2025.04.23
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第3回 看護マネジメントに欠かせない能力(後編)

現場で役立つ!看護マネジメント入門

第3回 看護マネジメントに欠かせない能力(後編)            

編集部より

看護管理を実践するには、患者さんに安全で安心な看護を提供するための優れたスキルだけでなく、看護師を適切に導くための現場管理、リーダーシップ、組織運営、コミュニケーションなどにまつわる力を身に付けることが求められます。

本連載では、看護師を適切に導くための現場管理、リーダーシップ、組織運営、コミュニケーション能力など、看護マネジメントに関するさまざまなテーマを解説しています。

今回のテーマは「看護マネジメントに欠かせない能力」の後編です。

 

日本看護協会が公表する「病院看護管理者のマネジメントラダー」には、管理者が身に付けておきたい6つの能力(組織管理能力・質管理能力・人材育成能力・危機管理能力・政策立案能力・創造する能力)が示されています。

これらを前編(第2回)と後編(第3回)に分けて解説します。

  

執筆株式会社ナレッジリング

編集メディカルサポネット編集部

          


  

  

1.危機管理能力

   

「危機管理能力」とは、予測されるリスクを事前に回避して安全を確保することに加え、万が一、危機的状況に陥った際にも影響を最小限に抑えるための能力を指します。

命を扱う医療現場では、患者さんやスタッフの安全を守るために欠かせない重要なテーマです。

  

「システム」に目を向ける

効果的な予防策を講じるには、まず自部署に関連する事故や問題のリスクを分析することが重要です。

例えば、呼吸器を扱う領域では人工呼吸器の設定ミスや吸引手技の誤り、代謝を扱う領域では食前の血糖測定やインスリン注射の失念などが考えられます。

各科の特性に応じて看護業務を見直すことで、より具体的な対策につなげることができます。

  

もう一つ重要なのは「ヒト」ではなく「システム」に目を向けること。個人の経験やスキルの差によって成果がばらつく対策は、十分な安全管理とは言えません。

誰が実施しても同じようにリスクを回避できる仕組み、つまりシステムを整えることが重要です。

システムを改善・再構築することは、自部署の安全管理にとどまらず、院内全体の安全対策にも展開できます。患者さんやその家族に安心・安全な医療を提供するためにも、発生した事案を正しく認識し、組織全体でリスク回避に生かしていく姿勢が欠かせません(システム理論については、今後の連載でさらに詳しく解説します)。

  

心理的な安全性を守る

予防策を講じてもヒヤリハットが発生する場合は、既存の予防策を再検討し、より実効性のあるものへとアップデートしていきます。

そのためには、スタッフ全員で発生事案を振り返り、問題点を共有することが有効な方法の一つです。今後、似たような状況に直面しても適切に対応できるように、リスク回避に対する意識や知識を高めておくことが肝心です。

  

振り返りの際に重要なポイントは、事実に基づいた情報を正確に共有することです。

あいまいな情報や憶測を含んでいると、誤った認識が広まり、それが新たなヒヤリハットを引き起こしかねません。また、特定の個人や状況を責めるような言動も避けたいところ。

管理者の配慮が欠けると、スタッフが正直に話しづらい雰囲気になってしまう可能性があります。

そもそもヒヤリハットの報告は、当事者を責めるためではなく、患者さんの安全を守るために行うもの。管理者の言動が組織の心理的な安全性を左右し、組織全体のリスク管理に強く影響することを常に意識しておきましょう。

 

慎重な情報管理と災害対策

危機管理には、情報管理も含まれます。

スタッフ一人ひとりが患者さんの機微な情報を適切に扱うことの必要性やリスクを十分に理解し、日々細心の注意を払うことが求められます。

具体的には、業務で必要な情報のみを閲覧できるように設定し、不必要な情報にはアクセスできないよう制限することなどが考えられます。

 

また、患者情報に関する会話は公共の場では控える、不要になった紙の記録はシュレッダーなどで適切に処分する、退職者のアクセス権を速やかに解除して情報漏洩のリスクを防ぐ、といったことも大切です。

情報を適切に管理することは、患者さんに良質なケアを提供することと同じくらい、信頼関係を築く上で重要です。

「分かっていたつもりだったのに……」という不注意を防ぐためにも、ヒヤリハットの事例を共有しながら、スタッフ全員で情報管理の意識を高めることが求められます。

  

また、災害発生時に備えることも忘れてはなりません。

近年、患者さんの情報は電子機器に保存することが一般的ですが、この方法だけに頼っていると、突然の災害で電子機器が使えなくなった時に患者情報を確認できなくなる恐れがあります。

災害時にも必要な情報を把握できるように、定期的な紙ベースでのバックアップ作成、非常用電源の確保、オフラインで利用可能な情報管理システムの導入など、複数の対策を講じておきましょう。

備えが万全であれば、非常時においても慌てずに患者さんを守ることができます 

  

2.政策立案能力

 

  

「政策立案能力」とは、看護の質向上や職場環境の改善を実現するために、制度や政策を活用したり立案したりする能力のことを指します

 

現行のルールを知る

医療サービスは国の法律や制度に基づいて提供されるため、管理者はそれらの内容を正しく理解しておくことが重要です。

医療に関連する現行の法律・制度は多岐にわたるため、折に触れて重要なポイントを確認するとよいでしょう※1。

また、国や自治体が定めるものの他に、院内で独自に設けられるルールもあるでしょう※2。

これらを現場で活用することは、スタッフの成長や生活の安定に大きく寄与し、安定的な医療体制の構築につながります

  

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