2024.10.17
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利用者ニーズをどのように捉え、どう応えるべきかを考える

~菊地雅洋の波乱万丈!選ばれる介護経営~Vol.10

    

編集部より

介護事業の運営は厳しさを増し、利用者や職員の期待に応えられない事業所は、淘汰される時代に入っています。本コラムでは「masaさん」の名で多くの介護事業経営者たちから慕われる、人気介護事業経営コンサルタント菊地雅洋さんに、「介護経営道場」として、ある時は厳しく、あるときは優しく、経営指南を頂きます。

 

「菊地雅洋の波乱万丈!選ばれる介護経営」第10回は「利用者ニーズをどのように捉え、どう応えるべきかを考える」です。

介護保険制度上、介護支援専門員は利用者援助に際してアセスメントを行わねばならないとされており、そのためには介護支援専門員は、介護サービスが提供された後の、利用者の感情に敏感になる必要があり、モニタリングでは、この確認を行う必要があります。しかし、人間の感情と向き合うのは難しいことであり、利用者と真摯に向き合い、感情のあり様を確かめ、何を求めているかを想像することに心を砕かねばなりません。今回は菊地さんご自身のエピソードも交えながら、心がけるべきポイントを、解説していただきました。

 

執筆/菊地雅洋(北海道介護福祉道場あかい花 代表)

編集/メディカルサポネット編集部

   

      

 

1. 介護保険制度における利用者のニーズ把握の原則と困難性

利用者の希望を聞く職員

 

介護保険制度上、介護支援専門員は利用者援助に際してアセスメントを行わねばならないとされており、アセスメントの意味は、「解決すべき課題の把握」と規定されている。(※厚生省令第三十八号第十三条第七号)つまりアセスメントは利用者ニーズを把握する手段とも言えるわけである。介護保険制度では課題分析標準項目(23項目)が定められているので、これさえ網羅されておればどのような方式を用いても法令上のアセスメントとして認められることになる。しかしどのようなアセスメントツールを用いても、それだけで利用者の解決すべき課題を完全に抽出することは困難だ

 

なぜなら生活課題が解決し、利用者の生活の質が向上するためには、サービス利用の結果、利用者が満足感を持つことができたという感情が大きく影響するからである。そうした感情はアセスメントツールでは引き出せない部分である。しかも介護サービスは目に見えないサービスなだけに、その結果は使ってみないとわからないという部分がある。だからこそ介護支援専門員は、介護サービスが提供された後の、利用者の感情(満足感や拒否感など)に敏感になる必要があり、モニタリング(実施状況の把握)では、この確認を行う必要がある

 

だが厄介なことに、人の感情・気持ちの持ちようほどわかりづらいものはない。人間というのはなかなか複雑な生き物で、思っていることをなんでも口にできる人はそう多くはなく、表現したい気持ちの1/100も口にできないというもどかしい思いを抱えている人も少なくない。さらに自分の気持ちと正反対のことを言ったり、思ってもみないこと口にしたりする人もいる。

 

そうであっても介護サービス利用者の方々は、口にできない気持ちを含めて、自分が思っていることすべてを支援者が気づいてくれることを期待する。だからこそ介護支援者は、その思いを汲み取る努力が求められるのである。利用者と真摯に向き合い、感情のあり様を確かめ、何を求めているかを想像しなければならないのだ。ここはアセスメントツールで引き出せない部分である。介護支援専門員はそうした部分が存在することを理解しなければならないのである

 

2. デマンドとニーズをどのように見分ければよいのか

2つの要素を比べる画像 

介護サービス利用者とひと言で言っても様々な方が居て、中には何が何でも自分の思い通りにならないと気が済まない人がいる。「自分には○○サービスが必要なのだ」となんとしてもその我を通そうとする人がいる。それが必要性のあるサービスなら何も問題ないのだが、そうではない場合も少なくない。例えば自分で動くことができる人が、ギャッジベッドやオーバーテーブルを望んでも、それニーズとは言えないどころか、自ら身体機能を衰えさせることに繋がりかねない。よってそうしたサービスは過剰サービスとして許されていないことを、やんわりとかつ丁寧に説明することに腐心している介護支援専門員の方々も少なくないだろう。

 

しかしその一方で、利用者が口にする希望を単なるデマンドとして切り捨てることにより、利用者の生活支援が空回りして、生活課題の解決に結びつかないケースも生まれてくる

そもそも希望とは、人が生きるうえで最も必要なものであり、意欲をわかせる拠り所になるものである。それをいとも簡単に切り捨てるのがケアマネジメントではないし、それをしてしまえばケアマネジメントは人の思いを切り捨て、人の暮らしに制約を与える罰則のような存在になってしまう。そうではなくケアマネジメントという手法を使う専門家には、夜空を優しく照らす月のように、利用者にとっても灯(ともしび)であってほしいと願う

 

人が生きることは、その人が持つ課題を解決することではなく、何らかの問題点があったとしても、それを抱えながら自分が望む暮らしを送ることである。それなのに要介護者となって、居宅ケアマネジャーにサービス計画の作成を依頼した途端に、自分が望むことにあれこれといちゃもんをつけられるようになる。・・・これは「介護保険制度上のルールだから仕方ない」とバッサリ斬ってよい問題なのだろうか。

 

僕はそうは思わない。利用者や家族が口にするニーズと、ケアマネジャーが考えるニーズが違うことはよくある。それをすり合わせるのがケアマネジメントの一つの目的である。だがその時に、ケアマネジメントの専門家であるケアマネジャーの考えるニーズが、利用者の真のニーズとは限らない。なぜならケアマネジャーは対人援助のプロであり、ケアマネジメントの専門家であったとしても、利用者の暮らしという極めて個別性の強い部分の専門家ではないからだ

 

個人の暮らしの専門家は、その暮らしを送る当事者でしかない。その人しかわからないことが多々あるのだ。利用者の暮らしの専門家は、利用者自身なのである。しかもいくら信頼関係を築いたとしても、利用者がケアマネジャーに対し、すべてを本音でさらけ出すとは限らない。人には口にできない、隠しておきたいことがあるものなのだ。ここをすべてアセスメントによってあぶりだすことなんてできるわけがない。

 

ケアマネジメントは、人と社会資源をつなげる手法であるが、感情を持つ人に合致する社会資源は、機械的に結びつけてもうまくいかないことが多いのである。そのため結びつける際の慎重なアプローチとアクセスは不可欠になるのだ。

 

ここはAIがとって替われないところではないだろうか。利用者や家族の意向を、そのままプランニングするのではなく、その意向をきちんと課題分析して、自立支援に資する課題を把握しなければならないとは言っても、アセスメントツールは自動的に自立支援に資する課題や、利用者ニーズを抽出するほど絶対的なものではない。仮にAIを搭載したケアプラン作成支援ソフトを使ったとしても、それらは自動抽出できるものではないのである。「自立支援に資する課題」の把握や、「デマンドよりニーズを引き出す」という作業自体は、最終的に計画担当者の主観によっても左右されるものであり、それが正解かどうかは誰にもわからない

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