2018.12.05
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抗凝固薬を使用している高齢者頭部外傷患者への対処は?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

年齢とともに、バランス力や筋力、視力などが衰え、転倒リスクが高まります。さらに、近年では抗凝固薬の内服による凝固障害により治療が難航する傾向が高まっています。頭部外傷、特に抗血栓薬内服者は、早急な抗血栓薬の中和が必要です。抗血栓薬を服用する患者には危険性の理解、医療関係者へは適切な対応を啓もうする“Think FAST”campaignが2018年3月よりスタートしています。お薬手帳や携帯カードを持ち歩いていただくよう一声かけてください。

 

わが国の高齢化がさらに進んでいます。実臨床でも転倒による高齢者重症頭部外傷患者が増加している印象を受けますが,そのような患者の多くは心房細動などの慢性疾患があり,特にワルファリンやDOACなどの抗凝固薬使用患者は止血に難渋する例も多く,急速に病態が悪化する印象があります。近年では抗凝固薬に対するいくつかの中和法も普及しつつありますが,抗凝固薬を使用している頭部外傷患者への適切な対処法と注意点についてご教示下さい。またこのトピックに関して行われている社会的取組みについても言及いただけますと幸甚です。山口大学・末廣栄一先生にご回答をお願い致します。

【質問者】

横堀將司 日本医科大学大学院医学研究科救急医学分野准教授/日本医科大学付属病院高度救命救急センター

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【回答】

【画像診断で外傷性頭蓋内出血を認めたら24時間経過観察入院。抗血栓薬服用者には抗血栓薬の中和が必要】

 

日本の超高齢化対策は,医療の分野でも喫緊の課題です。高齢者では脳萎縮をはじめとした特有な解剖学的・生理学的特徴や病態を有しています。脳容積の減少に伴い,硬膜下腔の拡大が観察され,大脳半球の可動性が増し架橋静脈が損傷されやすくなり硬膜下血腫を生じます。

 

また,脳萎縮がもたらすもう一つの高齢者頭部外傷における特有な病態として,頭蓋内症候の遅発性変化が挙げられます。脳萎縮による圧緩衝間隙の増大,さらには高齢者の頭蓋内コンプライアンスの低下も相まって,初期には症候を呈さないものの頭蓋内圧がいったん閾値に達すると,症候は急速に重篤化し転帰が悪化してしまいます。そのため,高齢者頭部外傷においては,早期の診断,早期の対応が重要となるのです。

 

高齢者は心房細動や動脈硬化の有病率が高く,抗凝固薬や抗血小板薬を服用している患者が多いことも問題点として挙げられます。日本脳神経外傷学会の日本頭部外傷データバンク プロジェクト2015によると,高齢者(65歳以上)重症頭部外傷の31%が抗血栓薬を服用しています。また,初診時では意識清明であるが遅発性に神経増悪を認める“talk&deteriorate”を認めた割合が,抗血栓薬を服用していない患者群では17.5%であるのに対して,抗血小板薬服用:30.8%,抗凝固薬服用:26.9%,両剤併用:33.3%と有意に増加しています。

 

高齢者頭部外傷における特有な病態として頭蓋内病変の遅発性変化と抗血栓薬の影響を考慮に入れると,高齢者頭部外傷(特に抗血栓薬服用患者)の初診時には,まずは画像診断にて頭蓋内出血を否定したいところです。もし,外傷性頭蓋内出血を認めた場合は,少なくとも24時間の経過観察入院が勧められます。抗血栓薬服用者であれば,適切な抗血栓薬の中和が必要です。ワルファリンへの中和剤としては,ビタミンKや新鮮凍結血漿が挙げられます。さらに昨年より,プロトロンビン複合体製剤が使用可能となりました。可及的速やかにPT-INR 1.3までの中和が可能で,神経救急領域での活用が期待されます。ただし,本剤は血液凝固第Ⅱ,第Ⅶ,第Ⅸ,第Ⅹ因子の補充であるため効果は一過性であり,ビタミンKの投与併用が必要です。直接トロンビン阻害薬には特異的中和剤であるイダルシズマブが代表的な中和剤です。しかし,第Ⅹa阻害薬に関しては,現行では有効な中和法はないとされています。

 

日本脳神経外傷学会や日本救急医学会など6学術団体の後援を得て,“Think FAST”campaignを展開しています。一般市民へは,転倒・転落による高齢者頭部外傷(特に抗血栓薬服用者)の危険性,頭部打撲時の医師受診を含めた適切な対応について啓発します。医療業界へは,抗血栓薬服用中の軽症を含んだ頭部外傷患者における医師受診の必要性,迅速な画像診断の必要性,そして抗血栓薬の中和について啓発活動を行っています。 

【回答者】

末廣栄一 山口大学医学部附属病院先進救急医療センター/脳神経外科診療准教授

 

執筆

横堀將司 (日本医科大学大学院医学研究科救急医学分野准教授/日本医科大学付属病院高度救命救急センター)

末廣栄一 (山口大学医学部附属病院先進救急医療センター/脳神経外科診療准教授)

 

 

 出典:Web医事新報

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