診促す

──この医療モールはホテルのラウンジのような雰囲気ですね。クリニックとの境目に壁がなく、フロア全体に一体感を感じます。


渡部正之さん(以下、渡部):いいでしょう。デザイナーさんには「とにかく病院っぽくしないでほしい」と言いました。ターゲットは近くで働くビジネスパーソン。元気な人が来るイメージでやってほしい、と。私はここを「医療の入り口」にするためにつくったので、あくまでもテーマは予防医療や健診なんです。それと、統一感と近未来的な雰囲気を絶対に出したかったので、そういった要素を融合させてもらいました。神戸の老舗「萩原珈琲」さんにも入ってもらい、カフェだと思って来る人も結構いますよ。


モダンな雰囲気と近未来な印象が融合した大阪梅田メディカルセンター


──「ロボット薬局」だけでなく、医療モールとしても先進的な取り組みをなさっているんですか?


渡部:日本の医療モールで初めて、モール内共通EHR(エレクトリック・ヘルス・レコード=医療情報連携基盤)を導入しています。EHRを使うと、クリニックで入力された医療情報が暗号化されてクラウド上に保存され、患者さまの同意を得たものが薬局でダウンロードできます。処方箋のデータだけではなく、疾患名や血液検査値なども共有されるので、服薬指導の質がレベルアップしたり調剤がスピードアップして待ち時間を減らせたりするメリットがあります。処方内容が少ないものなら、患者さまが薬局に来るまでに準備できます。来たらもう薬ができているので、びっくりされますね(笑)。


──調剤のスピードアップは、こちらのロボットの活躍が大きいと思いますが、どのような経緯で導入されたのですか?


ドイツメーカーのロボットを日本仕様にするため日本BDと共同開発した


渡部:このロボットは「BD Rowa Vmax」というドイツのメーカーのものなんですが、日本BDに「売ってくれませんか?」と連絡しまして。事業部長さんに自分の目指す薬局のビジョンをガンガン語ったら感動してくれて、2週間後にはドイツに行って社長と握手し、日本で初めて輸入できました。ただ、ドイツをはじめ世界的に主流なのは薬を箱のまま渡す「箱出し調剤」ですが、日本では箱をあけて一錠ずつ数えてお薬を渡す「計数調剤」です。この機械は箱出し調剤用の仕様なので、日本用にどう変換したらいいか日本BDと時間をかけて共同開発しました。


──このロボットを使い、どのように調剤しているのですか?


キャプション

調剤風景。処方箋内容をもとにタッチパネルでロボットに指示を出す


渡部:では、実際に調剤してみますね。まず、処方箋のデータがコンピューターに飛んできます。例えば、「ロキソニン、ムコスタ、ミオナールを7錠ずつ調剤してください」というデータが来たとします。ここでは個人情報は省いて、品物と数だけのデータが転送されます。薬の内容がモニターに表示されるのでタップすると、ロボットが棚から薬を持って来てくれます。
はい、薬の箱が出てきました。箱からそれぞれ7錠ずつ取り出し、ラベルプリンターから出てきたバーコードのシールを箱に貼ります。ラベルシールには箱に何錠残っているかも記載されています。前は何分もかけて「あれ? あの薬がない!」と探していたんですが、今はそんなタイムラグがありません。


キャプション

プリンターから出てきたラベルシール。箱内の残りの錠数や使用期限も明記されている


──取り出した薬はどのように戻すんですか?


渡部:「人が置いているのだろう」と思っている人が結構いらっしゃるんですけど、そうではないんです。先ほど箱に貼ったラベルをバーコドリーダーで読み取って、専用の台に置くだけ。ピッとした一瞬で、赤外線が箱の高さと幅、奥行き、そして使用期限を測っています。最後に、「入庫を開始する」という項目をタップすると、ロボットが棚に戻します。置き場所は、その都度最も効率的なところを選んでいます。


ラベルをバーコードリーダーで読み取って置けば箱は棚に戻される


──それはすごい。ロボットにはカメラのようなものが付いていますね。それで置き場所を確認しているんですか?


