2020.03.05
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妊婦加算はどうなるの?【読者のギモン】

メディカルサポネット 編集部からのコメント

妊婦の診療は通常よりも特別な配慮や対応が求められるため、2018年の診療報酬改定で「妊婦加算」が導入されましたが、説明が不十分だったことなどから「妊婦税」などと批判され、2019年1月から算定は凍結されています。2020年度の診療報酬改定では「妊婦加算」は廃止され、妊婦に関する診療情報の提供に関する評価が新設されます。医療機関同士の情報共有で「診療情報提供料(III)」として150点を算定することができます。妊娠中の女性への診療をどのように評価するかは、2022年度以降の診療報酬改定への “宿題”となりそうです。

 

 医療や介護に関する皆さんからの質問に対し、取材して回答する「読者のギモン」。今回は、算定が1年余りストップしている妊婦加算がテーマです。この加算が4月の診療報酬改定でどうなるかや、妊婦診療への対応を巡る中央社会保険医療協議会(以下、中医協)での議論などを改めて整理します。【松村秀士】

 

Q.妊婦加算は今後、どうなるのですか? 妊娠中の当事者なので、とても気になります。(A美さん/20歳代)

 

A.妊婦加算は、医療機関が妊娠中の女性に診療を行った場合に算定できる診療報酬上の評価で、その診療に当たって配慮すべきさまざまな事柄があることに対応しようとしたものです。しかし、こうした趣旨の説明が十分になされなかったり、コンタクトレンズの処方など妊娠と関係ない場合でこの加算が適用されるケースがあったりしました。そのため、妊娠している女性などから、外来で受診した際に掛かる医療費に、「妊娠中」という理由だけで数百円程度が上乗せされると受け止められました。この加算は、2018年度の診療報酬改定で導入されましたが、そうしたスキームが「妊婦税」などと批判され、国は19年1月1日から算定を凍結しています。そして、20年度の診療報酬改定で廃止されます。では、4月からはどうなるのでしょうか。

 

■医療機関同士の情報共有で上乗せ

  

 

 妊婦加算に代わる新たな評価が、段階的に導入されます。まずは第一段階として、妊婦に関する診療情報の提供に関する評価が20年度改定で新設されます。産科・産婦人科の医療機関から紹介された妊婦に対し、紹介を受けた医療機関が継続して診療を行い、その患者の診療情報を紹介元に提供した場合の評価で、「診療情報提供料(III)」として150点を算定することができます。これは、患者本人の同意を得ることが前提です。紹介先の医療機関の診療は、妊娠以外の疾病に関するものですが、紹介先には妊婦への診療に十分な経験を持つ常勤医師がいることが望ましいとされています。受診した妊婦は、医療費の窓口負担に原則450円が上乗せされます。ただ、「診療情報提供料(III)」は、妊娠に関する情報共有への評価。“本丸”の妊婦診療に対する評価はどうなるのでしょうか。

 

■22年度以降の“宿題”に

 

 「妊産婦に対する診療の適切な評価について引き続き検討すること」-。中医協がまとめた20年度改定案の答申書附帯意見には、こうした記載があります。中医協が附帯意見に盛り込むのは、次の診療報酬改定に向けた検討課題。つまり、妊娠中の女性への診療をどのように評価するかは、22年度以降の診療報酬改定への “宿題”となります。それを検討する際にベースとなるのが、厚労省の「妊産婦に対する保健・医療体制の在り方に関する検討会」での議論です。妊婦加算の凍結を受けて設置されたこの検討会は、19年6月の取りまとめで、産科・産婦人科以外の医師への研修を推進したり、妊娠中の女性だけでなく、出産の直前・直後の女性も相談できる仕組みを作ったりすべきだとの意見が上がったと指摘しています。

 

■ゼロからの検討を求める声も

 

 19年12月20日に開かれた中医協の総会では、妊婦加算の取り扱いがテーマとなり、医療提供側の委員からは、「妊婦・医療機関の双方にとって有益な対応をしっかり議論することが重要だ」との指摘や、妊産婦に対する総合的な支援を後押しするべきだとの意見が出ました。健保組合など医療費を支払う側の委員も、「研修会の実施や相談窓口の設置といった環境整備が確立された段階で、新たな枠組みをゼロベースで議論してはどうか」「安全な妊娠、安全な出産に向けて総合的な支援という枠組みで考えてほしい」と要望しました。

 

■そもそも妊婦加算とは?

 

 妊婦への診療については、通常よりも特別な配慮や対応が求められるため、積極的に行わない医療機関が一部にあるといいます。また、日本産婦人科医会や日本産科婦人科学会は従来、妊婦への外来診療を診療報酬で評価するよう、国に要望していました。こうした状況などを踏まえ、妊婦加算が18年度の診療報酬改定で新設されました。医療機関が妊娠中の女性に外来診療を行った場合、診療時間内なら初診時に75点、再診時に38点を、初診料(288点)と再診料(73点)にそれぞれ上乗せできるというもの。受診した妊婦には、医療費が3割負担の場合、診療時間内では初診時に約230円、再診時には約110円が追加料金として掛かります=表=。

 

  

■過去にも同様のケース

 

 実は、凍結・廃止という妊婦加算と同じような経緯をたどった診療報酬が過去にもありました。後期高齢者医療制度の創設に合わせ、08年度の診療報酬改定で作られた「後期高齢者診療料」や「後期高齢者終末期相談支援料」などです。このうち、終末期相談支援料は、回復が難しい終末期の治療方針を医師らが患者や家族と話し合い、その合意内容を文書にまとめると、2000円の報酬が医療機関に支払われる仕組み。これに対して野党などから、「延命措置中止の強制につながる」と批判され、新設からわずか3カ月で凍結。結果的に2年後の10年度改定で廃止されました。終末期相談支援料の凍結を決めた時の中医協の答申書では、このような措置が再び起きないよう、診療報酬改定の趣旨や内容を国民に十分説明することを厚労省に求めました。しかし約10年後、同じようなことが繰り返されたのです。「診療報酬改定を行うに当たって、その目的や趣旨、内容を国民に十分理解されるように患者の視点に立って適切な対応をすることが必要で、妊婦加算の教訓を今後の議論に生かしたい」-。これは、妊婦加算がテーマになった19年12月20日の中医協・総会での支払側委員の発言です。今度こそ教訓を踏まえ、妊産婦の診療への新たな評価ができるでしょうか。

 

 

出典:医療介護CBニュース

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