2018.12.21
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若年スポーツクライマーに生じる手指骨端線損傷

メディカルサポネット 編集部からのコメント

スポーツ選手に怪我は付き物です。怪我を押して出場することを美徳と報道されることもありますが、試合中の興奮状態や、一種の麻痺状態の中で無理をすることは、その後の競技人生だけでなく、日常生活にも悪影響を与えることがあります。試合結果や、その後の試合の出場権など、選手やチーム、トレーナーは思うことはあるでしょうが、その中で、医療関係者からの適格なアドバイスやドクターストップも必要です。時には嫌われ者になることを恐れないでください。

 

【手指の変形を生じた報告例もあり,専門家による適切な診断・治療が不可欠である】

近年,最も急速に人気が高まっているスポーツのひとつとしてスポーツクライミングがあり,国内の競技人口は60万人程度とも推定されている。2020年東京オリンピックの正式種目となったこともあり,国内のみならず,もともと既に一定の人気を確立していた欧米でもさらに競技人口が増加し,成長期の若年クライマーも急速に増加している。

これに伴い若年クライマー特有の障害として,手指の骨端線損傷が問題となっている。クライミングによる若年者の手指骨端線損傷は1997年の最初の報告以来,現在までに多数の症例が報告されている1)。手指伸筋腱の停止部である中節骨基部背側は,成長期の若年者では未骨化の骨端線の存在により特に脆弱で,ここに繰り返しのストレスが加わることで一種の剝離骨折をきたし,近位指節間(PIP)関節の腫脹と疼痛を生じる。中指が圧倒的に多く,稀に環指にも起こるとされる。保存的に治癒することが多いが,適切な治療が行われず手指の変形を生じた症例の報告もある。

現時点では医療従事者の認知度も高いとは言えず,医療機関を受診しても適切な診断がなされない可能性があるため,まずはこの疾患が若年クライマー特有の障害として注意すべきものであること,疑わしい場合には専門家による適切な診断・治療が不可欠であることが周知される必要がある。

【文献】

1) El-Shaikh Y, et al:J Hand Surg Am. 2018;43 (6):572. e1-572. e5.

【解説】

上羽宏明 高知大学整形外科

 

執筆:上羽宏明 (高知大学整形外科) 

出典:Web医事新報

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