2018.12.06
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【他科への手紙】感染症内科→全科

メディカルサポネット 編集部からのコメント

癌患者へのアンケートの研究報告では、抗菌薬を投与しても症状緩和が得られないのであれば抗菌薬を使ってほしくないと回答されている一方、終末期患者の6割以上が抗菌薬投与を受け続けているという報告もあります。人生会議には家族だけでなく、科をまたいだ医師の参加も必要かと思われます。

 

各科の先生にはいつもお世話になっております。終末期の癌患者をご担当される先生方は多いと思いますが、そのような患者での感染症治療・抗菌薬投与はどうされておられるでしょうか。

 

癌患者の終末期では感染症が高頻度に死亡に関与しますが、抗菌薬が奏効するケースは限られていることが報告されています。その一方で、癌終末期においては多くの報告で6割以上の患者が抗菌薬投与を受けています。癌診療医による癌患者の余命推定は約3割程度しか当たらず、医師は癌患者の余命を長めに推定してしまう傾向があると報告されており、この理由もあってか、死亡する直前まで抗菌薬が投与されている患者は約6割に及ぶとされています。

 

癌終末期においては、固形癌による解剖学的異常に加え、低栄養状態、骨髄抑制、ステロイド治療、オピオイド投与、医療デバイス、ドレナージ困難、手術困難といった、感染症そのものを難治化させる要因が多数存在します。このため、終末期でも、尿路感染症であれば良好な改善が得られやすいですが、それ以外の感染症では抗菌薬の奏効率は悪くなります。また、癌患者へのアンケートの研究報告では、抗菌薬を投与しても症状緩和が得られないのであれば抗菌薬を使ってほしくないと回答しています。

 

抗菌薬を投与することは同時に腎障害、肝障害のみならず抗菌薬関連脳症によるせん妄やアレルギー反応、抗菌薬関連腸炎による下痢等、種々の副作用等の侵襲を与えうることになります。さらに癌患者においては多数の薬剤を使用する、いわゆるポリファーマシーも指摘されており、そこに抗菌薬が加わることによる相互作用も考慮が必要です。症状改善が乏しいのであれば漫然とした抗菌薬投与は有益性が得られないどころか、副作用や耐性菌といった害が益を上回ってしまうリスクが高まります。

 

「抗菌薬を投与しなくて何か起こったら困る」ということを言われることがよくあります。癌終末期患者では、何か起こった時に人工呼吸器や胸骨圧迫、昇圧剤、輸血といったものを行うかどうかを事前に患者本人やご家族と相談なさっていることと思います。抗菌薬もこれらと同様に、投与するかどうか、あるいは今投与している抗菌薬を中断するかどうか、について患者やその家族、あるいは緩和ケアチームともぜひお話し頂ければと思います。

 

ただし、個々の患者において多様な背景因子があり、その意思決定は様々で、難しい判断を迫られることも多いかと思います。お困りの際は感染症内科にご相談下さい。

  

結び

癌終末期では、抗菌薬投与が症状緩和につながるか、害が益を上回らないかを考慮し、使用や中断について患者・家族とご相談下さい。

 

 執筆:福家良太 (東北医科薬科大学病院感染症内科)

 

 出典:Web医事新報

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