2024.08.22
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介護職員の離職防止対策について

~菊地雅洋の波乱万丈!選ばれる介護経営~Vol.8

    

編集部より

介護事業の運営は厳しさを増し、利用者や職員の期待に応えられない事業所は、淘汰される時代に入っています。本コラムでは「masaさん」の名で多くの介護事業経営者たちから慕われる、人気介護事業経営コンサルタント菊地雅洋さんに、「介護経営道場」として、ある時は厳しく、あるときは優しく、経営指南を頂きます。

 

「菊地雅洋の波乱万丈!選ばれる介護経営」第8回は「介護職員の離職防止対策について」です。

2040年度には約272万人の介護職員が必要となるとされていますが、その実現は難しい見通しです。そんな中、少ない人材で対応するために介護DXを進める事業所もありますが、何よりも大切なことは、「人のためになりたい」「介護職員でよかった」と思えるような職場づくりです。人材不足や介護職員の離職にお悩みの方は必見です。

 

執筆/菊地雅洋(北海道介護福祉道場あかい花 代表)

編集/メディカルサポネット編集部

   

      

 

1. 2040年に必要とされる介護職員272万人は確保可能なのか?

人材不足のイメージ 

厚労省は7/12付で、「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」を公表した。

 

それによると2040年度には約272万人の介護職員が必要となるとされている。しかし直近の実績(2022年度)でその数は約215万人でしかないのだから、そこから約57万人増やさなければならない。それは毎年約3.2万人ずつ増やしていかなければ達せない数字である。

それに関連して少しだけ明るい情報がある。7/10に介護労働安定センターが公表した最新の「介護労働実態調査」では、昨年度の介護職員の離職率は、前年度より1.3ポイント低い13.1%となっており、この数字はデータを確認できた2007年度以降の最低で、全産業の平均は15.0%(2022年雇用動向調査)より低い水準となっている

  

しかし今年度は物価高等に対応し、民間営利企業が過去最高のベースアップを行い、アップ率は軒並み4%以上となっている。一方で介護職員等処遇改善加算による引き上げ率は2.5%でしかない。このことによって、介護事業者から他産業への転職が増えるという懸念もぬぐえず、昨年度の離職率の低下がそのまま、将来的に介護職員の必要数の確保につながる保証とはならない。むしろ少子化に歯止めがからず、生産年齢人口が減り続ける我が国において、全産業で労働力不足は深刻化することは確実で、介護職員の必要数の確保も困難であると考えるべきだろう。

 

2. 新たなステージに入った介護人材対策

そのような中で行われた今年度の介護保険制度改正と報酬改定の大きなテーマとして、介護人材対策が挙げられている。

この対策によって、2024年度から新しいステージに入ったと言えるのではないだろうか。これまでの人材対策とは、介護職員の処遇改善と業務負担の軽減を行って、何とか介護事業に張り付く人材を増やそうとするものであった。それは2042年あたりまで増え続ける要介護者の数に対応して、必要な人材数を確保しようとするものである。しかしそれは既に不可能であるという結論に達した。

 

よって必要な介護人材の確保などできないとして、それに替わる新たに対策を講じようというのが2024年度の介護報酬改定・基準改正だったのだろうと思う。介護人材は必要数確保できないことを想定したうえで、できるだけ介護難民が増えないように、人に替わるテクノロジーを導入し、生産性を向上させる対策が数多く打ち出されている。それはより少ない人員で、より高いパフォーマンスを実現して、要介護者の増大に対応させようとするものである。

 

3. 介護DXの主役はテクノロジーではなく介護職員

その為に必要とされるのが介護DX(デジタルトランスフォーメーション)=IT技術を人・組織・社会に活かす変革である。だが勘違いしてほしくないことは、DXの主役はテクノロジーではなく人間であるということだ

 

つまり介護DXとは、介護職員等が中心になってITテクノロジーを使いこなし、それにより生じた効果を十分に活かせるように、介護ビジネスモデルや組織体制、働き方を良い方向に変えていこうとするものである。そしてその目的は、「介護事業における生産性の向上」である。当然のことながら生産性の向上とは、効率よく結果を出すことであり、介護に生産性向上を求めるという意味は、ひとり一人の介護職員が効率よく介護の結果を出す=今より少ない人数と時間で、要介護者のケアを完結するという意味に他ならない。見守りセンサーやAI搭載ロボットを活用して、介護職員の仕事がやりやすいように変えて、今より少ない人員配置で、できる限り時間をかけずにケアを完結しようとしているのだ。

 

この具体策として行われているのが、見守りセンサーやインカム等を一定台数以上設置した介護保険施設や居住系施設において、夜勤職員の配置人数を緩和するというものである。緩和というと聞こえは良いが、要するに夜勤者の人数を減らすということだ…今後は、この配置人数緩和を夜間だけではなく日中も含めて全体に普及させようというのが介護DXの目指すところである。

 

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