2018.10.13
3

救急受診する自殺未遂者に対する診療の現状と今後の展望

メディカルサポネット 編集部からのコメント

自殺者は傷の手当だけでなく、自殺企図の再発防止に対する複合的ケース・マネージメントが必要になります。しかし、救命救急センターなど病院の救急部門に精神科医が配されている例は少なく、多くの場合は精神科医を交えたコンサルテーションを行うことになり、時には専門医が病院にいないケースもあります。患者のためだけでなく、自身の陰性感情や不安を減らすためにも、医療スタッフが適切な初期対応を学ぶことが必要です。

 

わが国の自殺者数は減少傾向にあるものの,年間2万人以上が死亡しています。10歳代後半以降の子どもや妊産婦の死亡原因として自殺は最も多く,問題となっています。救急はセーフティーネットの一部として,自殺未遂者の再企図を防ぐ介入を行うべきと思いますが,適切な診療に関する現状と今後の展望について,帝京大学・三宅康史先生にご解説をお願いします。

【質問者】

山下智幸 日本赤十字社医療センター 救命救急センター・救急科

 

----------------------------------------------------------------------------------------------------

 

【回答】

【限られた時間内での標準的なケアを施すには,より深く学ぶ・知ることが肝要】

救急受診する自殺未遂者が,最初から「自殺を企図したこと」が明らかで,その過程で外傷や急性中毒など身体的障害を被って搬送されてくれば対処法はかなり定型的ですが,転落外傷やひき逃げなどで路上に倒れていたり,また原因不明の意識障害や低体温症で担ぎ込まれてきた場合には,身元や現病歴,既往歴,頼れる血縁者の有無を含め,ゼロから診療を開始せねばなりません。そして,あとになって自殺企図であることがわかったときの担当スタッフの陰性感情も十分理解できます。

それでも手をさしのべるに値するのは,自殺者を1人でも減らすことは,結果としてその配偶者や両親,子ども達を自死遺族にせずにすむからです。考えてみて下さい。あなたが帰宅して自分の家族の自殺した姿を最初に見つけたとしたら…。そのインパクト,その後の実生活への影響は計り知れません。自殺企図は最終的な自殺完遂の最も大きなリスクファクターなのです。

運良く一命を取りとどめて救命救急センターへ搬送されたら,事件性や事故の可能性を排除し,希死念慮や具体的な証拠(遺書など)を確認した上で,患者の身体的治療と並行して,必ず存在する精神科的問題(それまで精神科既往がなくても自殺をしようとする精神状態は,上述の残される家族のことなど考えれば正常とは言えません)の解決と,心理社会的な支援が欠かせません。もちろん自殺を試みようとするまで追い込まれた生活環境が,一筋縄(短期間)で解決するとは思えませんし,自殺未遂者ケアを専門とする精神科医が実際たくさんいるわけでもないのです。すぐに診察してくれる精神科医はおらず,身柄をお願いしようにも家族も疲れ切っているかもしれません。

なんとか翌朝(週末の場合は月曜の朝)まで患者の話を聞き,問題点を抽出して標準的な初期対応を施し,「面倒見の良い」以下の方々(ビッグコミックスピリッツ「健康で文化的な最低限度の生活」参照)に確実につないでいく手法を学ぶために,日本臨床救急医学会「自殺企図者のケアに関する検討委員会」が主催・共催する「自殺未遂者ケア研修」や,救急現場で精神科的問題の初期対応を多職種で学ぶ「PEECコースTM」を受講するのも一手です。

字数の制限から,対処の心構えだけの説明で終わってしまいましたが,より深く学ぶ・知ることで陰性感情や不安を減らし,前向きに自殺企図患者のケアができるようになれると思います。

【回答者】

三宅康史 帝京大学医学部救急科教授/帝京大学医学部 附属病院高度救命救急センター長

 

 

執筆:山下智幸 (日本赤十字社医療センター 救命救急センター・救急科)           

三宅康史 (帝京大学医学部救急科教授/帝京大学医学部 附属病院高度救命救急センター長)

 

 出典:Web医事新報

この記事を評価する

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

TOP