箱を棚に戻すロボット。その都度最適な場所を選んで置いていく


渡部:あれはドライブレコーダーです。何か起こった時に原因究明できるように付けています。ロボットは座標で空間を捉えているようです。実はこのロボット、夜中も働いてくれるんです。「暇だ、なんかやることないかな」って(笑)。よく使う品目を出口近くに置いたり、よく併用するロキソニンとムコスタを隣に並べたりしているんですよ。まるで意思を持っているかのように。私もだんだん愛着がわいてきました(笑)。まさにSF映画みたいでしょう。


──ちなみに、ロボットが間違えることはあるんですか?


渡部:5月のオープンから2カ月間、エラーはゼロです。このロボットを使うことが、間違いをなくすことにつながります。この機械を導入した一番の目的は、医療ミスを撲滅することです。アメリカでは死亡原因の1位が心疾患、2位がガン、3位はメディカルエラーという報告もあります。アメリカに限らず医療ミスは世界中の主な死因となっているんです。「薬剤師が救うべき命はまずそこからだろう」と考え、ロボットを導入しました。


──無理なお願いかもしれませんが、薬を置いている部屋に入ることできますか?


渡部:せっかくなので見てみますか。普段は絶対入らないですよ。いかにお薬が隙間なく置かれているか分かると思います。


ロボットが効率的な配置を行い、省スペースながら3500箱が並ぶ


──すごい量の薬ですね! どれぐらい入っているんですか?


渡部:人間の手では取れないような並べ方ですよね。今は3500箱くらいあって、あと500箱は入ります。これを通常の棚に置こうと思ったら、倍以上のスペースが要ります。ここは梅田1丁目で地価が高いので、省スペースという意味でも価値があります。品目数だと今は2600種類ほどそろえています。これだけあるので、「薬がない!」と患者さまを困らせることもないですね。


──在庫管理が大変そうですが、それもロボットが自動でしてくれるんですか?


渡部:先ほどお見せしたように、入庫の度に貼るラベルシールに残数や使用期限が記されているので、毎回チェックできるんです。モニターの「在庫」という項目をタップするだけで確認できます。例えば「2019年の9月に使用期限が切れる箱が1箱ありますよ」といった感じで表示されます。それをタップすると、薬名も表示されます。出したければタップすると、すぐにアウトプットされます。こうやってチェックしていれば、不動在庫は絶対に出ません。さらに棚卸しも必要ありません。スタッフ総出で残業して棚卸しをするなんてことがなくなるんです。


──働きやすい環境ですね。薬局の横にある「自動薬剤受取機」は何ですか?


薬局閉店後もビル閉館まで調剤済みの薬が受け取れる自動薬剤受取機


渡部:簡単に言うと、調剤済みの薬を患者さまが後から受け取れるロッカーのようなものです。この機械は「ピックアップターミナル」と言うんですが、意味が分かりづらいので「自動薬剤受取機」と訳して、掲示しています。患者さまが「仕事に戻るので、後で取りに来ます」というときに自動薬剤受取機を使います。まず処方箋をお預かりして、バーコードとそれに対応するQRコードを印刷します。QRコードが記された紙をお渡し、服薬状況の確認と服薬指導を行います。患者さまとのやり取りはこれで終了です。その後、薬剤師は調剤をして薬と薬袋・薬情・領収書を箱に入れて封をします。最後にバーコードのラベルを貼ったら入庫。ロボットが棚の適当な場所に置くので、準備完了です。
夜8時になると薬局は閉店し、シャッターが施錠します。でも、この自動薬剤受取機はフリーアクセスで、ビルが閉館する夜11時まで対応できます。患者さまは自動薬剤受取機にQRコードをかざすだけでベルトコンベアーから薬が運び出されて、いつでも薬を受け取ることができます。ピックアップターミナルは世界で3台稼働していますが、調剤済みの薬を出すのはうちの1台だけです。将来的には、この機械で決済したり内蔵のカメラでOTC薬の遠隔服薬指導したりしたいと考えています。


処方箋を預かる際に患者にQRコードを渡す。自動薬剤受取機にかざすと調剤済みの薬の箱が出てくる


──ものすごく便利ですね!


