2018.11.28
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新生児,乳児大動脈縮窄に対する術式選択は?

メディカルサポネット 編集部からのコメント

胸骨正中切開による体外循環を用いた大動脈弓部再建、大動脈弓部が低形成であれば吻合部をより近位部、無名動脈分岐対側とし端側吻合(aortic arch advance法)を行っています。近年は肺動脈前壁もしくは自己心膜をパッチとして使用し、再建部を大きく拡大することで再狭窄を回避する方法も取られています。いずれもリスクを伴うので、注意が必要です。

 

新生児,乳児大動脈縮窄に対する弓部再建は,自己大動脈またはその分枝動脈を用いた術式が歴史的本流と考えますが,最近は前述血管以外の自己組織(自己心膜,主肺動脈壁など)を補填した弓部再建術式を積極的に採用する術者も増えています。同群の術式選択について,榊原記念病院・高橋幸宏先生にご解説をお願いします。

【質問者】

坂本喜三郎 静岡県立こども病院院長

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【回答】

【通常のCoA/IAAに対する大動脈再建は,自己大動脈組織での直接吻合を基本方針とする】

  

新生児・乳児の大動脈縮窄症に対する術式としては,①subclavian flap aortoplasty,②blalock park,③extended aortic arch anastomosis(EAAA)が挙げられます。いずれも側開胸での手術が可能ですが,狭窄の部位や程度,狭窄の長さによっては万能ではありません。さらに大動脈弓部の低形成を伴う場合はより中枢での大動脈弓部再建が必要であり,側開胸からのアプローチでは不十分です。

このような理由から,筆者は一貫して胸骨正中切開による体外循環を用いた大動脈弓部再建を行っています。これにより確実な動脈管組織の切除と,大動脈弓部の形態に応じた弓部再建が可能です。すなわち大動脈弓部の径が十分であれば,縮窄部,動脈管組織を切除した後,遠位弓部断端を拡大切開しての端々吻合を行っています。また2000年頃からは,大動脈弓部が低形成であれば吻合部をより近位部,無名動脈分岐対側とし端側吻合(aortic arch advance法)を行っています。

近年,この弓部再建に,肺動脈前壁もしくは自己心膜をパッチとして使用し,再建部を大きく拡大することで再狭窄を回避する方法で良好な成績が報告されています。前に述べたように,筆者はすべての大動脈弓部再建を胸骨正中切開の体外循環下に行っていますが,縮窄部が長く,弓部も低形成な症例では,術後の吻合部狭窄や左気管支の圧迫による気道狭窄のリスクには注意が必要です。

この対策としてはprimaryにパッチを使用せず,弓部分枝の十分な剥離と肋間動脈の処理を伴う下行大動脈の遠位までの剥離を十分に行い直接吻合を行います。吻合後は形態を確認し,thrillの有無,心表面からの超音波検査(direct UCG)にて加速血流がないことを確認することが肝要です。primaryにパッチを使用した弓部再建は,吻合部狭窄や気道狭窄に対する積極的なアプローチと認識しますが,一方で弓部・下行大動脈の遮断時間は長くなり,手術侵襲自体が大きくなることが懸念されます。

さらに良質でavailabilityの高いパッチ材料が乏しい現状では,通常の大動脈縮窄/離断症(CoA/IAA)に対する大動脈再建は,あくまで自己大動脈組織での直接吻合を基本方針としています。遠隔期の吻合部狭窄は比較的少ないと考えます。CoA/IAAにおいて現在残された問題はむしろ半回神経麻痺であり,下行大動脈剥離の際には注意が必要です。

【回答者】

高橋幸宏 榊原記念病院心臓血管外科小児主任部長/副院長

 

執筆

坂本喜三郎 (静岡県立こども病院院長)

高橋幸宏 (榊原記念病院心臓血管外科小児主任部長/副院長)

 

 出典:Web医事新報

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