2018.12.20
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災害直後からの遺族支援活動(吉永和正 日本DMORT理事長)【この人に聞きたい】

メディカルサポネット 編集部からのコメント

「死亡または救命不能」を意味する黒タグ。災害現場ではスピーディな判断が不可欠です。しかし、遺族はほんの少しの情報や希望にすがりつくもの。非常事態において、亡くなられた方だけでなく、遺族の方の今後の人生に向けたケアが行えるのも医療関係者です。救命的には後回しになってしまいがですが、生けるものの未来に向けたサポート体制を、整えておくことも大切です。

 

災害時はトリアージでより多くの命が救われる一方で、黒タグの方の遺族にも目を向ける必要がある。有事に備え警察との事前協定締結が課題

プロフィール

吉永和正(よしなが かずまさ)


1975年神戸大卒。2007年兵庫医大地域医療学教授、09年同大地域救急医療学教授を経て、14年協和マリナホスピタル院長・ウエルハウス西宮施設長。2006年より日本DMORT研究会代表、17年同研究会を法人化、理事長を務める。日本DMORTホームページで家族支援マニュアルなどを公表している(http://dmort.jp/

 

「なぜ死ななければならなかったのか」「本当に黒タグだったのか」―。大規模災害時にこうした気持ちを抱える遺族を支援する日本DMORT(災害死亡者家族支援チーム)。理事長の吉永和正氏(協和マリナホスピタル院長)に活動内容や課題を聞いた。

 

「遺族は黒タグに納得していない」という発表に衝撃

─発足までの経緯は。

2005年、JR福知山線の脱線事故が発生しました。阪神・淡路大震災から10年目に同じ地域で起こった大災害で、災害医療の蓄積が試された事故でした。

 

大きな役割を果たしたのがトリアージです。事故では、標準化されたトリアージタグが200~300枚は使われました。それだけまとめて使われたのは日本で初めてのことでした。中でも特徴的だったのは、黒トリアージの積極的な実施です。事故では、黒を現場で判断し搬送の混乱を防ぐことができた、トリアージが非常に上手くいった、というのが私たち救急医療を担う側の評価でした。

 

事故の翌年の日本集団災害医学会で、私はこのトリアージについて発表をしました。ところが、同じセッションで心療内科の医師は「黒タグと判断された方の遺族を診療している。遺族は黒タグに納得していない」と発表したんです。救急医にとっては驚きでしたが、確かにその通りです。災害医療では、救命にフォーカスを当ててシステムが構築されてきました。しかし、黒と判断された方や遺族のその後についての視点は欠けていました。医療者として、亡くなった方や遺族にも目を向けなければいけないと気付いたのが、2006年に日本DMORTが発足したきっかけです(17年に法人化)。

 

災害死についての相談先が存在しない

─活動内容を教えてください。

災害直後から、長期にわたる遺族支援を視野に入れています。

 

話を聞くだけで解決する問題もあるので、場合によってはDMORTが話を聞いてもいいと思いますし、長期のサポートが必要なケースでは医療機関や自治体の支援組織を紹介します。

 

早期の介入が遺族の抱えている問題の早期解決につながることも分かってきました。脱線事故での事例を紹介します。「死体検案書をみたところ、挫滅症候群という診断名がついていたが、体のどこもぐしゃぐしゃになったところはない。診断が間違えていたのではないか」─。事故から2年後に遺族の方々と話し合う機会があり、こうした疑問を持ち続けていたことを知りました。挫滅症候群とは、体の一部を挟み込まれた状態から長時間経過して圧迫が解除され、血流が復活するときに起こってくるものです。今は、圧挫症候群に名前を変えています。

 

病院で亡くなった場合は、不明点があればいつでも聞きに行くことができます。しかし災害で亡くなった場合、誰に、どこに聞きに行けばいいのか。システムはありません。現場からの情報提供が必要です。

 

黒タグの認識の違いに懸念

また、黒タグの意味を啓発しています。医療者向けの災害医療に関するポピュラーなテキスト19冊を調べたところ、「死亡または救命不能」と記載しているのは11冊、一方で「死亡」としているテキストは8冊ありました。これは現場で混乱を起こします。

 

黒タグは、救命が難しく搬送順位が下がることを意味しており、搬送の対象外ではありません。しかし現状では、医療者の中でも黒タグを見ると亡くなったのね、という反応が起こる場合があります。これは問題です。もちろんどこかで死亡診断は必要ですが、それは医師に限られた仕事です。

 

─主な活動場所はどこですか。

家族がご遺体と対面するのは、多くの場合で遺体安置所です。これが最も辛い場面ですから、遺体安置所で私たちが家族と接する流れが一番自然だと考えています。

 

─チーム編成は。

理想的なチーム編成は、1チーム5~6人です。リーダーは、救急医療を分かっている医師、実際に家族に接するメンバーは救急経験のある看護師2~3人、食事や宿泊など後方支援を行うロジスティクス担当者1~2人が望ましいと考えています。

 

遺族対応までを訓練に

─研修修了者の人数は。

現在は671人です。およその内訳は看護師が5割を占め、医師が2割、救急救命士が1割です。現場に出るには、研修会の参加は必須です。災害訓練に参加する場合も研修会修了者に限定しています。

 

私たちが実際に訓練に参加しているのは年に3、4回です。メンバーを増やし、全国各地の災害訓練で常にDMORTが参加している状況をつくりたいと考えています。黒タグの方を黒エリアに運んだら終わり、という災害訓練は多く存在しますが、そこから起こる問題がある。黒タグを付けられた方の家族への対応もぜひ訓練の中に入れていただきたいです。

 

─これまで派遣されたのは。

伊豆大島土砂災害(2013年)と熊本地震(2016年)の2回です。

 

伊豆大島の際は、被災地との交渉前にメンバーを派遣しました。町役場ではDMORTの活動趣旨を理解してくださり、担当者を介して遺族と接することができました。しかし、警察との連携がとれていなかったために、遺体安置所に入ることはできませんでした。

 

その後も災害が起こる度、警察に連絡しましたが、災害が起こってしまった状況で受け入れてもらうのは難しく、事前協定の締結の必要性を感じました。

 

熊本地震では、それまで連携を強化してきた兵庫県警を通じて熊本県警に打診してもらい、派遣が可能になりました。積み重ねてきた訓練やノウハウを現場で活かすことができました。これまでの活動における最大の成果です。

 

─警察との連携の状況は。

兵庫県警とは2018年1月に正式に協定を結びました。愛知県では、県警と密接な関係がある被害者支援連絡協議会のメンバーとしてDMORTが参加しています。そのほかの県警とも、訓練を通じて連携ができはじめています。今後、協定まで漕ぎ着けるのが目標です。 (聞き手・上野ひかり)

 

 出典:Web医事新報

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