渡部:処方内容が少なければ先ほどのEHRで待ち時間ゼロを実現し、内容が多い処方については時間がかかるので、この自動薬剤受け取り機を活用して実質待ち時間をゼロにできると考えています。今は大腸がんも早期発見できればほとんど治ります。でもたくさんの人が亡くなっている。それは時間がなくて健診に行けないからですよ。つまり、待たせないことが大事なんです。忙しい人の医療アクセスを高めることで、早期発見や健康寿命を延ばすことに役立ちます。


──機械を導入することで業務の効率化はもちろん、働き方もだいぶ変わってきますよね。


「一番のライバルはアマゾンなんです」と話す渡部社長


渡部:だいぶ変わりますね。手が空くので、ドクターに顔を合わせる度に「何かありますか? 手伝いましょうか?」と言いやすくなりますよね。それが結果的に、現場からの能動的なアクションにつながっていきます。ドクターは本当に忙しいですからね。タスクシフティングによって新しい仕事や役割を見つけていけば、薬剤師が薬学的知見に基づいたより高度でより人間らしい仕事をしていけると思います。薬剤師の未来を救うことにもつながりますね。これからは医薬協業の時代ですよ。機械化が対人業務の充実につながるかどうか、今後エビデンスを集積していきたいと思っています。


──薬局の明確な未来像をお持ちだと思うんですが、理想にされている薬局や薬剤師さんの在り方はどういうものですか?


渡部:私が刺激を受けてきたのは、東大病院の門前薬局、水野薬局さんですね。日本で最初の調剤薬局として自分が牽引していこうという使命感を持って、先進的なことをやっておられたんだと思います。バーコードの導入をはじめ、合理的な考え方をテクノロジーを使って現場に落とし込んでいました。梅田薬局もそういう薬局でありたいなと思っています。


──今後の展望をお聞かせください。


渡部:これから各都市で医療モール開発をやっていきたいなと考えています。自動入庫払出機は、小規模の薬局でも使えるように半分の大きさのものも開発してもらっています。若い世代がどんどんチャレンジしていかないと、イノベーションは起こらないですよね。実は私の一番のライバルは、インターネット通販大手の「アマゾン」なんです。そう言うと笑われるんですけれど。私がこれまで経営してきた8店舗は、大手調剤チェーンに対抗して築き上げました。でも、「アマゾンが日本の医薬品分野に来たら終わりだ」と思いました。この医療モールは、「どうやったらアマゾンに勝てるか」というテーマで知恵を絞り、「待ち時間をなくすにはどうしたらいいのか」、「エラーをなくすにはどうしたらいいのか」と必死に考えて出来上がったんです。だからこそ、医療のハブになれるように立地にとことんこだわったし、地域連携できるように有志の医師同士で声をかけて入ってもらいました。オンラインストアに負けないくらいの便利な実店舗があれば、簡単には負けないと思うんですね。対面のサービスには、それだけ価値があります。そういう医療モールをつくっていきたいです。

株式会社メディカルユアーズ

住所:兵庫県神戸市灘区桜口町4-1-1 ウェルブ六甲道4番街1番館301

URL:https://www.medicalyours.com/
TEL:078-821-6665

2011年、薬剤師で代表者の渡部正之氏が創業。保険調剤薬局を大阪府と兵庫県で9店舗経営する他、医療コンサルタント業や医療モール開発なども手掛ける。自動調剤化を進め、薬剤師の対人業務や在宅医療に注力できる環境を整えている。

                 メディカルサポネット編集部(取材日/2019年7月3日)
 
 
 

 

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