2018.12.02
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肥満外科治療の現況は?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

アメリカでは年間20万件の減量手術が行われています。高度肥満患者は臓器合併症を持っているため、手術そのものが高リスクとなります。2005年に米国では術後1カ月の死亡率が2.0%となり、一時的に保険診療の停止にまで至っています。このような手術手技・周術期管理の問題や体重のリバウンド、栄養障害、精神面の問題なども指摘されています。外科医だけでなく、多職種のチームによる全人的ケアが必要です。

 

肥満外科治療の現況について,ご教示下さい。東邦大学・龍野一郎先生にご回答をお願いします。

【質問者】

福井道明 京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・代謝内科学教授

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【回答】

【安全な肥満外科手術をめざして肥満外科手術施設の認定を進めている】

  

肥満外科手術(減量手術:bariatric surgery)は美容整形的な脂肪吸引とは根本的に異なり,摂食制限を狙った胃バンド術,胃を細くする胃袖状手術(スリーブ術),胃と腸をつなぎ替える胃バイパス手術の3法が代表的手法です。

減量治療としては運動・食事・認知行動,それに薬物を加えた内科治療が基本ですが,BMI 35以上の高度肥満患者は食育環境,独特の性格特徴,精神疾患の合併,不適切なストレス対応,食行動異常,不適切な認知など複合的要因により内科治療の効果は限られ,減量できてもリバウンドする確率が高い状況でした。このため欧米では広く減量手術が行われ,既に手術の長期にわたる減量効果と安全性が証明されており,米国では年間20万件,全世界で50万件を超える手術が行われています。

近年,肥満2型糖尿病患者に対しても術後体重の減少とは独立した糖代謝改善が認められ,代謝手術(metabolic surgery)とも呼ばれるようになりました。このため,米国糖尿病学会は肥満2型糖尿病の患者に対して2017年のガイドラインで代謝手術として,BMI 30(アジア人27.5)以上の患者に推奨し,2017年にロンドンで開催されたThe 2nd Diabetes Surgery Summit(DSS-II)では,同様の治療アルゴリズムが公表され,日本糖尿病学会もこのアルゴリズムに賛同を表明しています。

日本においては2014年に腹腔鏡下胃縮小術が保険適用になりましたが,症例数の伸びは遅く,日本内視鏡下肥満・糖尿病外科研究会の報告では2017年の症例数は500例弱にとどまっています。平成28年度厚生労働科学研究費補助金(難治性疾患政策研究事業)「食欲中枢異常による難治性高度肥満症の実態調査」のための研究班(龍野班)のアンケート調査によると,現在既に手術適応と考える高度肥満2型糖尿病患者が3万人も存在すると推定しており,早急な施設拡充などの対応が必要です。

糖尿病の完解には胃スリーブ術にバイパス術を加えた腹腔鏡下スリーブ状胃切除術および十二指腸空腸(腹腔鏡下スリーブ・バイパス術)の有効性が証明され,2018年には先進医療として追加承認されており,東北大学病院と東邦大学医療センター佐倉病院の2施設が認定されています。

しかしながら,高度肥満患者は代謝性障害や心腎肝疾患など臓器合併症を持ち,手術そのものが高リスクであり,米国では急激に手術数が増加した2005年に術後1カ月の死亡率が2.0%にもなり,一時的に保険診療の停止にまで至っています。このような手術手技・周術期管理の問題に加えて,長期的には体重のリバウンド,栄養障害(特に骨粗鬆症の増加),精神面では自殺率の増加なども指摘され,外科医だけでなく,内科医・精神科医・看護師・管理栄養士・運動療法士など多職種のチームによる一生に亘る全人的ケアが必要です。

日本肥満症治療学会ではこのような理念の下に安心で安全な肥満外科手術の提供をめざし,上記の条件を満たす優れた肥満外科手術施設を認定しており,2018年9月末現在,国内で17施設[http: //plaza.umin.ne.jp/~jsto/gekashisetsu/index.html]が認定を受けています。紹介の際にはぜひご参考にして頂きたいと思います。

【回答者】

龍野一郎 日本肥満症治療学会理事長/東邦大学医療センター佐倉病院内科学講座主任教授

 

執筆

福井道明 (京都府立医科大学大学院医学研究科 内分泌・代謝内科学教授)

龍野一郎 (日本肥満症治療学会理事長/東邦大学医療センター佐倉病院内科学講座主任教授)

 

 出典:Web医事新報

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