2018.12.07
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日本の内視鏡外科手術における教育システムの現状と今後の展望は?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

新東京病院の本田五郎先生は「肝胆膵外科医の多くが腹腔鏡下手術をほとんど経験することなく育っているのが現状で、腹腔鏡下手術にも熟達した肝胆膵外科医をいかに育成するかが今後の課題」と提案しています。技術の継続とさらなる発展に向け、ぜひお力添えください。

 

内視鏡外科手術における教育システムは日本内視鏡外科学会を中心に内視鏡外科技術認定制度など確立されつつありますが,具体的に各施設における教育への取り組みは様々かと思います。日本の内視鏡外科手術における教育システムの現状と先生が考えられている教育システムづくりについて,新東京病院・本田五郎先生にご回答をお願い致します。

【質問者】

永川裕一 東京医科大学肝胆膵外科准教授

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【回答】

【すべての肝胆膵外科医が腹腔鏡下手術の手技を習得し,開腹下手術との使い分けを行うことが期待される】

この20年余りの間,腹腔鏡下手術は目覚ましい発展を遂げました。そのような中,腹腔鏡下胆嚢摘出術(laparoscopic cholecystectomy,通称ラパコレ)を除くと,肝胆膵領域はなかなか順風満帆というわけにはいきませんでした。最大の理由として,経験豊富な肝胆膵外科医の多くが腹腔鏡下手術をほとんど経験することなく育っているという現状が挙げられると思います。特に現在指導的立場にいる肝胆膵外科医の中には,ラパコレさえほとんどしたことがないという人もいます。そのため,近年,腹腔鏡下肝切除や膵切除の手技の標準化が進み,一定の速度で普及しつつありますが,まだまだ他の臓器の腹腔鏡下手術と比較すると施設間の格差は大きいと思います。

 

一方で,肝胆膵領域は診断や手術適応,術式選択の判断に高度な専門的知識を要する疾患が多く,腹腔鏡下手術のスキルがあるだけでこの領域に手を出して,腹腔鏡下手術を不適切に適用するような姿勢がしばしば見受けられます。これまで学会や研究会で何度も話し合われて蓄積されてきた疾患そのものに関する見識は,必ずしもそのすべてが正しいとは限りません。しかし,少なくともそれらの見識をよく学習した上で,次へのステップとして腹腔鏡下手術に取り組む姿勢が求められます。これは,現在そして将来,腹腔鏡下肝胆膵手術に取り組む若い世代の皆さんに特に気を付けて頂きたい点です。

 

今後はすべての肝胆膵外科医が腹腔鏡下手術の手技を習得し,安全性と有益性のバランスを考慮して開腹下手術との適切な使い分けを行う時代になることが期待されます。教育システムとしては,術者とまったく同じ術野を容易にしかも繰り返し見て学ぶことができる腹腔鏡下手術の利点を活かし,腹腔鏡下手術にも熟達した肝胆膵外科医をいかに育成するかが大きな課題と言えます。腹腔鏡下手術にも熟達した肝胆膵外科医の育成は国内だけでなく諸外国でも同様に課題となっています。指導医が辛抱強く若い外科医に執刀チャンスを与えるわが国独特の風土をうまく取り入れる形で適切な教育システムが標準化されれば,アクセスが容易でかつ公平な現行の国民皆保険制度の維持にも寄与しますし,日本の肝胆膵外科の国際的なプレゼンスをさらに高めることができると思います。具体的な方策はまだまだこれからなのですが……。

 

【回答者】

本田五郎 新東京病院消化器外科主任部長/消化器がん腹腔鏡・ロボット手術副センター長

 

執筆

永川裕一 (東京医科大学肝胆膵外科准教授)

本田五郎 (新東京病院消化器外科主任部長/消化器がん腹腔鏡・ロボット手術副センター長)

 

 

 出典:Web医事新報

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