2024.02.06
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【識者の眼】「災害後の心のケアを考える時に大事なこと」堀 有伸

メディカルサポネット 編集部からのコメント

能登半島の災害を受けて、堀 有伸ほりメンタルクリニック院長が、災害後の心のケアを考える際に必要となるサイコロジカル・ファーストエイド(psychological first aids:PFA)や、心が回復していくのに必要と考えられている条件などについて解説します。

災害に遭われた方々の回復を心からお祈りいたします。

   

改めまして、能登半島地震で被災された方々に、心からのお見舞いを申し上げます。

 

災害時の、特に急性期の心のケアにふさわしい内容として、サイコロジカル・ファーストエイド(psychological first aids:PFA)が国際的に信用されるようになっています。WHOや、米国の国立PTSDセンターと国立子どもトラウマティックストレス・ネットワークが作成したものがあり、わが国ではそれぞれ国立精神・神経医療研究センターや兵庫県こころのケアセンターのサイトに詳しい内容が提供されています。

 

多くのことが書かれているようですが、私には「災害時には、心のケアや精神医療を大きく掲げてでしゃばることをせず、日常生活の再建のための現実的なサポートを優先するように、しかし求められたら専門性をすぐに発揮できるように、近くで控えて行動すべし」と読めました。

 

PFAには、もとになったエキスパートの意見をまとめたとされる論文があり、次の5つの条件がそろうと心は回復していくとされています。

  • safety:安全、安心
  • calmness:落ち着いていること、冷静さ
  • connectedness:つながり
  • self-efficacy:自己効力感(無力感も万能感もよくありません)
  • hope:希望

 

上の5つの条件を被災者の方々が満たされたと感じられるように物事が進むとよい、という発想でPFA等のプログラムは開発されました。卓見だと思います。

 

私は東日本大震災のときに原発事故後の現場にかかわった経験があるのですが、難しいのは2番目のcalmnessについての解釈でした。「冷静になりなさい」を強調し過ぎて、原発と放射線被ばくに対する不安と、政府や東京電力への不満を抑え過ぎてしまうことは、safetyの感覚を揺るがせると考えたからです。しかし、普段は抑圧されている「お上への不満」を、災害のような場面で過剰に表現するのも適切とは思えません。復旧・復興のプロセスは何年も長期間にわたって継続することがあります。怒りをエネルギーにした場合に、消耗が激しくなってしまうおそれがあります。

 

このあたりの加減についてはマニュアル的な一律の書き方はできないと感じています。関わる人々の良識や、中庸の感覚が求められるところだと考えます。

 

【参考文献】

▶ Hobfoll SE, et al:Psychiatry. 2007;70(4):283-315;discussion 316-69.

 

堀 有伸(ほりメンタルクリニック院長)[PFA][中庸の感覚]

 

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出典:Web医事新報

 

 

 

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