2018.10.03
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【他科への手紙】消化器内科→抗血小板剤、抗凝固剤を処方する先生

メディカルサポネット 編集部からのコメント

抗血小板剤や抗凝固剤(サラサラ)を服用されている高齢者が増えています。サラサラの副作用として、排便習慣が芳しくなくなることが多く見られます。無理に排便すると、直腸出血、痔核出血、肛門裂傷などで出血の危険が高くなります。失血死防止のためにも、処方する際は患者への説明にご配慮ください。

 

団塊の世代が後期高齢者となる「2025年問題」が様々な切り口で取りあげられる昨今ですが、2025年問題は都市部の問題です。地方は今、切迫しています。金の卵と称された「団塊の世代」の「親世代」が、地方に大勢います。地方の医師は今、「親世代」の診療に忙殺されています。

 

その親世代は90歳台です。日常生活には様々な支援が必要です。受診の「足」の確保も容易ではありません。単科受診ですむことは少なく、診療所のハシゴもめずらしくありません。病院であれば、複数科受診がザラです。受診する医療機関が複数の場合、調剤薬局が複数となることもザラです。お薬手帳を複数持っている高齢者はけっこういます。当然、常用薬の管理がおろそかになります。子世代が親の常用薬をきちんと把握できていることは稀です。

 

地方の二次救急病院の消化器内科を担当していると、そのような高齢者が消化管出血で紹介される機会が増えています。中でも、抗血小板剤や抗凝固剤(以下『サラサラ』)を服用している高齢者の紹介が飛躍的に増加しています。むしろ、消化管出血での御紹介患者さんの大多数が、なにがしかの『サラサラ』を処方されています。

 

『サラサラ』の効能は、広く知られてきました。しかし、『サラサラ』の「リスク」への関心がいまだに薄く、非常に残念です。『サラサラ』自体が消化管潰瘍や消化管出血を惹起する機序が知られ始め、プロトンポンプ阻害薬の併用処方が浸透しはじめていることは、消化器内科医として非常に好ましい流れと受け止めています。

 

ただ、もう一歩踏み込んだリスク管理として、「排便習慣」にも関心を持って頂ければ、大変ありがたいです。『サラサラ』を服用している患者さんは、排便習慣が芳しくないことが多々あります。脳血管障害後遺症で腹圧をかけられない。心機能が悪く、いきむ力が萎えている。腰部脊柱管狭窄症で肛門周囲の力も低下している。心機能の悪化で静脈が鬱滞し、内痔核が腫大しやすい。このような状態で無理に排便すると、直腸出血、痔核出血、肛門裂傷などで出血しやすくなります。

 

『サラサラ』を服用していると、トイレで尻を出したまま出血死することが決してフィクションではないとおわかり頂けるでしょう。出血した当事者からすると、何とも恥ずかしい状態に突然陥ります。私も、このような病態での検死を何度か経験しています。今の時代、酸化マグネシウムをはじめとした各種緩下剤を併用していないと、「排便習慣に対する配慮が欠けていた!」と訴えられかねない時代です。『サラサラ』を処方される場合には、排便管理にもご配慮下さい。

 

結び

『サラサラ』を処方する時は、排便習慣を問診してください。『サラサラ』で失血死しえることも、御説明してください。

 

執筆:中島恒夫 (丸子中央病院消化器内科)

 出典:Web医事新報

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